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2007年3月期、医療機器メーカー大手のテルモが13期連続の増収を見込む。海外でM&A(企業の買収・合併)を重ねる一方、国内では営業改革に取り組む。研修やリース、パッケージ製品など現場のニーズを汲んだサービスや商品を展開。「作って売るだけ」から脱却し、高度化・複雑化する医療現場をリードする。成熟した市場でシェア拡大という成果を上げている。

 輸液ポンプ75%、注射器64%、血液バッグ55%、人工心肺システム51%―。いずれも2006年3月にテルモが発表した同社製品の国内市場におけるシェアだ。ほかにもシェアトップを握る製品がいくつかある。国内ではガリバー的な存在といえる。業績も好調だ。2007年3月期には13期連続の増収となる連結売上高2730億円と7期連続の増益となる経常利益575億円を見込んでいる。

輸液ポンプ(写真左)、注射器(中央上)、インスリン用注射針(中央下)、人工肺(右)
輸液ポンプ(写真左)、注射器(中央上)、インスリン用注射針(中央下)、人工肺(右)

 ただし、こうした成長は海外でのM&A(企業の買収・合併)に拠る部分が大きい。2005年から人口減に転じた国内で成長戦略を描くのは至難の業だ。成熟市場で収益を拡大するには、さらなるシェア拡大が必要。このためにテルモは営業活動の改革に取り組んできた。「システム化とサービス化」と呼ばれる、そのマーチャンダイジング戦略は、中期経営計画「STeP UP 2007」で掲げた方向性の1つでもある。

サービス付随して付加価値向上

 テルモの目指す「システム化」とは、現場での医療の手順や機器の使われ方を研究して、特定の手術に用いる医療機器を組み合わせてパッケージで販売することだ。医療機器の一部は薬事法の対象になるため、価格をメーカーが一方的に設定しづらい。対象になる製品とそうでないものを組み合わせて医療現場での安全性や利便性を増すことで価格を高めに設定する。

 一方の「サービス化」とは、ただ製品を売るだけではなく、サービスを付随させて顧客の満足度を上げる取り組みだ。医療機器を安全に使いこなすためのトレーニングや単なる販売から定期メンテナンスを含むリース契約への移行などが該当する。顧客に対してソフト面でのサービスを充実させて、製品やテルモのファンになってもらい、自社製品のシェアを高めるのが狙いだ。

●医療従事者向けの研修は「サービス化」という長期的取り組みの一環だ
●医療従事者向けの研修は「サービス化」という長期的取り組みの一環だ
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 経営企画室の冨田剛・副室長は「国内では既に高いシェアを得ている。プラスアルファの価値を病院に提供することが大切だ」と話す。これを具現化したのが「システム化とサービス化」である。このテーマに挑む現場からは、成熟市場での収益拡大に挑む奮闘振りが見えてくる。

無償の研修で事故防止

年間100件を超す研修をコーディネートするチームリーダーの鈴木結花氏(中央)とホスピタルグループのトレーニングサポートチーム
年間100件を超す研修をコーディネートするチームリーダーの鈴木結花氏(中央)とホスピタルグループのトレーニングサポートチーム

 システム化より一歩先じている感のあるサービス化の代表例が「トレーニングコース」だ。普段からテルモ製品を利用する医療従事者に対して無償で提供するもので、現在6つのトレーニングコースが存在する。中でも開催数が多いのが「注射・点滴トレーニングコース」。対象となるのは主に看護師である。ホスピタルグループのトレーニングサポートチームでチームリーダーを務める鈴木結花氏が指揮を執っている。

 鈴木氏は、もともと製品についての適切な知識を社内のMR(医療情報担当者)や顧客に提供する学術情報部に在籍していた。薬剤師の資格を持つ鈴木氏は当時から、「薬と違って医薬機器は売るだけではなく、メーカーによる現場での研修トレーニングが重要だ」と考えていた。

 その鈴木氏が研修カリキュラムを作成し病院に提供するという業務を兼務するようになったのは2003年。前年9月に従来グレーゾーンだった看護師による静脈注射が解禁されていた。大病院などでは改めて研修を実施するところも出ていたが、研修の中身を考えるノウハウも余裕もない。

 杏林大学の川村治子教授が2000年に発表した調査によると、看護におけるヒヤリハット事例の3割以上が注射・点滴関連。注射・点滴に関する事故でテルモに過失があったわけではない。それでも事故防止に全力を注ぐことで、製品と会社に対する信頼度を増す。これが、結果的に売り上げやシェアにもつながっていく。

 「メーカーとしては、製品の質を上げるだけでは事故を無くせない。お客様の使い方の質を上げてもらいたい」と研修を通じた医療事故の撲滅に理想を燃やす鈴木氏は、様々な部署から集まった数人のメンバーとともにプロジェクトチームに参加。業務外の時間にも集まってミーティングを重ねた。2003年11月に地域の看護協会らに協力して最初の研修会の開催にこぎつけた。

 この研修が反響を呼んだ。その後、北は北海道、南は九州まで各地の病院や看護協会の求めに応じて、研修カリキュラムを考えて講師を招き必要な機器や施設を確保して日本各地で研修をコーディネートしていった。「ケータリング」と鈴木氏が呼ぶこの研修を担当していたプロジェクトチームは、専属メンバーによるチームに昇格。一昨年、元看護師という現場を熟知した女性社員が2人加わった。大々的な宣伝は打たなかったが、口コミで全国の関係者に広まり2005年は105個所、2006年には170カ所を行脚した。

地道な普及でシェア向上

 研修で使用する機器の代金は請求するが、有償化には踏み切っていない。鈴木氏は研修サービスを「トップメーカーとしての責任。ボランティア的な部分はある」と位置づけるものの、注射や点滴器具、輸液ポンプなどを研修に使うことでテルモ製品の普及につながっている。テルモの調べによると研修で使われる輸液ポンプの国内シェアは2002年の60%から2006年は75%に上がった。シリンジポンプは同じく60%から70%になった。こうした研修はほかに「心臓外科医養成トレーニングコース」「医療機器修理メンテナンスコース」「放射線科トレーニングコース」などがある。

 研修以外のサービス化の取り組みとしては、ポンプ類のリース契約が挙げられる。従来は単品で販売しており、老朽化したものもそのまま使われていることが少なくなかった。

 古いものは故障しやすいので危険を招きかねない。5年リースを始める前は、定期的な点検もないままおよそ8年使われていた。買い替えのサイクルが早くなることでテルモとしては売り上げを伸ばせ、病院側も修理や点検を受けられて安全を確保できるという仕組みだ。

ソリューションの提供を目指す

 もう1つの「システム化」は、医療現場で使用する器具や手順などを研究し尽くして、既存の製品を組み合わせて発売することを指す。現在市場に出ているのは、カテーテルのソリューションパックである。カテーテルとは、心臓や血管の治療のために血管内を通過させる極細の管のことだ。カテーテルを用いる手術に必要な製品一式を詰めたパッケージ商品を2005年に発売した。

●「システム化」したパッケージ商品は売り上げ好調
●「システム化」したパッケージ商品は売り上げ好調

 パッケージの中身は手術手順を考えて並べられている。医療機器のいくつかは薬価が定められているので売値は変更できないが、ソリューションパックは、薬価対象外の製品の価格を若干割り増している。それでも医師や看護師らによる手術準備の負担を軽減する点が評価されている。現場での安全や効率につながるからだ。採用件数は順調に伸びている。ソリューションパックのヒットを受けて、ほかの製品でも同様のコンセプトの商品を今後発売する予定である。

 「システム化とサービス化」を戦略的に支えているのが2002年6月に先端機器の開発と普及を目的に設立された「テルモメディカルプラネックス」だ。これまで社外の医療従事者延べ1万人以上が研究や研修を目的に利用してきた。この4月には新棟であるイーストがオープンした。本物そっくりの病室や手術室の研修空間、内視鏡下で行う血管採取手術や脳血管手術などのトレーニングが積める最新のシミュレーター設備が揃そろっている。

 今年2月の発表会見では「世界で他に類を見ない施設」と和地孝会長が胸を張った。建設費は合わせると38億円に上る。医療機器の研究が進めばシステム化に、トレーニングの質と量の向上はサービス化にそれぞれ推進力となる。

 海外の医療機器メーカーでは、テルモの掲げる「システム化とサービス化」に似た取り組みが活発だという。製造販売や付随するサービスはもちろん、顧客である病院の経営コンサルティングに当たる企業もあるという。M&Aを重ねるテルモにとって、グローバルな市場ではそうした医療機器メーカーという枠組みを越えた総合的なサービス力が望まれる。今年5月には三角合併が解禁される。海外のライバルとの戦いは国内に飛び火する可能性もある。顧客の信頼を集める取り組みが勝負の鍵を握ることになりそうだ。