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「直動部品」大手として商品力を高める一方、1990年代後半から、営業力が課題に。そこで、営業改革プロジェクトに取り組み、顧客との関係構築プロセスの標準化や、継続案件と新規案件を区別した受注管理手法を確立。毎月全社で成功/失敗事例を振り返り、ノウハウを共有する。新規案件の受注を平均年17%増やすなど、営業力を着実に強化している。

 「この案件の成功ポイントはどこだろう」「顧客が懸念していた納期の問題に手を打った『リゾルビング』にあるんじゃないか」「顧客が当社に対して抱いていた悪印象を早い段階で察知し、解消に動いた『ディスカバリング』も良かった」

 直動部品メーカーTHKの全国28支店では、毎月開催される「TAP1推進委員会」で、営業担当者が当月の成功事例や失敗事例を分析する。「RSS(リレーションシップ・セリング・スキル)」と呼ぶ顧客との関係構築スキル体系に沿って、各商談での行動を「ポジショニング(位置づけ)」や「ディスカバリング(発見する)」などの6ステップに分解していく。「営業活動の最中には無意識でやっていた行動を、RSSに沿って後で分析すると、何が受注獲得の決め手になっていたかに気づくこともある。次の営業活動に生かしやすいし、後輩の指導にも役立つ」。上野支店営業課の樽本健太郎主任はこう話す。

 各支店で検討された事例のうち、「共有すべき」と判断されたものは、複数の支店を束ねる営業統括部の会議を経て、全国会議でも発表され、全営業統括部のマネジャーが共有して、各支店にフィードバックされる。こうしたプロセスを9年間毎月継続してきたことが、THKの営業力を強化し、3期連続の増収増益の原動力となっている。

●商品力に依存せず、営業力を強化する改革プロジェクト「TAP1」で成果出す
●商品力に依存せず、営業力を強化する改革プロジェクト「TAP1」で成果出す

営業の「個力」を鍛え直す

ボールを使って直線運動の「ころがり」を円滑にしたLMガイドなど、主力商品の需要は様々な分野に拡大している
ボールを使って直線運動の「ころがり」を円滑にしたLMガイドなど、主力商品の需要は様々な分野に拡大している

 THKの主力製品である「LMガイド」は、軽く、滑らかに、そして正確にモノを動かす黒子となる部品だ。1972年の開発以来、工作機械や産業用ロボット、半導体製造装置などの分野で採用されてきた。近年は住宅の免震システムや医療分野のCTスキャナーの制御などにも利用範囲が拡大している。

 しかし1990年代の後半から、寺町彰博社長はある不安を抱くようになった。「商品力やブランド力に依存して、営業担当者の力が伸び悩んでいる。顧客との信頼関係を築き、『あいつが売ってるものなら買ってやろう』と思わせる『個力』がなくなっているのではないだろうか」

「顧客のニーズを集め、開発に役立てるためにも営業の強化が必須」と話す寺町彰博社長
「顧客のニーズを集め、開発に役立てるためにも営業の強化が必須」と話す寺町彰博社長

 顧客を訪問しても、新製品を売り込むばかりで、相手のニーズをくみ取れない。長い付き合いの取引先にはそこそこ売っていたが、別の拠点に異動すると、新規顧客を開拓できず成績が低迷する。営業担当者のこうした行動から、営業力低下の兆候を感じ取っていた寺町社長は、1998年から営業改革プロジェクトの「TAP1」に着手する。コンサルティング会社プラウドフットジャパン(東京・千代田)の支援を受けて全社的に取り組んだが、「当初は『これまでのやり方でも問題はないじゃないか』という反発もあり、なかなか定着しなかった」と寺町社長は振り返る。転換点となったのは、2002年3月期の決算で、売り上げが前年比36%減、営業利益91%減という大幅な落ち込みを経験したことだ。前年にネットバブルなどの影響で半導体製造装置の需要が急激に拡大した反動だったが、かつてない業績の急落は、社員の多くに「今のままではだめだ」という危機意識を植え付けることとなった。

 TAP1では、顧客とのコミュニケーションスキルを体系化した「RSS」、部下と上司が毎日その日の営業の目標を話し合う「レビュー」、商談の進ちょく情報などを案件ごとに情報システムで管理する「ステップ管理」などの仕組みを導入した。こうした取り組み自体は、特に目新しいものではない。THKの特色は、それを「しつこく」現場に浸透させてきた点にある。

スキルの押し付けに終わらない

 例えば顧客との関係構築のスキル体系である「RSS」では、営業担当者に2日間の研修を実施し、「ポジショニング」や「ディスカバリング」といった6つのステップを理解させる。しかし「やり方を教えたので、あとは自分で実践せよ」とはならない。冒頭のように、TAP1推進会議で各営業担当者が自分の行動をRSSのステップに沿って振り返って分析し、発表するというプロセスを、毎月繰り返していく。「TAP1は、営業改革であると同時に、社員の自己成長プログラムでもある」と寺町社長は話す。「スキルを詰め込もうとしても、人が成長しないと始まらない。本人が気づきを得る仕組みが必要だ」

 営業担当者が作成した分析シートは、改革活動の運営部隊であるTAP1推進課と統括部のマネジャーでさらに精査し、成功のポイントや、不足していた行動などを検討する。

 徹底という点では、支店長や営業課長による部下への「レビュー」も同様だ。顧客訪問の前に、担当者がこの訪問で達成したい「訪問ゴール」を、上司と話し合って決める。例えば、ただカタログを置いてくるのではなく、「何をどう理解してもらうか」などの目標を明確にする。すべての訪問先に対してゴールを設定するには営業担当者1人当たり1時間程度の時間がかかった。「レビューが定着した現在は、ポイントを絞って短時間で進められるようになったが、当初は夜遅くまでかけてレビューをする支店長も少なくなかった」と玉城浩TAP1推進課長は話す。

●体系的な営業手法「RSS」を導入し、全営業担当者が毎月、自分の営業活動をRSSに基づいて整理する
●体系的な営業手法「RSS」を導入し、全営業担当者が毎月、自分の営業活動をRSSに基づいて整理する
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景気の影響を排除する

 受注目標や、期中の目標達成度は「オーダー・マネジメント・レポート(OMR)」と呼ぶグラフで表し、毎月の営業会議で進ちょくを確認する。ユニークなのは、既存顧客との取引で見込める受注を「予測値」、新規顧客や、既存顧客の新規需要開拓による受注を「計画値」として、それぞれに目標を設定している点だ。「景気が良くなると既存顧客からの需要が増え、放っておいても売り上げが伸びるが、これに安んじていると、営業力は弱くなる。新規案件の開拓度を明らかにする仕組みが必要だった」(寺町社長)。OMRは支店単位だけでなく、営業担当者ごとに作成する。当初の見込みより予測値が減ると、その分は計画値の目標に上乗せされていく。

 計画値を達成するためには、失注率などを考慮しながら一つひとつの商談を積み上げることが必要だ。そのため「ロータスノーツ」をベースにした「ステップ管理」と呼ぶシステムで、個々の案件の進ちょくを管理する。ステップ管理システムに入力された案件や受注金額から自動的にOMRが作成されるので、営業担当者は自分の目標達成度を一目で把握することができる。こうした仕組みの貢献もあって、最近4年間の新規案件の受注件数は、年率17%の割合で増加している。

 「毎日の商談の進ちょくをシステムに入力し、訪問目標を上司とレビューするのは時間がかかる。こんな手間をかけるより、1件でも多く顧客を回りたいと思うこともあった」と樽本主任は打ち明ける。「しかし商談のプロセスを見える化するからこそ、進ちょくを客観的に把握し、これからどう攻めればいいかを具体的に考えられる」

●営業予算の策定、進ちょく把握では、既存顧客の継続受注と、新規需要の掘り起こしを区分し、「運」の影響を排する
●営業予算の策定、進ちょく把握では、既存顧客の継続受注と、新規需要の掘り起こしを区分し、「運」の影響を排する
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