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帝人グループの改善活動全社事務局の辻倉正一・事務局長。2005年3月に社内公募制度を活用して同部署に異動し、今年1月から事務局長

 化学大手の帝人は今期から、グループ全社で約3年前に始めた業務改善活動への取り組みを一層強化している。共通の改善手法を提示すると同時に、活動が盛んな職場ではなぜ改善心に火がついたのかを突きとめ、それを横展開すべく、改善活動全社事務局のスタッフが全国を飛び回っているのだ。

 約2万人の従業員がいる帝人グループでは、持ち株会社の長島徹社長の一声で「全社改善活動」を2004年4月に開始。「ムリ・ムラ・ムダを省いて、日々の仕事を効率化し続ける」というコンセプトだけ共有し、手法は事業グループごとに任せた。「高機能繊維」「樹脂」「医薬医療」など8つに大別される帝人グループには150以上の会社があり、業種業態は様々。有効な共通の改善手法を開発するのは時間がかかる。まずは活動を始めて、改善意識を一日でも早く高めたいと考えた。

 この活動では半期ごとに「改善提案件数」「実施件数」「経済効果」「ベストな事例」を発表。2004年度の上期と下期の合算値は1万3258件、8531件、27億円と素晴らしい成果を出した。だが活動開始から1年もすると、改善のネタ探しに苦労し始め、活動意欲が低くなった職場が散見されるようになった。社内公募制度を利用して2005年3月に改善活動全社事務局に異動した辻倉正一氏によると、「最初は張り切っていたのにマンネリ感を覚えたり、仕方なくやらされているという意識の人が目立った」という。

改善意識をグループのDNAにしたい

 長島社長から「改善意識を帝人グループのDNAにしたい。小さくてもいいから活動を続けてほしい」という熱い思いを直接聞いた辻倉氏は意気に感じた。DNAにするには共通の改善手法が必要だと直感した。

 まずは8事業グループそれぞれの改善推進委員長をヒアリングして回るなどして現状把握に明け暮れながら、共通手法となり得るものを探してまわった。ぐずぐずしていると改善のネタ探しに困る職場が増える。そんな折、日本能率協会コンサルティング(JMAC)の「技術KI計画」という手法を知った。「ホワイトカラーの生産性向上に効く」という売り文句が気になり、セミナーで複数の事例を学び、同手法の導入企業を訪問。汎用性が高いと感じた。


技術KI計画手法のモデル職場である帝人新事業開発グループHCM推進班。写真左から伴哲夫氏、高木正一・岩国駐在統轄、原寛テーマリーダー。新事業の開発プロセスを改善した
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 しかし、技術KI計画手法を現場に押しつけても、やらされ感を増長しかねない。そこでモデル職場を募った。4職場が手を挙げ、2005年度下期から2006年度下期に順次“実験”に着手。特に手応えを得たのは、帝人の新規事業開発グループに属すHCM推進班だ。同職場の使命は、炭素を使った高熱伝導材料の新製品の事業化企画。その業務プロセス作りを同手法で改善した。

 8人のHCM推進班は1年にわたり、JMACのコンサルタントと一緒にほぼ毎週、業務プロセス改善会議を開いた。その度に辻倉氏は大阪のオフィスから山口県岩国市の拠点まで足を運び、会議を観察し続けた。将来の横展開を見すえていたからだ。

 研究開発担当などHCM推進班のメンバーは個人商店的に仕事をしてきた者ばかり。「技術KI計画手法を使って自分や同僚の仕事の状態や考え方を見える化でき、自己流の長所や短所が分かった。職場で雑談だけでなく、仕事の話も深く語り合うようになった」というのがメンバーの共通見解だ。

 HCM推進班が改善活動に真剣に取り組み続けることができたのはコツがある。粘着メモ紙を張った多数の模造紙を掲示したままにしておける会議室を確保し、毎日その部屋で朝礼をするのだ。個人と全体の業務の改善状況が毎日目に入るうえ、その場で同僚からあれこれ助言される。

業績成果は出ているがまだ表面的

 全社改善活動は経済効果という点では順調に推移。2005年度は初年度よりも良い結果を残した。提案1万2605件、実行9500件、経済効果48億円だった。だが、「業績成果が出ても、社員が受け身でやった改善ではDNAにならない。技術KI計画手法も、プロジェクト的な業務以外には必ずしも有効でない」と辻倉氏は見る。

 どうしたらいいか。その答えを見つけ出す糸口は意外なところにあった。2006年2月に数カ月の研修の一環として経営陣に「今のやり方では、改善はDNAにならない」と発表した数人の中堅社員たちだ。30代後半の辻倉氏よりもベテランで構成されるこのグループに、ブレーンになってほしいと頼み込んだ。
 
 特にはっとさせられた助言は、「ベストプラクティスの表面だけをイントラネットで紹介しているが意味がない。現場へ行き、なぜ改善心に火が付いたのかを聞く。そこをうまく全社に紹介することで、みんなが自発的にベストプラクティス職場に学びに行く。そんな雰囲気を醸成すべき」というもの。今年1月に事務局長となった辻倉氏は、週1~2回以上全国を飛び回る。巨大なグループの現場にこそ第2の共通手法のヒントが埋もれている。

プロジェクト業務に向く技術KI計画手法

 技術KI計画手法は、日本能率協会グループが東京工業大学との共同研究によって1990年代前半に開発したもの。最初はホワイトカラーの生産性を高める手法を研究していたが、途中から製品の開発・設計を担うエンジニアリング部門の生産性向上にテーマを絞った。同グループは現在までに450社以上に同手法を指導し、チーム営業やシステム開発などでも成果が上がるとしている。
 
 この手法の基本コンセプトは、あるプロジェクトに参画する経営者やマネジャー、エンジニアなどの問題意識を可視化して共有することにより知的生産性を高める、というもの。JMACの高橋豊RD戦略事業部ナレッジイノベーションセンター・チーフ・コンサルタントは、「プロジェクトに対する問題意識はメンバーそれぞれ異なるのが普通。それを表に引き出し、みんなが同じ方向を見れば、生産性は高まる」と解説する。

 技術KI計画は4つの手法で構成される。(1)週1回2時間以上開催する上下関係を越えて本音で話す場「ワイガヤミーティング」、(2)模造紙と粘着メモ紙を使って作る「見える計画」、(3)個々の役割を明確化して上司が合意するプロセス「合意納得&契約マネジメントスタイル」、(4)業務の振り返りプロセス「YWT(やったこと・分かったこと・次にやること)」である。
 
 (2)~(4)はワイガヤミーティングの中で実行。また、見える計画は主に次の7つの図で構成される。最初に従来のプロジェクトの進め方の悪い点を図示した後、今回のプロジェクトの目的、期待する成果、課題、役割分担、1~3カ月の中日程、1~2週間のより詳細な小日程を図にしていく。
 
 JMACの高橋氏によれば、技術KI計画を企業の組織風土として定着させるには少なくとも1年はかかる。(1)~(4)の細かなやり方は各社に合ったものに徐々に改善しなければ、「やらされ感」が出てきてしまうからである。