PR

人材派遣のリクルートスタッフィングは、優れた業務ノウハウの「コンテスト」を実施。部門横断で編成したチームでノウハウを出し合い、社員の投票で選抜する。「すぐにまねできる」という視点で時間管理や進ちょく管理のノウハウを共有し、部門を超えたコミュニケーションを活性化する効果も狙う。一人ひとりの生産性を上げ、急激に拡大を続ける人材市場で勝ち残る。

 景気回復に伴う、企業の求人意欲の急激な高まりを受けて、人材派遣会社の業績も好調だ。リクルートグループで人材派遣を手がけるリクルートスタッフィング(東京・千代田)は、この5年で年率2割の売り上げ拡大を実現してきた。

 その中でも伸びが目覚ましいのが、業界別に人材を派遣するプロフェッショナルスタッフィングディビジョンと呼ばれる事業部だ。4つの部から構成され、それぞれ医療、IT(情報技術)、金融、製造の4業界に、専門性の高い人材を派遣する。売り上げ規模はまだ全社の1割強にとどまるが、年率30%を超える成長を続けている。

 「うちの強みは営業力」。プロフェッショナルスタッフィングディビジョンを構成する部の1つである、フィナンシャル営業部の高橋厚人部長は明言する。派遣業界では、派遣スタッフの数や質、すなわち「供給力」が競争力の源泉とみられがちだが、「顧客企業のニーズを深く理解して、最適なスタッフを供給できてこそ、顧客、派遣スタッフ双方の満足度を高め、長期にわたって関係を持続できる。営業担当者にはこの力量が求められる」。

全員のスキルを全員で吟味

 営業担当者は売り上げを競い、月間、四半期、年間といった節目で優秀成績者が表彰される。一方で「月単位で数字を追いかけるだけでは疲れてくるのも事実」と高橋部長は指摘する。「顧客企業と良い関係を保ち、戦略的な提案ができるようになるには、様々なスキルを身につけることが必要となる。長い時間軸で人を育成する仕組みを入れないと、社員が磨耗してしまう」

 こうした問題意識のもと、プロフェッショナルディビジョンが運用している仕組みの1つが、「ベスプラ(ベストプラクティス)」と呼ぶナレッジ共有コンテストだ。各社員が持つ業務ナレッジを集め、優秀なアイデアを表彰する。従来は社員がマネジャー(課長)にナレッジを提出し、マネジャーの討議で優秀ナレッジを選出していた。

 この「ベスプラ」が大きく変わったのが2006年の春のことだった。従来は社員のナレッジ提出は任意だったのに対して、「新生ベスプラ」では各人が最低1つのナレッジを出すことが求められる。こうしたナレッジを、複数段階で社員同士が評価し、最優秀アイデアを絞り込む。

●プロフェッショナルスタッフィングディビジョンでは、業務ナレッジ共有の「ベスプラ」を改定し、ナレッジの浸透を促進
●プロフェッショナルスタッフィングディビジョンでは、業務ナレッジ共有の「ベスプラ」を改定し、ナレッジの浸透を促進
[画像のクリックで拡大表示]

 年に2回のベスプラ実施時には、プロフェッショナルスタッフディビジョンの約130人の社員全員を、6~8人ずつ20チームに配置する。ITや金融といった部の枠を超え、普段一緒に仕事をしないスタッフ同士を混成させる。このチームで、各人が1個ずつ自分のナレッジをA4判のシートにまとめて持ち寄り、チーム内のベスプラを決める。

 次に、選出されたナレッジのシートをオフィスの壁に張り出し、1週間程度の「公示期間」を経た後に、ディビジョン内の全社員の投票によって「ベストプラクティス賞」「グッドプラクティス賞」など4つの優秀賞を選出する。優秀ナレッジの発案者は、年2回開催される「キックオフ」と呼ぶ業績表彰や方針発表の場で表彰される。「ナレッジ委員会」と呼ぶ部門横断チームがベスプラの企画、運営を担当し、チームのメンバー構成やリーダーを決め、公示や集計を行う。

 チームでの討議、公示、投票といったプロセスを踏むことで、優秀ナレッジはもちろん、様々なナレッジが多くの社員の目に触れるようになった。

●「ベスプラ」の流れ。各社員の「小さな工夫」を顕在化し、多くの人の目に触れさせる
●「ベスプラ」の流れ。各社員の「小さな工夫」を顕在化し、多くの人の目に触れさせる
[画像のクリックで拡大表示]

 優れたスキルとして選ばれるものも変わった。従来は大口取引の成約法など、業績と直接リンクしたものが選ばれがちだったが、新生ベスプラになってからは、身近で「すぐまねできる」業務ナレッジが関心を集めるようになったという。

時間管理ツールで生産性アップ

 その典型が、2006年の第2回ベスプラで最優秀となった時間管理ツール「ズバリ!目標達成できる!村井式スペシャルツール」だ。3枚の紙で「目標」「時間」「タスク」を管理し、仕事を効率化するこのツールは、業績表彰の常連であるITスタッフィング部営業3課の村井麻香チーフが発案したものだ。

●第2回のベスプラでは「目標・時間・タスク管理ツール」が最優秀に選ばれ、多くの社員が実践を始めている
●第2回のベスプラでは「目標・時間・タスク管理ツール」が最優秀に選ばれ、多くの社員が実践を始めている
[画像のクリックで拡大表示]

 1枚目は目標管理用の月間カレンダー。売り上げ目標を「顧客からのオーダー数」「派遣スタッフをマッチングして成約に至った数」「現在稼働中の派遣スタッフの契約を延長した数」の3つにブレークダウンし、それぞれ週ごとの目標を設定する。この目標に対し、どれだけ進ちょくしたかを毎日書き込んでいく。目標と進ちょくを毎日目にすることで、前倒しで目標達成する意識づけを促す。2枚目は週間カレンダーで、1枚目の目標を達成するために必要な、顧客訪問や派遣スタッフとの打ち合わせなどの予定を書き込む。

 3枚目は毎日のタスク管理シートだ。「1タスク1メモ」で、その日やるべき業務を、のり付き付せん紙に書き込んでいく。これを「重要度・緊急度の高低」と「自分でやるべき業務(アクション)・待ちの業務(ウエイティング)」で4象限に分割したシートに張り付け、仕事の進ちょくに応じて移動させる。例えばアクションの象限に「書類作成」があったとしたら、自分で書類を作って上司に確認を得る段階でメモがウエイティングに移動する。「メールや電話に対応するだけでもタスクの状態は変わっていく。付せんをどんどん張り替えていくと、仕事が進ちょくする実感が得られ、やりがいが出る」と村井チーフは話す。

 このツールは多くの社員から票を集め、課ぐるみでツールを使い始めた例もある。村井チーフは内勤から営業に異動した際に、時間管理の重要性を痛感し、試行錯誤を重ねながらツールをブラッシュアップしてきたが、「これまでそのノウハウを周囲に具体的に話すことはほとんど無かった」と言う。ノウハウを隠そうとしたからではなく、「他人にとって価値のあるものだとは思っていなかったから」だ。

 2006年のベスプラで、村井チーフが参加したチームでは、最初に飲み会を開いて仕事上の悩みなどをざっくばらんに話し合った。「仕事が多過ぎて残業ばかり」「時間をうまく使えない」というメンバーの悩みを聞いて、「少しでも参考になれば」と村井チーフが持ち出したのがきっかけで、チーム代表となった。ベスプラには、チーム代表のナレッジに対して、チームメンバーが「推薦シート」を書くというルールがある。「他人の視点で『なぜこのツールが有効なのか』をまとめたものを見ると、自分が気づいていなかったメリットや活用法を改めて理解できた」と村井チーフは話す。

部門を超えたコミュニケーションも促進

 いいナレッジを引き出す過程では、チームリーダーの手腕も問われる。メンバーの悩みなどを聞き出しながら、ベスプラへの参加意識を高めていくことが必要となる。このためベスプラを運営する「ナレッジ委員会」では、チームリーダーを選ぶ際に十分な検討を重ねる。委員会のメンバーである企画統括室の古藤大輔氏は、「ナレッジ共有の意義を理解し、チームを盛り上げていける社員に白羽の矢を立てる」と話す。

 ベスプラは部門を超えた社員のコミュニケーションを促進する役割も担う。リクルートスタッフィングでは2004年から「ユニット経営」と呼ぶ部門別採算管理制度を導入し、全社の48部がそれぞれ収支責任を持つユニットとして、戦略に基づいた投資を行うなどの権限を持っている。部長やメンバーの収益意識を高めるメリットがある一方で、部門の壁を超えた情報共有は難しくなりがちだ。ベスプラのようなユニット横断の取り組みを活性化させることで、個々の持つナレッジをできるだけ幅広い組織で活用していく。

 ベスプラの賞金は「ちょっと高めのランチにチームで行けるぐらい」(高橋部長)。多忙な業務に追われ、普段は話をする機会を持ちにくい社員たちを、積極的に触れ合わせるための有効な投資といえそうだ。