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 印刷会社大手の大日本印刷は,2008年夏に全社のメール・システムを刷新する予定だ。現在,導入作業を進めている。来夏の本格稼働時には2万6000人のユーザーが使う大規模なメール・システムとなる。

 採用したシステムは米国のベンチャー企業ジンブラが開発した「Zimbraコラボレーション・スイート」(以下,Zimbra)。Webブラウザを使うメール/グループウエア・システムだ。従来製品と異なり,Ajax技術による使いやすいユーザー・インタフェースが特徴である。専用クライアントのソフトウエアとそれほど変わりない操作性を実現している。

 多くのメール・システムがある中,大日本印刷がZimbraを選んだのは,同社がこれまで導入してきたメール・システムと大きな関係がある。それは,1998年以降,同社は一貫して“Webメール”を使い続けてきたことだ。

当初のメールはパソコン通信ベース

写真1●Zimbraの導入を担当したDNP情報システムの渡部憲ニエキスパート(左)と,大日本印刷情報システム本部の吉田幸司氏
写真1●Zimbraの導入を担当したDNP情報システムの渡部憲ニエキスパート(左)と,大日本印刷情報システム本部の吉田幸司氏

 同社が最初に導入したメール・システムは,1995年に導入した「ATSON」というパソコン通信をベースにしたもの。これは当初,Telnetのコマンドラインで操作するものだったが,後にGUIクライアントのWindows版とMac版を用意した。

 しかし,「ユーザー数が増えると,クライアントを配布する手間が大きくなった」(DNP情報システム 業務システム本部業務システム第2部の渡部憲ニエキスパート,写真1左)。そこで98年からWebブラウザ版のATSONを提供した。この時点でユーザー数は1万7000人に達していた(図1)。


図1●大日本印刷のメール・システムの変遷
図1●大日本印刷のメール・システムの変遷
他にも部門レベルで独自に構築・利用しているメール・システムがある。
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 その後,大日本印刷ではより性能の高いメール・システムを求めて,2001年にLotus Domino上で社内メール・システムを独自開発した。これは現在も使っているシステムで,クライアントは基本的にはWebブラウザである。ユーザー数は2万5000人に上る。

 このように,大日本印刷ではメールをサーバー側で保存・管理し,ユーザーはWebブラウザから操作するWebメールが,全社的に根付くことになった。

 現行メール・システムは「メールの振り分け」など,基本的なメール・クライアントの機能を備えている。ただ,「あるメールに対して返信済みなのかどうかすぐに分からないなど,最新のメール・クライアントに比べると機能不足を感じるようになった」(渡部氏)。加えて,「動作が重たい」との意見も社内から出始めた。

 これらの問題を解決するため,2006年11月から,次世代メール・システムの検討に入った。現行システムの改良も考えたが,「システムの内部がかなり職人芸的」(渡部氏)で複雑な作りになっていることに加え,Lotus Dominoの技術者が社内に少なくなり,システムを扱える人材が限られているという不安があった。そのため,次世代メール・システムは新システムで運用することに決定した。

「Google Apps」なども検討

 大日本印刷は次世代メール・システムの選定に当たって,Zimbra以外にも多数の製品を検討した。具体的には,「Active! mail」「Exchange」「Google Apps」「Scalix」などだ(図2)。

図2●複数の候補からZimbraを選択
図2●複数の候補からZimbraを選択
「Webメール」「大組織で使えるスケーラビリティ」「優れた管理機能」の3点を評価した。
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 選定の過程では「思い切って専用クライアントを使うメール・システムに変えようかとも考えた。だが,ユーザーの慣れを考えるとやはりWebメールに落ち着いた」(大日本印刷情報システム本部の吉田幸司氏,写真1右)。

 Zimbraに似たAjaxを使うWebメールということでScalixも評価した。だが,選定当時は国内にScalixをサポートする有力販売代理店やSI企業がいなかったのがネックだった。

 その中で,Zimbraは違ったという。ベンチャー企業が開発するZimbraの製品継続性やサポートについては不安はあったが,住友商事がZimbraの国内販売代理店であることと,住商情報システムがシステム構築を担当できることを確認し,懸念を払拭した。「ジンブラと住友商事から最低5年間はサポートしてくれるとの保証を得られた」(吉田氏)。

 また,Zimbraは「コマンドラインでユーザーの追加ができるなど,管理機能が充実していた」(渡部氏)ので,ユーザー数が多くても利用しやすいと判断した。このような経緯を経て,2007年3月にZimbraの導入を決定した。

社内システムと組み合わせる

 Zimbraはアドレス帳やスケジューラなど複数の機能を持つが,大日本印刷ではメール機能だけを使う。同社は「DNPweb」という社内Webポータル・サイトを構築しており,Zimbraはこのサイトと連携する形になる(図3)。

図3●社内のWebポータル・サイトとZimbraを連携
図3●社内のWebポータル・サイトとZimbraを連携
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 具体的には,Zimbraのメールの件名をDNPwebのページに表示できるようにする。ユーザーがDNPwebのページでメールの件名をクリックすれば,すぐにZimbraが起動する。DNPwebとZimbra間ではシングル・サインオンを実現。ログイン作業も簡略化した。

 大日本印刷のイントラネット内には,他にも電話帳システムや,ネオジャパンの「デスクネッツ」を使ったスケジューラが稼働している。同社ではZimbraとこれらのシステムを連携させる予定だ。Zimbraは外部の様々なWebサービスやシステムと組み合わせることができる。他のサービスなどからZimbraの機能を使えるようにするために「Zimlet」と呼ぶAPI(application programming interface)を公開している。

 現時点では,Zimbraと電話帳システムを連携させる考えだ。「メール・アドレスをクリックすると電話帳が開くといったものになるだろう」(渡部氏)。既に技術的には連携できることを確認しており,今後は電話帳システム側に,データ連携のためにXMLを出力する機能を実装する予定だ。

18台のサーバーで3万人に対応

 システムの詳細を見てみよう。大日本印刷のZimbraのシステムは18台のサーバーと,サーバーの共有ディスクとなる1台のストレージ,負荷分散装置および2重化されたLANなどで構成する(図4)。また各サーバーを管理するための専用LANを用意した。そのため,各サーバーには複数枚のLANカードが挿さっている。サーバーとストレージ装置の接続にはファイバ・チャネルを用い,ストレージ専用のネットワークを構築した。

図4●大日本印刷が導入したZimbraシステムの構成図
図4●大日本印刷が導入したZimbraシステムの構成図
計18台のサーバーに加え,ストレージ装置,負荷分散装置などで構成する。各サーバー機を冗長化しているだけでなく,LANも完全に2重化している。さらに管理専用のLANも構築した。サーバーとストレージはファイバ・チャネルで接続し,SAN(storage area network)を構成する。
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 18台のサーバーは,Webブラウザからのアクセスを処理する「ストア・サーバー」と,メールの転送を行うMTA(message transfer agent),ユーザー情報を管理するLDAPサーバーに分かれる。いずれも信頼性向上と負荷分散のため冗長化してある。

 ストア・サーバーは,アクティブ・スタンバイ構成で2台を1セットとし,計6セットを用意。これで3万人のユーザーに対応できる設計だ。ユーザーが3万人を超え,拡張が必要な際は,このセットを追加するだけでよいという。

 1ユーザー当たりのメール・ボックスの容量は300Mバイト。標準では3カ月までメールを保存する。ただし,“保存フォルダ”にメールを移すと3カ月以上の保存も可能である。

 なお,スパム・メールとウィルス対策は外部ネットワークとの接点にある別システムで実行している。また,キヤノンソフト情報システムのメール・システム「CatchMe@MAIL」とNTTコミュニケーションズのサービスである「モバイルコネクト」を組み合わせ,携帯電話経由でZimbraに接続する仕組みを開発中だ。これも2008年夏までに構築を完了する計画である。

起動は遅いが次期版で解決の見込み

 現在,大日本印刷社内の開発チームを中心にZimbraの動作検証を行っている。使い勝手は良く,特に検索機能が優れているという。現行メール・システムでは添付ファイル内の検索ができないなど,機能面で不満があった。

 ただ,一つ問題に感じている点がある。Zimbraの起動が遅く,「10~20秒くらいかかる」(渡部氏)ことだ。これは動作周波数が2.8GHzのPentium 4と1Gバイトのメモリーを搭載するパソコンで,FireFox 2やInternet Explorer 7といったWebブラウザからZimbraを使った場合の秒数だ。

 住商情報システムによると,「起動に時間がかかるのは,現在のバージョンは起動時にZimbraのすべての機能のスクリプトを読み込むため。次期バージョン5では各機能を使う際に,機能ごとに必要となるスクリプトを読み込むようになるので,起動時間は大幅に短縮されるはず」という。Zimbraバージョン5日本語版は2008年夏のリリースを予定する。

 もっとも大日本印刷はZimbraの軽量版の提供も考えている。これはAjaxを使わないHTMLだけのもの。機能は劣るが高速に起動する。特に「若干残っている64kや128kビット/秒の低速回線を使う拠点や,海外から接続する用途で軽量版が役に立つだろう」(渡部氏)と見ている。

ここがポイント

目的:メール・システムの刷新による操作性改善

製品:米ジンブラの「Zimbra」を採用

導入時期:2008年夏を予定

効果:メールの機能強化で,従来よりもコミュニケーションが円滑になることを期待

●会社・プロフィール
本社所在地: 東京都新宿区
設立: 1894年1月19日
従業員数: 約9000人(単独),約3万7740人(連結)
事業: 印刷,エレクトロニクス
工場: 国内37カ所,海外7カ所
研究所: 国内10カ所

●ネットワーク・プロフィール
Ajaxを使うWebメール「Zimbra」を導入。18台のサーバーで構成する。LANは完全2重化。