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シャープには、30年間続くプロジェクト運営体制「緊急プロジェクト」がある。このプロジェクトはクロス・ファンクショナル・チーム(CFT)で組織する。古くは前面からビデオテープを出し入れできるビデオデッキ、最近では左右開き冷蔵庫といったヒット商品を生み出してきた。ここへきて、この対象を広げ、環境対策など企業価値向上策にも使い出した。

 除菌イオン空気清浄機、携帯端末向けの地上デジタル放送「ワンセグ」に対応した「AQUOSケータイ」―。シャープにおける最近のヒット商品には共通点がある。緊急プロジェクト、通称「緊プロ」による成果であることだ。

緊プロから生まれた加湿空気清浄機の最新機種「KC-51CX」と、ワンセグ対応の携帯電話「AQUOSケータイ」
緊プロから生まれた加湿空気清浄機の最新機種「KC-51CX」と、ワンセグ対応の携帯電話「AQUOSケータイ」

 緊プロは、事業部や研究所の組織の壁を越えて最適な人材や技術を集めてチーム編成するもの。30年も前の1977年に制度化され、常時10テーマが同時進行している。「対象となるのは、あと一歩のところで製品化でき、かつ市場で他社に優位に立つために時間短縮が必要なもの」と、緊プロを担当する太田賢司専務は話す。

 緊プロの決まり方はこうだ。1~2年で製品化できるものの課題が残っている商材を持つ事業部が、リーダーを選ぶとともに協力が必要な部門を決めてチーム案を作る。それを全事業部のトップらが集まる場である総合技術会議に提案し、承認を得られれば社長直轄組織として活動できる。そして、経営幹部に対して進ちょくを毎月報告する。

 緊プロは新製品開発を急ぐためだけでなく、人材育成の側面もある。リーダーには若手や中堅社員が選ばれることが多いが、「ヒト・モノ・カネ」に対して役員並みの強い権限が与えられる。他事業部の人材や技術を投入できたり、ある程度の設備投資を決裁できるといった具合だ。現在の副社長3人のうち2人が緊プロ経験者である。町田勝彦社長が「シャープの基本中の基本」と位置づけるぐらい、強さを生み出す組織として社内に根付いている。緊プロを通じてシャープ流の開発手法や考え方を代々受け継いでいく場なのだ。

業界初の試みに挑戦

 緊プロの対象は長らく新製品開発に絞ってきたが、ここへきて対象範囲を広げた。企業競争力の維持・向上には、目先の新製品ばかりでなく、CSR(企業の社会的責任)への対応など中・長期的な施策にも力を入れる必要が生じてきたからだ。

●シャープにおける緊急プロジェクトの概要と30年間の進化
●シャープにおける緊急プロジェクトの概要と30年間の進化
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 対象拡大の第1弾が、廃プラスチックの再利用に向けた取り組みだ。プラスチックは洗濯機であれば重量比で4割を占めるなど、白物家電では主要な部材である。2001年4月に家電リサイクル法が施行され、洗濯機や冷蔵庫など4品目の回収が義務付けられた。だが、家電への再利用が進んでいたのは金属類が中心だった。プラスチックは回収後、雑貨などほかの製品として再利用していた。

 シャープは企業ビジョンに「2010年地球温暖化負荷ゼロ企業」を掲げている。環境にやさしい材料を使う体制をいち早く整備する必要があった。

 緊プロが目指したのは、循環型の資源利用である。具体的には、まず廃家電を回収し、その部材であるプラスチックを取り出し、劣化を修復して、新製品に使用する。業界初の試みだった。

 リーダーに指名された環境技術開発部の隅田憲武部長は、「課題は、回収した家電からプラスチックを効果的に取り出すための技術開発と再生材を新製品にどう展開するかだった」と明かす。回収を担当するのは、シャープが筆頭株主である関西リサイクルシステムズ(大阪府枚方市)で、新製品を開発するのは白物家電の事業本部と別の部門が担当していた。

1分以内に解体できる治具を開発

 2003年8月に緊プロとしてスタートし、隅田部長と同じ環境安全本部の2人に加え、白物家電の事業本部からプラスチックなど材質に詳しい担当者、関西リサイクルシステムズの担当など7人を集めた。期間と目標は決まっていた。期間は2004年9月までの1年強の間で、廃家電からプラスチックを回収し、家電の新製品の部材に活用できるサイクルを確立すること。加えて、回収量を2005年度末までに年500トンにまで引き上げることだった(2002年度実績は年80トン)。

プラスチックリサイクルの緊プロを率いた環境安全本部環境技術開発部の隅田憲武部長(左)と緊プロのメンバー(中央)。右は回収した洗濯槽を分解するところ<br>写真撮影:竹内 由美子(左と中央)
プラスチックリサイクルの緊プロを率いた環境安全本部環境技術開発部の隅田憲武部長(左)と緊プロのメンバー(中央)。右は回収した洗濯槽を分解するところ
写真撮影:竹内 由美子(左と中央)

 従来の廃家電の解体は手作業だった。洗濯機では1機種当たり2~3分かかり、プラスチックなど部材回収率も50%程度で、作業者への負荷も大きかった。解体道具の開発で課せられたのは1分以内に95%の部材を回収できるようにすること。廃家電から歩留まりよくプラスチックを回収できるかどうかは、この治具にかかっていた。

 部材回収といってもそう簡単ではない。廃家電はシャープ製品だけでなく他社製品も含まれている。年式や形式もバラバラで、プラスチックが使われている個所も形状も異なる。そこでまず1000機種の洗濯機を対象にどのような構造なのか調査することから始めた。

 その結果、様々な構造に対応するために、ワインのコルクを抜くように真上から洗濯槽を引き抜く方式が最も歩留まりが高いことが分かった。緊プロはここで人材投入権限を生かし、関連会社を含めた社内から設備に詳しい人材を集め、部材回収装置の開発を進めた。採用されたのは、災害救助用の油圧装置を応用したものだった。

緊プロを見つけ出す「種まき」も開始

 緊プロは、回収プラスチックを新製品に再利用させる際にも、その力を発揮した。実は緊プロ内部では当初、新製品への再利用を2004年の年末商戦に投入する商品からと考えていたが、回収量が増えてきたために、約半年繰り上げた。問題は白物の事業本部が再生材の活用を受け入れるかどうかだ。設計者にとってみれば要領が分かるこれまでの材質を使いたいのがやまやまだ。

 そこで、白物家電を担当する電化システム事業本部から緊プロに加わった材質の専門家である高坂宏係長が、廃家電から回収したプラスチックでも、添加剤を配合することで新品同様の性能があることを実証する実験データを持って交渉に当たった。

 当時、2004年の経営方針説明会で町田社長が環境先進企業を目指すというビジョンを表明した時でもあった。緊プロはビジョンに沿った具体策でもある。通常のプロジェクトであれば、環境安全本部から白物の事業本部への「提案」にすぎない。再生材を使うかどうかは各本部に委ねられる。だが、緊プロは社長直轄組織であり、半ば強制的に使うことを要求できる。緊プロの“金バッジ”効果は大きい。さらに追い風となったのは、原材料の高騰だった。「リサイクル材なら常に同じコストで買える」(高坂係長)と説得した。

 こうした取り組みにより2004年6月に発売した冷蔵庫では、仕切りパネルなど4つの部材を再生材に切り替えた。同時期には洗濯機の洗濯槽については新製品のほぼ全量に再生材を配合した。2003年8月にプロジェクトを開始してから1年もたたずに市場に送り込めたわけだ。

 その後、再生材の対象部材を増やし、最新型の冷蔵庫では8部材までに広げた。対象製品におけるプラスチックの成形品のうち2割を再生材に代替できるまでになった。より再生材を増やせるように設計段階から工夫し始めている。

 同社は2003年から新しい事業の芽を探し出すための社内提案制度ともいえる「SDT(シャープ・ドリーム・テクノロジー)」を始めた。緊プロは、短期間で収益を上げることを求められる。これに対してSDTは期間も結果も厳しく問われない。「技術者はアイデアを多く持っているが、日々の業務に忙殺されて埋もれている。緊プロのネタ探しでもある」と太田専務は語る。新しい分野の基礎技術の種をまいておくことで、絶えず緊プロが組める環境づくりを目指す。

太田 賢司 専務
おおた けんじ氏●1973年4月 シャープ入社。2001年6月取締役技術本部長。2003年5月常務取締役技術本部長。2005年5月代表取締役専務取締役。2006年4月代表取締役専務取締役技術担当

SDTは将来の緊プロの種まき役

 私自身も係長だった30歳代に光磁気ディスクの実用化に向けた開発で緊プロを率いたことがある。原価計算をしたり、試作品を持って顧客に出向いたりと、普段の研究開発では得られない経験ができた。事業とはどういうものなのかを認識した。

 1977年に緊プロが発足してから30年たつが、運営方針は守り続けている。ただし一方で、絶えず緊プロが組めるよう、種となる基礎研究開発を活性化する環境を整えてきた。

 その1つが、SDT(シャープ・ドリーム・テクノロジー)である。日常業務に追われる技術者が温めているアイデアを拾い上げるための取り組みだ。

 背景には商品サイクルが短くなってきたことがある。以前は仮に他社の製品動向を見てからでも、勝つために緊プロを組んでも間に合うくらい長かった。今はそれではとても間に合わない。年々商品サイクルも短くなっていくなかで、ネタをどんどん探さなければ、消費者に驚きのある新製品を提供できない。SDTが将来の緊プロの種まきの役割を果たす。

 もう1つSDTの狙いは、主力事業である液晶以外にも取り組んでいる者の動機付けである。液晶に匹敵する新しい柱が、こうした取り組みから生み出されることを期待している。(談)