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 住友林業は2007年12月末,全国116拠点の支店や営業所を結ぶ店舗網を刷新した。画像データの送受信などで急増するトラフィックに対処するため,従来の専用線サービスから,安価なBフレッツやADSL回線に切り替え,高速化と通信コストの削減を両立した。

BB回線の信頼性を運用でカバー

 足回りを専用線系のサービスからブロードバンド回線へと移行する際に,必ず浮上してくるのが信頼性の低下や障害時のサポート体制の不安といった問題である。これらに対して住友林業は,大きく二つの方策で対処した。

写真1●店舗ネットワークをブロードバンド回線に切り替えた住友林業の清水和佳・情報システム部企画グループチームマネージャー
写真1●店舗ネットワークをブロードバンド回線に切り替えた住友林業の清水和佳・情報システム部企画グループチームマネージャー

 まず,すべての店舗にバックアップ回線として別系統のADSLを引き込み,冗長構成を取ること。もう一つは,専用線サービスでは通信事業者が保証するサービス品質や障害監視などの状況チェックを自社で行い,定期的にレビューすることだ。住友林業の清水和佳・情報システム部企画グループチームマネージャー(写真1)は,「ブロードバンド回線は,通信事業者が面倒を見てくれない分,ユーザーが工夫と手間をかける必要がある。十分な備えがあれば使いこなせる」と語る。


顧客別サイト開設でトラフィック増

 住友林業の社内ネットは,東京都内の本社,設計センターなどがある幕張センター,業務系システムを設置するITセンター,社内からのインターネット接続および外部向けWebサーバーを設置したインターネット・データ・センター(IDC)の4拠点を中心とした構成を取る(図1)。これら4拠点間は,KDDIの広域イーサネット「Powerd Ethernet」を使い,10Mビット/秒以上の速度でメッシュ状に接続している。今回の店舗網刷新によって足回りをブロードバンド化した支店や営業所は,これらの4拠点に対してKDDIのIP-VPNサービスを経由して接続する構成を採る。

図1●兵神装備の社内ネットワーク構成
図1●住友林業のデータ系ネットワークの構成
IP-VPNをメイン・ネットワークとして運用し,インターネットVPNでバックアップする構成。本社など主要4拠点間は別途広域イーサネットでつなぐ。画像ファイルを送受信する業務が増えたため,店舗側のアクセス回線は増速する必要があった。
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 木造住宅の最大手メーカーである住友林業は,一生で最大の買い物と言われる住宅を購入する顧客向けに,「クラブフォレスト」と呼ぶ会員制のオーナー専用ポータルサイトを提供している。このサイトでは,各拠点の営業担当者や建築業者が,デジタルカメラで撮影した建築現場の状況を逐一アップロードし,住宅に使われる工法や技術などの情報も提供する。

 こうした顧客向けサービスの強化によって,Webサイトの情報が豊富になり,支線系のアクセス回線を増速する必要に迫られていた。

光化で帯域は数十倍,コストは3割減

 店舗網をFTTH回線に切り替えるにあたって,慎重に検討したのが回線の信頼性である。様々な導入事例や,ネットワーク・インテグレータからの情報提供などを参考にしたところ,「Bフレッツを100前後の拠点すべてに導入すれば必ず月に数件はトラブルが発生することが予想された」(清水氏)。

 このためメイン回線としてNTT東西のBフレッツを採用するほか,別の通信事業者のアクセス回線をバックアップ用として導入することにした。バックアップ用の中継網をメインのKDDIとは異なる業者にすれば,通信障害に対する備えを高められる。そこで,ソフトバンクテレコムの企業向けインターネット接続サービスを使った自営のインターネットVPNを運用することにした。

 この組み合わせで通信料金は,1拠点につきメイン側とバックアップ側の合計で月額5万円程度になった。以前の構成では1拠点につき1Mビット/秒程度の速度で月額10万円前後の回線費用がかかっていたのが,帯域は数十倍に増え費用は半減できると試算した。下がった回線費用の一部は,センター拠点側の帯域増強費用に充て,全体では約3割のコスト削減を実現する予定を立てた(表1)。

表1●ネットワーク切り替えによるコスト削減効果の概算
専用線系のアクセス回線を割安のブロードバンド回線に切り替えることで増速しかつ月額費用も3割近く削減することを狙った。
表1●ネットワーク切り替えによるコスト削減効果の概算

ロードサイド店で取りこぼしが発生

 ところが2006年1月,準備の整った拠点から切り替えを進める中で,予定通りに回線を引けない拠点が出てきた。「発注段階では,電話番号による事前調査で,9割の拠点がエリア内との回答をもらっていた。だが,工事の段階で開通できない場所があり,想定外のコスト増の要因となった」(清水氏)。

 一通り全国で移行作業を実施した2006年5月の段階では,12拠点でBフレッツが開通できず,さらに23拠点でADSL回線を開通できなかった。この影響で回線料金は,当初の予定より月額で60万円ほど余計に発生することになってしまった。

 開通できなかったのは同社営業拠点の立地条件が関係する。地方拠点の多くは主要街区ではなく,顧客が建築する住宅に近い新興開発地帯の幹線道路沿いにある(写真2)。駐車場を用意したり,モデルルームなどを展示するには,郊外の立地が適しているからだ。

写真2●住友林業のロードサイド店舗
写真2●住友林業のロードサイド店舗
来客用の駐車スペースやモデルルーム設置のため,ブロードバンド回線のエリア外と判定されやすい郊外に店舗がある場合が多い。

 Bフレッツの場合,こうした場所では周囲に他の潜在ユーザーが期待できないため,NTT東西がなかなかエリア化の予定を立ててくれなかった。またADSL回線は,エリア内であってもNTT局舎からの距離が遠くなるため,1Mビット/秒以上という要求速度が得られないこともあった。

 予想外の事態だったが,ブロードバンド回線が開通できるまで代替回線を使うしかなかった。メインにはイーサネット専用線やフレッツ・ADSLを使い,1Mビット/秒以上を確保。バックアップ経路は以前から引き込んでいるISDN回線を使うことにした。

ベストエフォートにPDCAで対応

 代替回線はあくまで一時的な措置に過ぎない。予定通りのコスト削減効果を実現するため,代替回線を使う拠点では可能になり次第,BフレッツとADSL回線に切り替えるつもりだった。

 ところが,ここでも専用線系のサービスに比べてサポート体制の薄いブロードバンド回線の弊害に直面した。未開通だった拠点がようやく提供エリアとなっても,「こちらから打診しない限り,通信事業者からは開通可能になったという連絡は来なかった」(清水氏)のである。

 そこで住友林業では,通信事業者によるサポートが足りない分を,自社の運用体制でカバーすることを目的に,ネットワーク運用の「PDCAサイクル」を策定した。その中で,通信事業者に対して継続的にブロードバンド回線の開通時期を確認する作業を盛り込み,早期のサービス提供を要求し続けた。こうした対応が実を結び,2007年12月末までに,ISDN回線しか利用できない北海道・紋別市の山林事業所以外,すべての拠点でBフレッツとADSL回線を導入できた。

月次レポートでサービス品質を点検

 住友林業がネットワーク運用で策定したPDCAサイクルは,通信事業者に対する要求以外にも,通信経路の可用性チェックや,速度性能の維持など,数項目にわたる(表2)。これらの項目はオープンソースのトラフィック監視ツールである「MRTG」などで常時監視し,さらに月に3回,転送速度などを測定することでチェックしている。この結果を基に,社内の担当部署による定例会と社外のネットワーク・インテグレータを交えた定例会を毎月開催し,サービス品質を評価。対策を検討している(写真3)。

表2●住友林業が月次で評価しているネットワークのサービス品質
通常のネットワーク監視に加えて,履歴を月次で評価することで,ブロードバンド回線の品質維持や対策を検討する。
表2●住友林業が月次で評価しているネットワークのサービス品質

写真3●サービス品質を評価する月次レポート
写真3●サービス品質を評価する月次レポート
レポートは30ページにも及ぶ。社内の担当部署による定例会と,社外のネットワーク・インテグレータを交えた定例会を毎月開催している。

 Bフレッツに切り替えてからは,当初予想した通り毎月数件程度の拠点で,回線の不通が起きることが分かった。しかし,バックアップ回線に自動的に切り替えることで,ネットワークの可用性は社内基準の99.5%をクリアしているという。

 メイン回線からバックアップ回線への切り替え方法は単純な仕組みを導入した。具体的には,自社ルーターからKDDIのIP-VPN網に対して30秒間隔でPingを発信し,一定時間応答がない場合に自動的にADSL回線に切り替えるというものだ。ルーターには,二つの固定経路を登録しておくだけで,切り替えが実現する。

 実際にメイン回線に障害が起こった場合,30秒から1分程度のダウンタイムは発生するが,問題なく使えるレベルだという。2006年7月にNTT東日本の営業エリアでBフレッツの大規模障害が起こったときも「ほとんどの拠点で,障害に気付く社員はいなかった」(清水氏)という。

2年間で2割のADSL回線が品質劣化

 ただし,この構成では通常はADSL回線を全く使っていないことになる。それでも全体としての回線費用は低く抑えられるため,導入時は問題視していなかった。2007年に全拠点の完全移行が見えてから,このADSL回線の帯域を活用し,ネットワーク全体としてのコストパフォーマンスを高める検討を始めた。まずは,社員数の多い支店から順次,ビデオ会議アプリケーションを導入し,活用方法などの検証を進めている。

 こうした計画が持ち上がる一方で,ADSL回線の通信品質に問題が浮上してきた。開通時には,すべての拠点で1Mビット/秒以上の実効速度が維持できることを確認していた。それにもかかわらず,開通から2年過ぎたあたりで,1Mビット/秒を切る拠点が多数報告され始めたのだ(図2)。2007年12月時点では,ADSL回線を導入している拠点の2割に近い17拠点で,実効速度が月平均数百kビット/秒という結果になった。「1Mビット/秒以下では,ビデオ会議が通らないだけでなく,メイン回線のバックアップ用途にもならない」(清水氏)。ソフトバンクテレコムに調査を依頼中だが,住友林業では,メタル回線の劣化やISDNとの干渉が原因ではないかと推測している。

図2●全体の16%にあたるADSL回線が1Mビット/秒以下に実効速度が低下
図2●全体の16%にあたるADSL回線が1Mビット/秒以下に実効速度が低下
開通から2年で,回線の敷設環境の変化などから実効速度が200k~400kビット/秒に落ちたところが17拠点あった。ソフトバンクBBに申し入れ,状況を調査中。

 そこで,実効速度が低下した拠点では,一部で導入を始めているソフトバンクテレコムの光回線に切り替えることを検討中だ。

ここがポイント

目的:回線コストの削減と通信の安定

システム:FTTHとADSLの2回線による冗長構成

導入時期:2006年1月から2007年12月

効果:設計情報などを円滑に更新。余った帯域でテレビ会議も導入可能に

●会社・プロフィール
拠点数: 116(全国300カ所ほどの展示場は除く)
売上高: 9116億円(2007年3月期連結)
従業員数: 1万2259名(連結)

●ネットワーク・プロフィール
NTT東西のBフレッツとソフトバンクテレコムのADSL回線の2回線で,営業拠点を冗長化。自社で設定したSLA数値を管理し,ベストエフォート回線を安定運用する。