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プロジェクトの実質的なリーダーである整備本部整備企画室の鈴鹿靖史部長。10カ国360人で開発を進めている
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5月16日に稼働した画面「JAL Mighty」
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 日本航空は5月、新整備業務システム「JAL Mighty」を部分稼働させた。導入したのは、独SAP社のERP(統合基幹業務)パッケージの「R/3 4.71」。1970年代から活用している機体整備管理など約60ある主要な業務システムをR/3に入れ替える。

 これまでは、各システム内にバラバラに情報を蓄積していたため、担当者は同じ情報を多重入力しなければならなかった。新システムの導入によって情報を一元管理することで、入力ミスといったヒューマンエラーをなくすなど安全の品質向上に役立てたい考えだ。

 今回稼働したのは、新システム群のうち整備士資格の管理などを担う人事系である。来年11月には、同社が保有する米ボーイング社の機材に関する整備業務システムが稼働する見込み。既に2006年12月に詳細設計は完了しており、1年半かけて開発とテストを実施して本格稼働させたい考えである。これで同社が保有する240機のうち200機分の業務を新システムでカバーできる。残る40機ある欧州エアバス社の機材に関しても、羽田空港が再拡張する2010年までには稼働する見込み。投資額は270億円。2010年までの中期経営計画ににおける安全性の向上に関する投資600億円のうち、大半をかける肝いりのプロジェクトである。

 人事系のシステムが稼働したことで、約6000人いる整備士の資格管理をグループで一元管理できるようになった。データベースに各整備士の入社時からの訓練履歴や保有資格をすべて登録する。整備士の資格には、一等航空整備士といった国家資格のほか、ライン確認責任者といった社内資格がある。訓練は約2000種類、資格が5300種類にも及ぶ。そのなかには、資格を取得するために複数の訓練を受ける必要があるものや、資格更新をするために定期的に訓練を受けなければならないものがある。これまで担当者が資格満了期限となる整備士を検索して、必要な訓練を受けるように指示するなど手作業に頼っていた。

 従来のシステムでは、もう1つ煩雑な面があった。それは、整備士の情報をJAL航空機整備東京などグループ各社が独自に管理していたことである。グループ内の人事交流によって、出向する整備士も多い。だが情報が分断されていたため、整備士ごとに入社以来どのような訓練を受けてきたのかを調べる業務が煩雑化してしまっていた。新システムの導入によって、資格の更新漏れや業務遂行に必要な資格を持たない整備士をアサインするといったことが防げるようになる。

現場の巻き込みに腐心

 実は、整備業務に関するシステム構築プロジェクトは、同社にとって2度目の挑戦だった。2001年6月から「e整備プロジェクト」と呼ぶ同様のシステム構築を目指したが頓挫し、システムの詳細を設計する段階の途中で成果物がないまま、2003年9月に実質的に終止符が打たれた。「当初は容易に導入できるという触れ込みだった。実際には難しく、航空会社の整備業務とERP導入の知識をもったコンサルタントがいなかった」(整備本部整備企画室の鈴鹿靖史部長)と失敗に終わった前回を振り返る。

 今回のプロジェクトで実質的な責任者となった鈴鹿部長は、「前回と同じことをやったら、失敗を繰り返してしまう」と考えた。そこで、前回のプロジェクトで欠けていた推進役となり得るコンサルタントを世界中から集めることにした。海外の航空会社で既に導入経験のあるコンサルタントを探したのだ。システム構築を発注した日本IBMには専門家がいなかったが、ほかの地域のIBMには英国航空やイベリア航空などへの導入経験を持つコンサルタントがいたため、彼らを呼び寄せた。


全員の気持ちを1つにするために整備本部内取り付けた垂れ幕
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 コンサルタントは、現場の抵抗を抑える際に大きな効果を発揮した。業務プロセスを検討するために現場と議論する際に、「イレギュラーの業務が発生した場合はどうするのか」といった場合に、他社の事例を引き合いに出して説得するといったことができた。「前回は、現場から言われても反論できるだけの材料を持ち合わせていなかった」(鈴鹿部長)。現場に納得してもらいながらプロジェクトを進めたために、19モジュールを導入しながらも、アドオン開発を250本に抑えた。

 もう1つ鈴鹿部長が力を入れたのが、現場を巻き込むことだった。「システム導入はプロジェクトチームだけではなく、現場と一緒に作り上げていくもの」だと考えていたからだ。ただし、一度は失敗したプロジェクトであるため、現場からの不信感は強い。そこで、ゴールとなる姿を見せることで、信頼を獲得することに努めた。

 鈴鹿部長らは、まずシステムのプロトタイプを構築し、羽田空港と成田空港にいる整備士向けに65回もの説明会を開いた。システム導入によって得られるメリットを具体的に説明することで、プロジェクトへの理解を呼びかけた。ほかにも家電量販店や商社といった他業種でERPの導入に成功した企業のリーダーを招いて、必ず稼働できるものだという気持ちにさせた。

 このほか、プロジェクトのオーナーだった笹原修整備本部副本部長(当時)を英国航空に連れて行き、導入を指揮した担当者の苦労話を聞いてもらった。これからどのような苦難が待ち受けているのかを事前に理解してもらうことで、プロジェクトに全面協力してもらえるように根回しする念の入れようだった。こうして2006年12月には、e整備プロジェクトでは頓挫した詳細設計の壁を越えた。「今回の部分稼働で現場は大きな自信をもった。この勢いで全面稼働にこぎつけたい」(鈴鹿部長)と意気込む。