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ネットワーク刷新とともに社内の内線電話網をIP電話で一気に構築したダイショー。全国45カ所に散らばる約600名の社員に用意したのは550台のソフトフォンと150台の固定IP電話機。コスト削減を目的として検討したIP電話だが,今では生産性を向上させるための戦略ツールとなっている。

 塩・コショーや焼き肉のたれなど調味料の製造・販売を手がけるダイショー。同社がIP電話の導入を検討し始めたのは2005年3月ころ(図1)。これより前から,データ系のネットワークの強化が重要課題となっていた。

図1●IP電話導入の検討から選定,導入までの経緯
図1●IP電話導入の検討から選定,導入までの経緯
全体の完成度から見るとシスコやNECの機器の方が正直勝ってたが,最終的に日立コムのSIP:OFFICEを選んだ。

 同社は,大規模拠点7カ所をフレーム・リレー網で接続し,それ以外の拠点はインターネットVPNでつないでいたが,「品質や帯域,セキュリティの観点からも強化していかなくてはならない」(ダイショー管理本部の渡辺大我係長)と考えていたという(写真1)。

2強押しのけ日立コム製品を採用

写真1●ダイショー管理本部の渡辺大我係長
写真1●ダイショー管理本部の渡辺大我係長

 ただし,単純にネットワークを強化すれば費用が倍増するのは目に見えている。どうすればこの費用をねん出できるか。この答えとして出てきたのが音声回線の統合だった。これまで内線は,大規模拠点間を除く拠点間で公衆網を介してやり取りしていたためだ。

 2005年夏,いくつかのベンダーに提案を呼びかけた。最終的な候補として残った機器は,シスコの「Unified CallManager」,NECの「UNIVERGE[ユニバージュ]」,そして日立コミュニケーションテクノロジー(以下,日立コム)の「SIP:OFFICE」である。「国際的に実績のあるシスコ,国内ではシェアの高いNECの方が正直,全体の完成度から言えば勝っていた」(渡辺係長)にもかかわらず,同社はSIP:OFFICEを提案した西部電気工業の提案を採用した。

 この決定の背景には,渡辺係長の意識の変化があった。IP電話について調べたり,ベンダーの説明を受けたりするにつれ,「コスト削減だけでなく,プラスアルファが望めるのでは」(渡辺係長)と徐々に意識が変わっていったという。「コスト削減」から「生産性の向上」へ。これを実現するにはソフトフォンが最適と思うようになった。

 「ハードに縛られたくない」(渡辺係長)という気持ちもあった。固定IP電話機は導入すればリースであれ,買い取りであれ,減価償却が必要になる。その数年の間に業務はどんどん変わるが,やりたいことができてもすぐには対応しにくい。ソフトフォンならバージョンアップで対応できる可能性がある。

 こうした同社の要望にうまく応えたのが,SIP:OFFICEを提案した西部電気工業だった。

 例えば,ソフトフォンを提案したのは西部電気工業だけ。さらに,SIP:OFFICEの設計がオープンで,自社で使っているアプリケーションとの連携を可能にするAPIを公開してくれる点も評価した。アプリ連携に関しては,他社はセットで提案してくるなど,囲い込みたいという意向が見られたという。APIさえ公開してくれれば,自分たちで開発したり,ほかのベンダーに作ってもらったりと自由度が高い。

拠点規模に見合った投資

 これまで使っていたフレーム・リレーとインターネットVPNの代わりに導入したのは,NTTコミュニケーションズの「Arcstar IP-VPN」と「Group-VPN」( 図2)。本社や工場,中規模拠点はアクセス回線に専用線を使うArcstar IP-VPN,小規模拠点はアクセス回線にBフレッツやフレッツ・ADSLを使うGroup-VPNで接続した。

図2●IP電話導入で内線電話コストを削減
図2●IP電話導入で内線電話コストを削減
ネットワークをフレーム・リレー/インターネットVPNの組み合わせからIP-VPNに移行。小規模拠点はアクセス回線にBフレッツ/フレッツ・ADSLを利用することでコストを抑えた。外線発信は本社のみNTT西日本の「ひかり電話」を利用する。
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 すべての拠点をIP-VPNで接続しなかったのは単純にコストの問題。ほとんどの拠点は10名以下と小規模のため,専用線を引くまでもないと判断した。その結果,小規模拠点では原則Bフレッツを採用したが,Bフレッツのエリア外である三重営業所と松江営業所の2カ所だけはフレッツ・ADSLを利用している。

 SIPサーバーは福岡本社内に設置し,障害時を考慮し冗長化した。内線電話はすべてIP化し,外線発信は本社のみNTT西日本のひかり電話を利用。そのほかの拠点は外線発信用にISDNやアナログ回線を残した。各拠点でひかり電話を契約するとコストが見合わなかったという。

 本社や工場ではレガシーのPBXと連動する構成にした。工場内には放送で呼び出す設備があるが,これまでは電話とPBX,放送設備をつなげて電話経由で放送していた。現在はPBXゲートウエイを設置し,ソフトフォンから呼び出せるようにしている。

 これまでに中規模拠点,小規模拠点の合計30カ所をIP化した。これに伴い使ってきたPBXは撤去した。ただし,リースの関係上,10カ所の小規模拠点はPBXと並行運用している。外線発信と内線発信を完全に切り分けて運用する構成を取っている。ただ,これらの拠点も順にPBXを撤去し,あと3年ほどですべてIP化する予定だ。

ひかり電話が15秒で切れてしまう

 IP電話の導入に関して目立ったシステム上のトラブルはなかった。ただ,2006年11月に福岡本社のひかり電話で外線から着信した電話が強制的に切断されるという障害が発生した。

 現象はこうだ。外線から着信した電話をとり,いったんパーク保留する。ほかの人がパークボタンを押してその電話に出ると約15秒で切断されてしまう。原因が特定されるまでの2日間,外線から着信した電話をISDN回線に転送してしのいだという。

 原因はIP電話の設定ミス。ひかり電話ではRTCPと呼ぶプロトコルを使っており,受信者側から送信者側に定期的にパケットを送信し,伝送レートの調整を行っている。RTCP信号の送信機能をオフにして使っていたのが原因だった。NTT西日本が2006年11月に局側設備のファームウエアをアップデートしたことで表面化した。

アプリ連携を積極活用

 SIP:OFFICEの導入後,同社は当初の予定通り,アプリケーション連携に力を入れた( 図3)。公開してもらったAPIで,Lotus Notes/Dominoで利用していた社員名簿やメールなどとSIP:OFFICEを連携させた。

図3●導入検討時から重要事項に掲げたアプリケーションとの連携
図3●導入検討時から重要事項に掲げたアプリケーションとの連携
Excelの取引先電話番号から「発信する」ボタンをクリックしたり,受信したノーツメールの「返電」ボタンを押したりするだけでソフトフォンが起動し外線・内線発信ができる。
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 例えば,メールの場合は受信メールを開いたメニューに「返電」というボタンを作った。電話で確認したいときはボタンを押すだけでソフトフォンが起動し,メール送信者に内線電話をかけられる。

 Excelも同様だ。取引先一覧の電話番号のセルを選択した状態で「発信する」ボタンを押すと,スムーズに外線発信できる。

電話はライフラインではない

写真2●採用した大型のハンドセット
写真2●採用した大型のハンドセット
USBケーブルでパソコンとつなぐ。ソフトフォンの違和感を抑えるためにあえて生産が終わっていた旧式で大型のハンドセットを追加発注した。

 ソフトフォン用のハンドセットは意図的に旧式で大型の製品を選んだ(写真2)。「ソフトフォンを導入することで,電話の利用環境は大きく変わる。だから,せめてハンドセットだけでも従来の電話の受話器と同じように大きく,感触が違わないものにしたかった」(渡辺係長)のが理由だ。そのため,生産が終わっていた製品をわざわざロットで追加発注した。

 今回導入したソフトフォンについて,社員はおおむね満足しているという(図4)。もちろん,「パソコンを起動しないと使えない」,「電話が取れなかったり音が途切れたりする」といった不満もあるが,これらは想定内だ。


図4●社内アンケートでは約7割が便利になったと回答
図4●社内アンケートでは約7割が便利になったと回答
同社が実施したIP電話に対する意識調査の結果。回答者は社員600名のうち191人。

 「オフィスの電話はライフラインという考え方が強いが,連絡手段はメールや携帯電話などで冗長化してある。数あるコミュニケーション手段にIP電話を一つ追加しただけ」(渡辺係長)という考えだ。実際,同社はSIP:OFFICEの導入と同時に,ウィルコムのPHS端末400台を営業社員向けに導入するなどして,別の面からもコミュニケーション手段を強化している。

 今回のシステム導入にかかった費用は電話の部分で8000万円,ネットワークの部分で5000万円の総額1億3000万円。ネットワークの刷新,IP電話の導入によって,毎月のランニングコストは数十万円ほど増えたが,「ネットワークを相当増強できたし,十分ペイできる」(渡辺係長)という。むしろ今後はソフトフォンの機能連携をフル活用することで生産性を向上させ,費用対効果を高めていく計画だ。