PR

 コンピュータグラフィックス(CG)やウェブの教育に強みを持つ、横浜デジタルアーツ専門学校(YDA、横浜市)は、カリキュラムの改善を目的に架空の顧客像「ペルソナ」を用いている。

 定量的、定性的なデータを基に、顧客である生徒のペルソナを作り、そのペルソナの満足度を上げる商品やサービスを設計することでCS向上を達成するというものだ。人間設計中心(HCD)の分野の考え方である「ペルソナ/シナリオ手法」が基になっている。

 同校がペルソナ作成に取り組み始めたのは2006年夏。ペルソナ/シナリオ手法を実際に生徒に教えている、教務部の浅野智次長が中心となり、学科長ら数人の教員が、生徒本位のカリキュラム作るプロジェクトを行った。「教員はそれぞれが得意とする研究分野を持っている。しかし、教員が教えたがる内容がそのまま生徒に必要なものとは限らない」と浅野氏は語る。生徒が各自の夢を実現できるような知識やスキルを持っておくには、どのような授業を行うべきなのか――。サービス業としてのあり方を考え直すためのツールとしてペルソナを導入した。

 まず体験入学や入学試験を通じてペルソナを作成するための情報を収集した。試験では生徒の学力分布といった定量的情報を、体験入学での感想や姿勢、試験の際の面接では性格や価値観、夢といった定性的な情報を入手できた。これらの情報を基に5学科6コースごとに1人ずつペルソナを作った。具体的には、名前や年齢、出身、家族構成、性格、目指すゴールといった項目を書き出した。

 各コースの教員らは完成したペルソナを自らのカリキュラムを改良するための手がかりとした。ペルソナは漠然と授業を良くしようという意志に明確な方向性を与えた。

ペルソナ導入の注意点は

 ペルソナを意識してカリキュラムを変えたことで早速効果が出た。今年の夏の体験入学には前年比3割増の学生が訪れた。例年、体験入学者数は翌年の受験者数に比例する。同校では、“広義の顧客”として生徒の親や卒業後に就職する企業の採用担当者の像も「キャスト」として作り出した。YDAは生徒本人、その親、就職する企業という3者を満足する教育サービスの実現を目論んでいる。

 浅野氏は、YDA以外でも企業と共同研究するなどしてペルソナの可能性を探るなかで、取り組む際の注意点を見つけてきた。
(1)「意思堅固なプロジェクトマネジャーの存在」(ペルソナ作成・実践は部門横断的なことが多いのでマネジャーのリーダシップが大切)、
(2)「3年間使い続ける」(ペルソナとはマーケティング方針そのもので、簡単にぶれるべきではない)、
(3)「HCDプロセスを正しく理解する」(自己流では限界があるし、間違ったペルソナができかねない)、
(4)「先入観だけでペルソナを作らない」(顧客に対する“思い込み”はペルソナ作成の大敵)、
(5)「複数の人間で作る」(顧客に関する情報を客観的に分析するには複数のメンバーで取り組むことが望ましい)、などだ。

 ペルソナについては、企業のマーケティング担当者も関心を寄せ始めているが、浅野氏は「ペルソナは絶対に効果はあるが、簡単なものではない」と警鐘を鳴らす。定量的、定性的なデータの取得を誤れば、正しくないペルソナができる。事前に周囲の理解を得ておかなければ、せっかく作ったペルソナを組織全体で使いこなさない、という事態も起こりうる。企業がマーケティング手法として活用するためには、先達である浅野氏のこうした指摘に耳を傾ける必要がありそうだ。