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 インターネット上の広告代理業務の先駆けで,ネット企業の代表的存在として知られるサイバーエージェント。同社は2007年2月にNECの仮想PC型のシン・クライアント・システム「VirtualPCCenter」を導入した。ユーザーごとに異なるパソコン環境を仮想的にサーバー上に用意することで,社員が自由にアプリケーションをインストールできる環境を実現。管理コストも約3分の1に削減できる見込みだ。まずは共通部門である経営本部に約70台のシン・クライアント端末を導入,今後は全社展開も検討している。

拠点間の行き来でPCの紛失の恐れ

写真1●サイバーエージェント経営本部コーポレートIT室の粕谷昌男マネージャー
写真1●サイバーエージェント経営本部コーポレートIT室の粕谷昌男マネージャー

 サイバーエージェントがシン・クライアントの検討を始めたのは約1年前。きっかけは「情報セキュリティ対策を強化する必要があったから」(経営本部コーポレートIT室の粕谷昌男マネージャー,写真1)。

 同社は渋谷近辺に4カ所のオフィスを持つ。オフィス間での社員の行き来が頻繁で,移動のたびにパソコンを持って歩くことが多い。「パソコンの紛失や盗難を恐れていた」(粕谷氏)。

 別の目的としては,パソコンの管理コスト削減もあった。同社の従業員はアルバイトと派遣社員を含めると約800人ほど。年間で200人から300人ほどが新規に入社し,入れ替わりもある。「毎月入社があり,パソコンのセットアップやサポート業務が負担になっていた」(粕谷氏)。同社の管理体制は,コーポレートIT室の社員5人と業務委託先の社員3人のみ。パソコンの故障のサポート業務も増え,運用に限界が見えてきていた。

従来と同等の環境を引き継ぐ

 シン・クライアントをその仕組みから分類すると,(1)画面転送型,(2)ブレードPC型,(3)仮想PC型,(4)ネットブート型──の4タイプが存在する。粕谷氏は,「検討を始めてからすぐに,導入するなら仮想PC型しかない」と決断したという(図1)。その理由は,サイバーエージェントがシン・クライアントの導入に当たって最も重視した要件が「従業員一人ひとりがこれまでパソコンで利用していた環境をそのまま引き継げること」(粕谷氏)だったからだ。同社は,社員が自由に創造性を発揮できるような業務スタイルを目指しているので,臨機応変に社員がソフトをインストールできる環境は欠かせなかった。この要件から,社員が自由にアプリケーションをインストールできない画面転送型とネットブート型は選択肢から消えた。

図1●サイバーエージェントが仮想PC型のシン・クライアントを選択した理由
図1●サイバーエージェントが仮想PC型のシン・クライアントを選択した理由
社員が自由にアプリケーションをインストールできる環境を維持したい,管理の手間を最小限したいという目的から,仮想PC型が最適だった。  [画像のクリックで拡大表示]

 各ユーザーごとにOSとアプリケーションの領域を用意できるブレードPC型と仮想PC型が選択肢に残ったが,管理の手間を比較した結果,仮想PC型が最適という結論に達した。「物理的にPC環境が分かれたブレードPC型よりも,仮想的に環境が分かれた仮想PC型の方が管理しやすい」(粕谷氏)という判断だ。

 同社は仮想PC型に絞って数社のベンダーから提案を募り,最終的にNECの提案を採用することにした。粕谷氏は「NECはクライアント端末も含めてトータルなシステムを持っている。シン・クライアントに賭ける熱意も一番強かった」と選択の理由を語る。

帯域向上のためWANも刷新

 サイバーエージェントが構築したシン・クライアント・システムは,各ユーザーのOSとアプリケーション領域を仮想的に確保したサーバーをデータ・センター内に設置し,ネットワークを経由してクライアント端末に画面情報だけを転送するというものだ(図2)。シン・クライアント端末にはHDDレスのNEC製「US50」を採用した。

図2●サイバーエージェントが導入したNECの仮想PC型のシン・クライアント・システム
図2●サイバーエージェントが導入したNECの仮想PC型のシン・クライアント・システム
各ユーザーごとのOSとアプリはデータセンター内の仮想PCサーバー上で実行。画面情報だけをクライアントに転送する。渋谷地域の各拠点を結ぶネットワークはNTT東日本の「スーパーワイドLANサービス」を採用した。  [画像のクリックで拡大表示]

 データ・センターと各拠点を結ぶWAN回線には,NTT東日本の広域イーサネット・サービス「スーパーワイドLANサービス」を導入した。各拠点とは100Mビット/秒のイーサ専用線で接続している。「これまではベストエフォートのインターネットVPNを使っていたが,それでは帯域面で不安があった」(粕谷氏)。

 現在はサーバー1台当たりで,8~9台程度の仮想PCを動作させているが,まだまだリソースに余裕があるという。今後は,運用しながらサーバー1台当たりの仮想PCの台数を増やしていきたいと考えている。

 今後の課題としては動画再生機能の強化が挙がっている。仮想PC型のシステムは,サーバーとクライアント間で画面の差分情報をやり取りする。そのため画像と音がズレる傾向にあるからだ。「ネット広告を扱っている以上,この点がクリアにならないと営業部門などへの導入は難しい」(粕谷氏)。

 この課題の解消策として,NEC製の動画再生用機能を搭載した端末「US100」を検討中。同社もテストのために1台導入した。テストしながら展開の可否を見極めるつもりだ。

 仮想PC型のシン・クライアント・システムは,一般的に画面転送型やネットブート型よりも初期コストが高くなる傾向にある。サーバーやクライアントのほかに,仮想化のためのソフトなどが必要になるためだ。

 粕谷氏も「コストの詳細は言えないが,通常のパソコンを導入するよりは随分高い」と打ち明ける。「管理コストは従来の3分の1程度に減りそうだが,それだけでは初期コストと相殺できない。端末の故障率が低下することで,ようやく相殺が見えてくる」(粕谷氏)という。