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 鉄道貨物輸送を展開する日本貨物鉄道(JR貨物)。旧国鉄時代から引き継がれてきた旧来の業務体制の刷新を目指して,1994年からIT改革を柱とする業務の抜本的な見直しを段階的に実施してきた。紙ベースで行ってきた貨物輸送管理や,担当者の経験値に依存していた発送時の調整業務などを電子化および自動化する改革である。

 「IT-FRENS&TRACE」と名付けた業務システムは2005年8月に最終形が完成し,現在までに業務改革の効果が出始めてきている。JR貨物のシステム概要とその効果を担当者に聞いた。

コンテナの一元管理が第一の目標

 JR貨物が手がける鉄道貨物輸送の形態は,コンテナ輸送が主流である(写真1)。実際,同社の輸送トン数の約6割をコンテナ車が占める。各貨物駅では大量のコンテナが積み降ろしされて散在し,かつ様々な運輸業者が出入りする中で,コンテナの荷役に伴う管理業務が重要となる。システムの構築にあたっては,先ず各貨物駅内におけるコンテナの荷役業務とコンテナの所在管理を徹底し,これを本部で一元管理することを目指した。

写真1●JR貨物が輸送するコンテナ
写真1●JR貨物が輸送するコンテナ
コンテナを貨物列車で輸送する業務が6割を超える。
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 2000年4月まで,コンテナの管理は荷票と呼ばれる紙を用い,貨物駅に常駐するスタッフがコンテナの番号や行き先などを手書きで記載する方法を採っていた。「人手も時間もかかるうえ,荷票に書かれたコンテナが見当たらない場合は,見つけ出すまでに多大な労力を費やしていた」(日本貨物鉄道 IT改革推進室 室長代理(統括)の西村公司氏)という。

 人海戦術からシステム化への転換として,まず2000年2月に,ICタグを用いてコンテナを列車へ積載する際の情報登録を自動化するシステムの開発に着手。そして試行錯誤や改良のうえ2004年1月に正式に稼働したシステムが「IT-FRENS&TRACE」である。

 IT-FRENS&TRACEは現在,全国で約120の貨物駅に導入されており,主に2つの役割を果たしている。1つは,フォークリフトの荷役作業やコンテナの位置情報をリアルタイムに把握すること。フォークリフトにはGPS(全地球測位システム)機能を搭載し位置を管理するとともに,コンテナや貨車(コンテナ車)にはそれぞれの登録番号を書き込んだICタグを装着。これによりコンテナごとのリアルタイム管理が可能になった。2つ目はコンテナをどの列車のどの車両に積み込むのかを特定する,予約管理の実現である。

ICタグとGPSの活用で,コンテナの現在位置をリアルタイムに把握

 IT-FRENS&TRACEシステムは,3回にわたって機能を追加しながら導入を進めてきた。2004年1月の1次リリースでは,コンテナなどのICタグ情報をGPS位置情報を基にしてシステム上でマッピングし,フォークリフトに搭載した専用端末で位置を閲覧できるシステムを導入した。次いで2005年1月の第2次リリースでは,予約機能を1994年に導入した従来のシステムから新版に入れ替えた。そして2005年8月には,貨物駅を利用するドライバーが輸送の予約や,作業内容の確認などを行うドライバーシステムを含む最終版をリリースした。

 IT-FRENS&TRACEシステムでは,ICタグやGPSの機能を活用してフォークリフトの荷役作業やコンテナの位置情報管理の効率化を図った。具体的には,鉄道輸送に利用する約9万6000個のコンテナ(JR貨物所有は約7万5000個,運輸会社などの所有が約2万1000個)や,約8000両のコンテナ貨車,および貨物駅を利用する運輸会社の約2万台におよぶトラックすべてに,それぞれの登録番号を書き込んだICタグを装着した。また,JR貨物の場合,貨物駅内での荷役はすべてフォークリフトが担っているため,約540台ある全フォークリフトに,ICタグのリーダーとコンテナの上げ降ろしを感知するセンサー,GPS装置,さらにモバイル通信用のアンテナを取り付けた。

 実際の動作はこうだ(図1)。フォークリフトが積み降ろしするコンテナの至近距離まで来ると,コンテナに取り付けたICタグの情報をフォークリフトのICタグリーダーが自動的に読み取る。積み降ろしする際には,コンテナのICタグに加えて貨車やトラックに取り付けたICタグの情報も同時に読み取る。フォークリフトのセンサーはその際の動作を感知して,積んだのか降ろしたのか,あるいは複数のコンテナを積み上げた際は何段目に置いたのかを特定。これと同時に,フォークリフトに取り付けられているGPS装置から現在の位置情報を取得し,ICタグから読み取ったコンテナや貨車の固有の番号情報などとともに,モバイル通信を使ってセンターへ送信する。

図1●JR貨物の「IT-FRENS&TRACE」
図1●JR貨物の「IT-FRENS&TRACE」
駅で荷役作業を担うフォークリフトをハブにして,ICタグおよびGPS情報をセンターとやり取りする。フォークリフトからセンターへの通信は,駅の規模により無線LANと公衆PHSを使い分ける。
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 これらの仕組みによりセンター側では,フォークリフトがコンテナをどこに置き,どの貨車に載せたのか,あるいは貨車にどれくらいコンテナが載せられ,あとどれくらい積載する余裕があるのかを一元的に把握できる。

 コンテナの情報を一元管理することで,貨物駅を利用するトラックドライバーへの情報提供も可能になった。ドライバーごとに付与したIDカードを「ドライバーシステム」と呼ばれる端末に挿入すると,当日の作業内容がディスプレイに表示されるとともに,自身が担当するコンテナの番号と所在位置がIDカードに書き込まれ,配達伝票が出力される。どこにコンテナを降ろし,どこからピックアップすればいいのかがすぐに分かる仕組みだ。

 また,予約管理の機能も向上させた。利用者である運輸会社側から,コンテナを輸送する貨物列車を事前にインターネット経由で予約できるようになり,登録された予約情報はセンターで集約。さらにこの情報はモバイル通信を介してフォークリフトへフィードバックすることで,予約と荷役業務が連動できるようになった。荷役業務スタッフはフォークリフトが備える専用ディスプレイ端末で情報を確認しながら,予約内容に従った業務を遂行できる。

 JR貨物では,ICタグシステム構築の成功のポイントして,ICタグに書き込む情報を最小限にとどめたことを挙げる。「ICタグに貨物の行き先など可変情報を書き込んでしまうと,運用上のリスクが高まる。書き込む情報を間違ってしまったり,古い情報を消し忘れてしまった場合,情報を修正するために輸送中のコンテナを追跡するなど大きな手間がかかる。また,情報漏えいのリスクも高まる」(西村氏)。

 そこでIT-FRENS&TRACEでは,ICタグに詳細な情報を書き込むのではなく,センター側で可変情報を集中管理する方式を採用した。登録された情報に何か変更が生じたり,誤りがあったとしても,センターサーバーへアクセスすれば,すぐに情報を更新できるというわけだ。