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音声応答にもAsteriskを利用

 最終的に今回のプロジェクトにかかった費用は400万から500万円程度だったという。市販のIP電話サーバーを導入して構築するケースと比較すると大幅にコストを抑えられた。

 菊池氏がAsteriskを用いて内線網を構築して得られたメリットはコスト削減だけではない。Asteriskならではの可能性を感じたという。「知れば知るほど,(Asteriskは単なる)PBXというよりも,電話にかかわるIPアプリケーションであるという印象が強くなってきた。特にAsteriskのIVR(自動音声応答)機能は,様々な面で応用ができる」(菊池氏)と語る。

 応用の第一弾として菊池氏は六本木の同社映画館で2007年11月に開催されたイベントの,問い合わせ用自動音声応答システムを構築した。

 このシステムのために,内線網用に使っているAsteriskサーバーとは別に,IVR専用のAsteriskサーバーを用意した。外線で入ってきた問い合わせに対して,IVR専用のAsteriskサーバーを経由し,自動音声応答をしながらPBX配下のオペレータの電話につなぐ仕組みとなっている(図2)。

図2●AsteriskのIVR(自動音声応答)機能を活用しイベント用電話応答システムを自作
図2●AsteriskのIVR(自動音声応答)機能を活用しイベント用電話応答システムを自作
六本木TOHOシネマズで開催されるイベントの問い合わせ対応用に,2007年1月に導入した。
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機能追加の費用が発生しない

 具体的にはIVRは次のように動作する。このイベント問い合わせ用の電話回線はISDNのBRIを2回線持っている。Asteriskサーバーは,同時に2件までの問い合わせに対しては,PBX配下の電話オペレータにそのままつなぐが,同時に3件以上の問い合わせが入った場合は,3件目以降の問い合わせに対してAsteriskサーバーが「ただ今おつなぎしますので,オペレータの電話が終わるまでお待ちください」という音声応答メッセージを流す。その上で,オペレータの電話が終わり次第,保留していた電話をオペレータにつなぐ。

写真4●IVRシステム用に用意した手のひらサイズのAsteriskサーバー
写真4●IVRシステム用に用意した手のひらサイズのAsteriskサーバー
フリー・エンジニアであるAsteriskユーザ会の高橋隆雄氏の協力で導入した。CFカードをストレージに使い,Linux上でAsteriskを動かしている。

 応答システムがなかった時は,3件目以降の問い合わせをPBXが話中処理していた。応答システムの導入で利用者を引き止められるようになった。

 IVRの設定は菊池氏自らが記述した。「Linuxの設定ファイルをカスタマイズするような感覚で済むため,ハードルは低い。IVRはこれまで“電話職人”の世界であり,機能追加のたびに費用が発生していた。Asteriskによって,(これまで電話の専門家しか設定できなかった)“聖域”がどんどん無くなってきている点が面白い」(同)。

 IVR専用のAsteriskサーバーは,フリーエンジニアでAsteriskユーザ会の高橋隆雄氏が作成した手のひらサイズの製品を採用した(写真4)。「価格は2万円程度。置く場所にも困らないので重宝している」(同)。

合成音声を使った上映案内に応用も

 菊池氏は,さらにAsteriskの応用範囲について思いを巡らせる。「Asteriskと連携できる合成音声エンジンがあるのでそれを利用すれば,映画館の運営に必要なアナウンスをAsteriskで制御できそうだ」。

 同社が展開するシネマ・コンプレックスでは,利用者は映画のチケットを事前に購入しておき,上映時間が来るまで館内の別のアトラクションを楽しむケースが多い。現在は上映スケジュールに沿って,スタッフがその場で来場者にアナウンスしているという。「アナウンスするための情報自体はデータ化されている。それをAsteriskが参照して合成音声を作成した上で,PBXを経由して構内放送につなげばシステム化できる」(菊池氏)。

 別の応用分野として,問い合わせ窓口の集約化も検討している。「各拠点の問い合わせ窓口にIVRを設置すれば,電話の転送先は自由に設定できる。何もその拠点に電話オペレータが在席する必要はない。オペレータを1カ所に集約すれば簡易なコールセンターをAsteriskで実現できる」(同)。

 菊池氏は自由に手を加えられるオープンソースのAsteriskを採用したことで,システムの新しい可能性が次々に広がっていく点に魅力を感じているという。「今回のプロジェクトを通じてAsteriskのコミュニティには大変助けられた。今後,コミュニティに対して積極的に成果をフィードバックしていきたい」(同)。

ここがポイント

目的:低コストで内線電話網をIP化

システム:オープンソースのAsterisk

構築費用:400万~500万円

効果:Asteriskを電話システム拡張に応用。自動音声応答に利用し顧客対応を強化

●会社・プロフィール
拠点数: 約30(主に映画館などの拠点)
売上高: 2010億2600万円(親会社である東宝の2006年度の連結売上高)
従業員数: 約2800名(パート・アルバイトも含む)

●ネットワーク・プロフィール
拠点のPBXにVoIPゲートウエイを接続し,拠点間通話をIP化。全体の呼制御をAsteriskが担う。