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写真1●リステルホテルズの鈴木裕久社長
写真1●リステルホテルズの鈴木裕久社長

 ホテル業を営む長治観光(リステルホテルズ)は2007年4月,東京・新宿のビジネスホテル「ホテルリステル新宿」に高速電力線通信(PLC)によるビデオ・オン・デマンド(VOD)システムを導入した。本館213室,別館50室にPLC機器を設置してLANを構築。宿泊客に無料のインターネット接続サービスを提供すると同時に,1日1000円で約500タイトルの映画を視聴できるサービスを開始した。

 ホテルリステル新宿を統括するリステルホテルズの鈴木裕久社長(写真1)は,PLCとVOD導入の理由を「ビジネスホテル並みの値段でシティホテルに迫る快適さを求める,宿泊客のニーズに応えるため」と説明する。

 ホテルリステル新宿の落成は1985年。有線LANはもちろん,有線LAN向けの先行配線もなかった。既存の施設の限られたスペースの中で,宿泊客とって魅力あるホテルを作り上げるにはどうしたら良いのか。たどり着いた結論が,電力線をLAN配線に変えるPLCと,それを足回りとするVODの全室導入だった。


営業を続けながらLANを作りたい

 VODの導入は,VODサービスを手がけるシネマプラスに資本参加する東映の岡田剛社長から個人的に紹介を受けたことがきっかけとなった。シネマプラスのVODは,インターネット経由でシネマプラスのサーバーから配信先ホテルの再配信サーバーにダウンロードするシステム。最新のコンテンツが常時アップデートされている。「約500タイトルを視聴できるVODに心を引かれた」(鈴木社長)。シネマプラスのVODを利用するには,インターネット接続環境を用意する必要がある。こちらについても,時折,宿泊客からインターネット接続サービスを求める声が上がっていたことから,ユーザー・ニーズがあることは把握済みだった。

 インターネット接続サービスとVODサービスの導入で問題となったのは,コストと工事だった。全室に有線LANを敷設する工事を実施すれば,コスト負担が重くなるだけでなく,それぞれの壁に穴を開ける作業が発生する。そうなると,使用できない部屋が出てくるため営業に支障が出かねない。そうした事態は避けたかった。

 リステルホテルズが検討を始めたころ,シネマプラスは同社のVODサービスの適用範囲を広げる技術としてPLCの調査に乗り出していた。PLCであれば,親機の設置場所までLANケーブルを引けば,そこから先はPLCで通信できる。そこでシネマプラスはリステルホテルズにPLC方式を提案した。シネマプラスが見積もったPLC方式のVOD導入コストは「有線LANの半分以下」(鈴木社長)。しかも,壁に穴を空ける工事はごくわずかで済む。こうしてリステルホテルズはPLC導入に踏み切った。

4台の親機で20M~30Mbpsを確保

 PLCの導入作業は,住友電気工業と住友電設に依頼した。最初の作業は,全室でVODを視聴可能な帯域を確保するための事前調査である。確保すべき帯域は,十数人が同時に視聴しても動画のストリーミング配信に支障が出ない20Mビット/秒以上とした。シネマプラスのVODは,1.2Mビット/秒の帯域でDVD程度の画質が得られる画像圧縮技術を用いているためだ。

 今回導入したPLC機器は,住友電工製の企業向け製品である。親機が中心となって動作する方式で,親機の制御を受けた子機が時分割方式で通信する(写真2)。親機が電力線に流すPLC信号が全室に行き渡るような配置関係を事前調査で調べたところ,本館,別館とも中層階に親機を設置すれば,全室でスループットを最大化できることが分かった(図1)。

写真2●配電設備内の空きスペースに設置したPLCの親機   図1●ホテルリステル新宿が導入したビデオ・オン・デマンド(VOD)システム
写真2●配電設備内の空きスペースに設置したPLCの親機
住友電気工業製の「PAU2210」を採用した。外形寸法は幅285×高さ350×奥行き80mmと小さく,わずかな空きスペースに設置できるのが特徴。
  図1●ホテルリステル新宿が導入したビデオ・オン・デマンド(VOD)システム
住友電気工業製の高速電力線通信(PLC)システムを足回りに採用することで,LAN配線の工事個所を4個所に抑えつつ,シネマプラスのVODサービスを全室で利用できる体制を整えた。
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 設置した親機は計4台。これらの親機のみ,本館1階のVODサーバーと有線LANで接続してある。壁に穴を開ける工事は,親機を配電設備などの空きスペースに設置する場面で必要となった。鈴木社長は「工事の作業音は大きかった。営業を続けたまま全室の壁に穴を開けるのはとても無理だった」と工事の模様を振り返る。

VODを優先し,Webの速度を制限

 子機の設置で考慮したのは,接続するコンセントにドライヤーや携帯電話の充電器などをつなぐことでPLC通信の速度が低下してしまうケースがあること。そこで,市販のノイズ・フィルターを既存の電源タップに装着して速度低下の原因となるノイズを抑えるように工夫した。

 またPLC通信は,VODだけでなくインターネット接続サービスにも使われる。VODを優先するため,Web閲覧は1Mビット/秒以下に設定した。

 4月1日の運用開始時には,全室で20M~30Mビット/秒の帯域を安定して確保できた。一部の客室にはDVD品質のVODを楽しめる27型の液晶テレビを新たに設置。1日1000円で約500タイトルのコンテンツが視聴できるとあって,「インターネットのオンライン予約サイトに寄せられる口コミの評判も上々」(鈴木社長)という。

 リステルホテルズは,リステルホテル新宿以外に,猪苗代と浜名湖に観光客向けのリゾートホテルを所有する。これらの施設も有線LANがないので,ネットワーク環境を充実させるならPLC方式が候補となる。ただ,「リゾートホテルにおいては,ネットワーク環境を求めるユーザーのニーズが見えていない。このため,今のところPLC方式のVODを展開することは考えていない」(鈴木社長)という。