![]() カゴメの宮地雅典・営業推進部長(右)と丸亀マキ・営業推進部営業企画グループ食育担当 [画像のクリックで拡大表示] |
野菜ジュースやケチャップ、トマトソースなどで知られるカゴメは今年度から、他社の商品と自社の商品を組み合わせて店頭に陳列するクロスマーチャンダイジング(クロスMD)戦略を強化している。めんつゆメーカーのヤマキと組んで昨夏に実施したクロスMDで大きな成果を上げたのが、そのきっかけの1つだ。
カゴメでは従来、各地域にある支店と現地のスーパーとの間で地域限定のクロスMDを数多く手がけてきた。今年度からは本社主導で全国規模に展開するクロスMDを増やす。
どの会社のどの商品とカゴメ商品を組み合わせたらいいか。その判断については、営業担当者が中心に利用するナレッジマネジメントシステム「情報カード」を積極的に活用する。情報カードは、販売促進のための様々なアイデアをみんなで共有しようというもの。現在、年間5万8000件を超す情報カードが書き込まれるほど、カゴメ社内で利用されている。
具体的にはまず、支店の営業担当者がスーパーのバイヤーなどと協議して地域限定でクロスMDを実践し、その内容や反響を情報カードで提案。これを吟味した本社側が、相手先企業と全国展開のための本格的な交渉を行う。合意を得られれば両社の営業担当者が一緒になって、全国各地のスーパーや百貨店などに共同陳列の許可をもらいにまわる。POP(店頭販促物)作りや試食会の手配も共同で行うため、販売促進費を抑制できる効果もある。
「トマトそうめん」が関西から全国区へ
2006年5~8月に、ヤマキとクロスMDを実施した店舗は全国で約2500店にものぼる。ヤマキの「そうめんつゆ(2倍濃縮・ストレート)」とカゴメの「基本のトマトソース」を混ぜ合わせたスープを使うそうめん「トマトそうめん」という新メニューを考案し、試食会を開くなど店頭で来店客に大々的に披露した。その結果、「クロスMD期間中のトマトソースの出荷額が対前年比で130%となった」(カゴメの丸亀マキ・営業推進部営業企画グループ食育担当)のである。
実はこのクロスMD企画はもともと、2005年に大阪支店の営業担当者がスーパーのイズミヤのバイヤーに提案し、そのバイヤーがヤマキに声をかけたのが発端。大阪で成果が出たので、翌年に全国展開する運びとなった。
さらに、トマトそうめんの販売結果をデータ分析したところ、「カゴメがこの商品ではあまり取り込めていなかった50代と70代の購入者が増えた。また大手だけでなく、地域の中小規模のスーパーで扱ってもらえるようになった」(丸亀食育担当)。ヤマキは逆に、30代の若い購入者が増えたという。通常、そうめんを好む者は中高年層に多い。
ヤマキとのクロスMDは今年度もすでにスタート。今回はトマトそうめんだけでなく、野菜や卵も加えた「イタリアンサラダそうめん」という新メニューも提案している。レシピは、店頭に配布した冊子だけでなく、両社のホームページでも紹介している。丸亀食育担当は、「トマトそうめんはパっと見て抵抗感を持つ人も少なくない。だから店頭販売をする前に、必ずスーパーのバイヤーさんに試食してもらい、ファンになってもらえるよう心がけている」ときめ細かな工夫点を明かす。
カゴメの宮地雅典・営業推進部長によると、クロスMDには複数のメリットがある。(1)新たな販売チャネルや売り場を開拓しやすい、(2)販売促進の機会やテーマを増やしやすい、(3)新メニューの提案によって購入頻度を高めやすい、(4)値下げ競争から脱却しやすい――といった点だ。例えば(1)については、トマトソースなどのドライ製品を他社の生鮮食品と組み合わせれば、スーパー内の生鮮食品売場に置いてもらえる。
さらに、(5)仕事の進め方や考え方が異なる2社の営業担当者が一緒に活動することによって、良い刺激となり、営業担当者のモチベーション向上にもつながっているという。
また、カゴメがクロスMD戦略をこのタイミングで強化した背景には、経営方針の1つとして「新しい需要創造」を掲げたという事情がある。この方針を受けて、営業部門は既存製品の価値を再構築・再開発することに知恵を絞り、クロスMDを積極化し始めたのだ。さらに、競争が激化するスーパー側も差別化の要素としてクロスMDを望み出している。スーパーが値下げ競争から脱却できれば、メーカー側も適正な利益水準を維持できるというメリットがある。
カゴメは今年度もすでに、多数のクロスMDを実施または計画している。例えば、ハウス食品のハヤシライスのルーにトマトソースを加えた新メニュー、カゴメのケチャップとイセ食品の卵で作ったオムライス、トマトソースでアマタケ(岩手県大船渡市)の鶏肉を煮込む新メニュー、トマトジュースとアサヒビールのビールを使ったカクテル「レッドアイ」、野菜ジュースとミツカンの酢を混ぜたヘルシードリンクといった具合である。さらにメニュー提案とは異なるが、花王と共同で店頭に健康飲料の特設コーナーを設置してもらう企画もある。「毎日健康、これ1杯!」と書いた掲示板の下に花王の「へルシア」とカゴメのトマトジュースだけを大量に並べている。