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 東京ミッドタウンは,三井不動産が東京・六本木の旧防衛庁跡地に開発した複合商業施設である。施設の保守・管理システムをIPネットワークに統合したほか,無線LANアクセス・ポイント(AP)を屋内外に約1000台導入して保守・管理要員が敷地内を移動しながら業務を進められるようにした。

 2007年3月30日に開業した東京ミッドタウンは,ビル管理や保守のためのシステムをIPネットワーク上に構築し,運用している。このネットワークには,様々な種類のIP機器がつながっている。パソコンは言うに及ばず,無線IP電話機や監視カメラ,エレベータ・ホールなどに設置した映像配信用ディスプレイ,オフィス棟に入るためのセキュリティ・ゲート,さらには来訪者数を算出するための来訪者カウント・センサーなどである。「東京ミッドタウンのゴールデンウィーク期間中の来訪者数は約150万人に上る」。こうした東京ミッドタウンの賑わいを報道するニュースで使われる数字は,実はIPネットワークによって運ばれたものなのだ。

懸案だった管理・保守ネットのIP化

 これまでビルを管理・保守するシステムは,ベンダー独自方式のネットワークを使って運用されてきた。これらを「IPで統合することは長らくの懸案事項」(三井不動産 東京ミッドタウン事業部事業グループの尾崎哲男統括,写真1中)だった。というのは,「汎用的なIP機器を使えば,将来の変化に対応しやすく,コスト的にも安く済ませられる」(同)と考えていたからだ。

 この懸案事項を解決するための構想を暖めている中で立ち上がったプロジェクトが東京ミッドタウンだった。東京ミッドタウンの着工は2004年。ちょうどこのころ,電話機や監視カメラなど,ビル管理・保守で使う機器のIP化が進展していた。三井不動産の尾崎統括は機器をIP化することだけでなく,その上で安定して使える環境を求めていたが,「その頃になると,トラフィック制御なども実用に耐えられるものになっていた」という。信頼に耐えるIP対応の管理・保守機器が出そろってきたことを確認した上で,「東京ミッドタウンのような大規模な基幹インフラでもIP化ができると判断した」(東京ミッドタウンを設計した日建設計 設備設計部門の栄千治情報計画室長,写真1右)のである。

写真1●東京ミッドタウンの情報化を推進した東京ミッドタウンマネジメント ファシリティ部の恒川尚・グループ統括(写真左),三井不動産 東京ミッドタウン事業部事業グループの尾崎哲男・統括(写真中),日建設計 設計設備部門の栄千治・情報計画室長(写真右)
写真1●東京ミッドタウンの情報化を推進した東京ミッドタウンマネジメント ファシリティ部の恒川尚・グループ統括(写真左),三井不動産 東京ミッドタウン事業部事業グループの尾崎哲男・統括(写真中),日建設計 設計設備部門の栄千治・情報計画室長(写真右)

ビル間は10ギガイーサを使用

 東京ミッドタウンは,オフィス棟など大きく5棟のビルで構成されている。その敷地面積は約6万9000m2と広い。この東京ミッドタウンを管理・保守するためのIPネットワークは,約250台のスイッチ,992台の無線LANアクセス・ポイント(AP),16台の無線LANコントローラで構成する(図1)。これらの機器はすべて米シスコシステムズ製だ。シスコ製品を採用した理由は「実績があり,かつ汎用的な製品を使いたいというニーズに合っていた」(三井不動産の尾崎統括)からだという。

図1●東京ミッドタウンのネットワーク構成
図1●東京ミッドタウンのネットワーク構成
米シスコシステムズ製のネットワーク機器を大規模導入。フロア単位,ビルの棟単位,全体の大きく3階層に分けたネットワークを構築。IP電話から監視カメラ,ビルの管理に至るまで同一のIPネットワークで運用している。
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 ネットワークを構成する各スイッチは,大きく三つの階層に分けて設置した。それは,(1)東京ミッドタウンのネットワーク全体を統合するコア・スイッチ,(2)各ビルのネットワークを束ねるゾーン・スイッチ,(3)各階に設置したフロア・スイッチ──である。

 (1)のコア・スイッチは,東京ミッドタウンの「Midtown Tower」内のMDF室に設置している。このコア・スイッチと(2)のゾーン・スイッチおよびビル間は10Gビット・イーサネット(10GbE)で接続した。また,(2)のゾーン・スイッチと(3)のフロア・スイッチはギガビット・イーサネット(GbE)で接続した。

 ビル間の接続に10GbEを採用したのは,多数の監視カメラからのトラフィックがセンター設備に集中して流れ込んでくることに対処するためだ。東京ミッドタウンには,無線VoIP端末が約400台,映像配信用ディスプレイが約150台と,数多くの端末が同一のIPネットワーク上で使われている。その中で特にトラフィックが多いのが監視カメラだという。監視カメラの台数は非公表だが,日建設計の栄室長は「防災センターで監視カメラの映像を一元的に見ているため,どうしても防災センターにトラフィックが集中してしまう。このためビル間は10GbEにしている」と説明する。

屋内外に無線LAN APを設置

 東京ミッドタウンでは,現在,ビル管理者向けやテナント向け,一般来訪者向けに10種類のシステム/サービスが稼働している。また,これらのシステム/サービスごとにVLANが設定されている(図2)。

図2●東京ミッドタウンのネットワーク上で稼働している各種システム/サービス
図2●東京ミッドタウンのネットワーク上で稼働している各種システム/サービス
Pネットワークは全体の一部である。IPネットワーク上の各種システム/サービスは,それぞれについてVLANを割り当てている。
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 これらのシステム/サービスを使う上で重要な役割を担うのが,東京ミッドタウンの敷地内に設置した無線LAN APだ。無線LAN APの導入目的は大きく二つある。一つはNTTドコモの無線LAN/FOMAデュアル端末「N900iL」をどこでも使えるようにすること,もう一つは保守要員が東京ミッドタウンの中で作業しているときでも中央監視室と同じ画面をノート・パソコンから閲覧できるようにすることだ(写真2)。

写真2●無線LANを利用するアプリケーションの例
写真2●無線LANを利用するアプリケーションの例
ビル管理者は,施設の異常警報をインスタント・メッセージで受けることができる。ビル保守用アプリケーションはノート・パソコンでの使用が前提で,無線LAN圏内であればビル内のどこからでも利用できる。
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 例えばサービスの一つである「モバイルビルディングサービス」では,N900iLを白ロムを含めて約400台使っているが,その用途は内線通話だけではない。インスタント・メッセージによる緊急警報のプッシュ配信を受信するという役割もある。緊急警報は東京ミッドタウン内のあらゆる場所で受信できなければならない。そのため992台の無線LAN APを屋内外に設置して,敷地内における無線LAN圏外エリアを極力減らすように工夫した(写真3)。「保守・管理要員が動くことが予想される動線上には,シームレスに通話できるように満遍なく無線LAN APを設置した」(日建設計の栄室長)。

写真3●無線LANが利用できるエリア
写真3●無線LANが利用できるエリア
屋内外を問わず,東京ミッドタウン内は無線LANが使える場所が多い。一般の人が出入りできるオフィスのロビーなどでは,公衆無線LANサービスが使える。
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 呼制御サーバーはNECの「UNIVERGE SV7000」を採用した。呼制御サーバーにシスコ製品を採用しなかったのは「インスタント・メッセージのプッシュ送信に対応していなかった」(日建設計の栄室長)からだという。

テナントとの電波干渉を避ける

 無線LAN APの数が多いと,各テナントが独自に設置する無線LAN APとの電波干渉が問題となる。実際,「テナントの3~4割が無線LANを使っている」(東京ミッドタウンマネジメント ファシリティ部の恒川尚グループ統括,写真1左)状況であり,干渉は避けられない。

 そこで東京ミッドタウンでは,高層階と低層階でそれぞれ無線LANの使用周波数に関するルールを定めている。高層階でIEEE 802.11aを使う場合は,東京ミッドタウンの保守・管理には気象レーダーなどとの干渉を防ぐ技術が不可欠となる5.25G~5.35GHzの間にチャネルを設定。干渉防止技術が不要な5.15G~5.25GHz内のチャネルは顧客であるテナントに開放した。また2.4GHz帯に関しては,N900iLが2.4GHz帯を使うIEEE 802.11bにしか対応していないことから,テナントで使用するチャネルと,N900iLが使うチャネルの間隔を離すようにした。

 低層階ではテナント用と保守・管理用のいずれもIEEE 802.11b/gを採用するので,2.4GHz帯の使用チャネルを振り分けた。ちなみに低層階でIEEE 802.11aを使わないのは,低層階では屋外でも無線LANを活用するためだ。置局設計の時点では電波法施行規則上,5GHz帯を使用するIEEE 802.11aは屋外で利用できなかった。

 もっとも,「干渉が発生しそうな場合は,共用部側APのチャネル変更で対処している」(東京ミッドタウンマネジメントの恒川グループ統括)という。

公衆無線LANとAPを共用

 無線LANに関しては他にも東京ミッドタウンならではの取り組みがある。大規模な公衆無線LANサービス・エリアの構築だ。東京ミッドタウンの無線LAN AP992台のうち,屋外やロビーなど来訪者が自由に出入りできる場所に設置した115台のAPには業務で使う目的以外のESS-IDも設定されており,公衆無線LANサービスのAPとしても動作する。東京ミッドタウン内の公衆無線LANサービスは,いまのところNTTドコモおよびNTTコミュニケーションズが提供している。

 東京ミッドタウン内の公衆無線LANサービスを使う場合,他エリアとは一部接続方法が異なる。NTTドコモの場合は,IEEE 802.1Xによる認証が必須で,EAP-TTLSEAP-TTLSと呼ぶプロトコルに対応したユーティリティ・ソフト(NTTドコモなどが提供)が端末に必要となる。NTTコミュニケーションズの場合は東京ミッドタウンのエリアでは802.1Xの認証機能を使わない。ESS-IDの値を「TokyoMidtown」とし,WEPキーなしでWebブラウザからログインして接続する。