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 証券取引における誤発注が止まらない。昨年のみずほ証券に続き、今年に入ってからも日興シティグループ証券や大和証券SMBCも誤発注の事実を公表した。入力データの確認軽視が背景にある。人的ミスの発生を前提としたシステム全体の見直しが必要だ。

 「証券会社が入力した注文数が実際の発行株式数より多い場合などは、取引所のシステムが自動的に売買停止できるような仕組みの実現などを検討せざるを得ない状況になってきた」。ある証券取引所の幹部は、誤発注が相次いだことで、システムの設計方針の見直し議論が起こっていると話す。昨年来、活況を呈する株式市場にあって、誤発注が一向に止む気配がないためだ。 昨年12月8日のみずほ証券に続き、今年に入ってからも1月4日に日興シティグループ証券が、同月13日に大和証券SMBCが、誤発注があったことをそれぞれ発表した(表)。1月5日には、カブドットコム証券がシステム運用ミスにより、同社顧客に誤発注を犯させてしまう事故を起こしている。

表 2005年末から多発している証券取引の誤発注問題
会社名 発生日 誤発注の内容 誤発注の原因 損害額
みずほ
証券
2005年
12月8日
新規上場したジェイコム株の売り注文で、「61万円で1株」を「1円で61万株」に誤り みずほ証券の発注システムは、誤入力に対する警告を発したが、担当者は警告を無視して発注処理を続行

約400 億円

日興
シティグループ
証券
2006年
1月4日
従業員が自分の口座にある資金を使った取引で、日本製紙グループ本社株の買い注文に対し、「2株」を「2000株」に誤り 端末を操作したトレーダは、従業員の「問題ない」との回答を信じ、システムが発する誤入力の警告を無視して発注した 公表せず
(売買成立額
は約10億円)
カブドットコム
証券
2006年
1月5日
処理で、顧客の保有株数が実際より多く表示され、156人が正しい保有株数以上の取引を実施してし まった 制度改正に伴い、12月28日にデータ処理代行会社から株式割後の保有株式数を受信。代行会社が1月5日に誤送信した同じデータをそのままシステムに反映させた 数百万円
大和証券
SMBC
2006年
1月13日
顧客から売却注文を受けた銘柄を三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)と誤って伝達。2万5000株の売却注文を出した 受注者と執行担当者のコミュニケーション不足。売買単位の違いで生じた、売却総額の大きさに対する端末の警告を無視し発注した

5億円弱

 いずれの誤発注にも共通するのは、システムに入力するデータの最終チェックを軽視した姿勢。みずほや日興、大和のケースでは、注文システムが許容範囲外の注文であるとの警告を無視して、誤データを入力した。証券会社のシステムに詳しい関係者によれば、「市場での駆け引きに集中している担当者は、システムの警告はむしろ邪魔者。“パブロフの犬”ではないが、無条件にキーをたたき続けている」という。

 カブドットコムの場合は、データ作成の代行先が、同じデータを誤って2度送信したものを、2度とも自社システムに登録した。同社は「データの抜けや異常値がないかはシステム上でチェックしていたが、同じデータが2度届くことは想定外だった」と話す。

 このように株式市場が活況を呈する中で、「担当者がきちんと判断を下せるだけの時間的余裕もなくなりつつある」(冒頭の取引所幹部)のが実情だ。みずほ証券の誤発注を例に取れば、10分程度という短時間に61万件の注文が約定。この間に、「誤入力かどうか」、「取り消せるかどうか」、「システム障害ではないか」、「売買を停止できるのか」などを判断しなければならなかった。それが冒頭の取引所でのシステム見直し議論につながっている。

 その一方で証券取引というプロ同士のやり取りにおいては、「(証券会社などの)担当者が、自己責任で正しいデータを入力するべき。そうせずに取引所側のシステムで誤データを排除する仕組みを強固にしようとすると、コンマ数秒を争う市場の活動を損なう」との見方も強い。プロである以上、入力ミスを取引所やそのシステムの責任にするべきではないというわけだ。

 いずれにせよ証券会社においては、誤データの入力を防ぐためのチェック機能は不可欠。すべてをコンピュータで対応するのではなく、人とコンピュータの接点を含めたシステム・アーキテクチャを改めて、見直す必要があるだろう。