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KDDI総務・人事本部社員力強化センターの藤本明徳センター長(写真右)と谷津幸利・研修1グループリーダー次長
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 携帯電話やブロードバンドなど通信サービス大手のKDDIは、全社員の仕事に対する価値観の意識合わせのために大胆な取り組みを展開している。毎年1000人程度の社員を普段の仕事から完全に引き離して、1カ月間の集合研修「社員力強化プログラム」に放り込んでいるのだ。

 KDDIの社員数は約1万人。例えば10人程度の部署であれば、毎年1カ月間は人員が1人欠ける状態となる計算だ。「穴を埋めようがない」と文句を言う現場の長もいるが、「会社が人材育成にそこまで労力を費やす姿勢を見せてくれることが嬉しい」という一般社員の声が多いという。

 2003年4月に設立した部署「社員力強化センター(当初の名称は社員力強化本部)」が提供するこの研修プログラムは徐々に形を変え、2005年11月から現在の形となった。研修は年4回開催され、1回当たり250人程度が人事部の指名によって招かれる。対象者の大半は、同一事業部に5~6年以上在席した社員。彼らを他の事業部に異動させる1カ月前に、この研修を受講させている。今年はまず3月に、このプログラムを開催した。

 KDDIが企業文化の統一のためにこれほど力を注ぐ理由は、同社が短期間で十数社を合併して誕生したという事情がある。小野寺正社長をはじめとした経営陣に「文化をきちんと融合させて、ベクトル合わせをしないとまずい」という危機感があるのだ。KDDIが2000年10月にDDI(第二電電)とKDD(国際電信電話)、IDO(日本移動通信)の3社が合併して誕生したのはよく知られるところだが、実際にはもっと多くの会社の集合体なのである。

 例えば、旧KDDが1998年にテレウェイ(日本高速通信)を吸収合併。北海道や東北や北陸など地域ごとに事業展開していたセルラー電話7社も、KDDIが2001年10月に吸収した。セルラー電話各社のトップには、各地域の電力会社の人材が就任していたため、それぞれ社風が異なった。さらにKDDIは、2005年にツーカー3社を、2006年1月にパワードコムを、2007年1月には東京電力の光ネットワーク・カンパニーも吸収している。

小野寺社長が思いを直接伝える

 社員力強化プログラムには、大きく2つの目的がある。1つは、企業理念「KDDIフィロソフィー」を浸透させて企業文化を融合すること。もう1つは、社員を1つの業務に固着してしまった状態から打破させることである。「長く同じ部門にいると業務経験が偏る。KDDIにはいろんな会社の出身者がいるので、多様な業務を知って、幅広い人材になることを重視している」と、社員力強化センター長の藤本明徳氏は説明する。

 同プログラムは、KDDIで何をしていきたいかを議論する「キャリア研修」、プレゼンテーションやファシリテーションなどのスキルを学ぶ「コミュニケーション研修」、企業理念について深く議論する「フィロソフィー研修」などで構成される。フィロソフィー研修は、小野寺社長や人事担当副社長と対話する講座も含む。「会社のナンバー1とナンバー2が、どういう社員であってほしいか、会社の現状はどうなっているか、どんな会社にしたいかといった熱い思いを直接伝える。『生の社長を初めて見た』と感動する社員もいて、この講座の理念浸透への効果は大きい」(藤本センター長)

 約250人のプログラム参加者は二十数人ずつ10クラスに分けられ、平日9時から17時半まで様々な研修を毎日受ける。クラスを越えて交流する研修も多く、「いろんな会社出身の250人全員が知り合いになれるように配慮している」(同センターの谷津幸利・研修1グループリーダー次長)。各クラスにはカウンセラー資格を持った担任がおり、1カ月も一緒にいるうちに深い信頼関係ができて、上司には言えないようなキャリアについての相談も頻繁になされるという。

異動先を決めずに研修に専念させる

 この社員力強化プログラムには、もう1つ、ユニークな特徴がある。プログラム参加者は研修終了後にどの部署に配属されるかを知らされていないのだ。分かっているのは、今までとは異なる事業部に異動する可能性が高いということだけである。

 異動先を告知しないのは、次の仕事に引っ張られることなく、研修に専念できるようにするためだ。このほか、「自分再発見のための期間として過ごしてもらい、研修後にはリフレッシュしてモチベーションを高めてもらいたい」(藤本センター長)という狙いもある。

 プログラム受講期間中は、残業がなく、ゆったりと過ごせる。社長や副社長、さらに他部署の多様な社員の話を聞き、それをじっくり吟味する時間がある。このため、「どこか甘えがあった気持ちが変わっていき、『このままではいけない』『会社依存ではなく自立しなければならない』『もっと努力して自主的に会社に貢献しよう』という考えになる人が多い」(谷津次長)という。