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二百数十億円の靴修理市場で3割近いシェアを誇る「ミスターミニット」。運営するミニット・アジア・パシフィックは数年前まで経営危機に瀕していた。4期連続の増収増益へと転じた要因は、主要駅を包囲するドミナント戦略。3坪(約10m2)の店舗で、高収益と高品質のサービスを両立する仕組みを築いた。超小型店は出店投資が少なく、迅速に出退店の判断を下せるのも強みだ。

 「これくらいの修理でしたら、10分ほどで終わります。そちらの椅子でお待ちください」─。カウンター越しに笑顔で告げた店員は、3坪(1坪=3.3m2)ほどの店内にぎっしりと並べた多数の工具や装置に手を伸ばしていく。傷がついたヒールを平らにならし、新しいヒールを取りつける。通勤途中にヒールを折ってしまった女性客が安堵の表情を浮かべるのを見て、店員の顔もほころぶ。

 短時間での修理を売り物に、特に首都圏で働く女性に抜群の知名度を誇る靴修理チェーン「ミスターミニット」。運営するミニット・アジア・パシフィック(神奈川県川崎市)の社長兼CEO(最高経営責任者)に昨年11月就任した石黒泰時氏は、「2~3坪あれば迅速に出店できる。店員の大半が訓練を重ねた正社員で、修理のスピードも品質も高い」と強みを明かす。実際、出店コストは数百万円で済む。

●ミニット・アジア・パシフィックの会社概要
●ミニット・アジア・パシフィックの会社概要

 ミニットは2000年以降、首都圏の主要駅で改札口周辺の極小スペースに出店攻勢をかけてきた。特に東京の新宿駅や池袋駅、有楽町駅など、毎日数百万人が乗降する巨大ターミナルでは、すべての改札口を押さえるべく、複数の店舗で駅を包囲するドミナント戦略を取る。これで認知度を高め、靴底やつま先に傷をつけた女性客が次々と駆け込むようになった。年間の利用客は約400万人。最近では男性客も増えており、この超小型店が成長の原動力となっている。

ミニット・アジア・パシフィックの再成長の原動力として、2000年度から積極的に出店している駅周辺の超小型店。大きな駅では改札口からの乗降客の動線を分析し、複数の店舗を設置
ミニット・アジア・パシフィックの再成長の原動力として、2000年度から積極的に出店している駅周辺の超小型店。大きな駅では改札口からの乗降客の動線を分析し、複数の店舗を設置

出退店ルールを厳格化、再び成長軌道に

 ミニットは1972年、ベルギーに親会社を持つ外資系企業として日本に上陸した。93年度まで徹底した拡大戦略を採り、店舗数は600を超えた。結果的にはこれが過剰出店となり、店舗数がピークに達する1年以上前から業績に陰りが見え始めた。91年度に売上高約110億円、営業利益30億円強に達した業績も、2002年度には売上高51億円、営業利益6億円弱にまで落ち込んだ。

 同社を立て直したのは、1999年にヘッドハントされて就任した前社長の山口康寿氏(現・副会長)だ。1店ごとの業績や客層、立地などを徹底的に情報分析した後、出店戦略を大胆に見直し、教育制度や評価制度も刷新した。この経営改革が実を結び、2007年3月期は売上高64億円、営業利益10億円弱と、4期連続の増収増益を達成した。

 さらに経営の自由度を高めようと、2006年2月に経営陣14人によるMBO(経営陣による企業買収)で親会社から独立。投資ファンドの資金協力を受け、同年6月には豪州など4カ国のミニットを傘下に収めた。将来の成長の芽を増やすためである。

 靴修理店を全国展開する大手チェーンは、ミニットを除くと、イオングループのリフォームスタジオ(東京都中央区)が「ミスタークラフトマン」を104店舗(2007年2月時点)運営している程度。個人営業店が圧倒的に多いことから、石黒社長は市場拡大の余地は大きいと分析する。現在約260店の店舗数を、5年後に400店にまで伸ばす計画だ。

 ミニットは参入当初から、全国の百貨店内に多数の店舗を抱え、安定的な収益源としてきた。だが、バブル期に出店した地方のスーパーやショッピングセンター内の店舗の多くが業績の足を引っ張った。百貨店と同じ収支構造の店舗を、顧客層が異なり、需要も少ない場所に出店したためだ。

 そこで山口前社長は出退店ルールを厳格化した。年商1000万円未満の店舗は「撤退」、1000万~2000万円の店舗は外部に「業務委託」する。収益力の高い2000万~4000万円の店舗はサービス品質の向上に努め、4000万円以上の店舗は店員を増やして本社が直接指導する重点強化体制を取る。

 さらに、2000万円以上の年商を見込める場所に集中的に新規出店する方針を決定。この戦略の切り札として考案したのが超小型店だ。平均5坪ほどの百貨店内の店舗では、靴修理と合鍵製造のほかカバン修理も手がける。超小型店はサービスメニューを絞り込み、外装や什器も簡素化、いびつな形の極小スペースにも出店しやすくした。

 設備は他店に転用できるので、出退店のフットワークは一層軽くなる。「社内システムを強化し、事業の仮説検証のサイクルを高速で回したい」と話す石黒社長にとって、フットワークは大きな武器だ。

 1998年度末には1店も無かった駅改札近くの店舗は、2007年末に43店。駅ビル内の13店を加えると、直営店198店のうち、駅周辺店は実に28%を占めるまでになった(下図を参照)。超小型店の成功は収益力を見れば明白だ。特に坪当たりの売上高と客数が高い数値を示す。百貨店内の店は坪当たり年商680万円、同客数3600人だが、駅周辺店は1033万円と5333人となる。伊勢丹に近い「東京メトロ新宿3丁目店」は年商1億円を上回る。

●駅周辺に超小型店を積極展開する体制を整え、高い坪単価と顧客回転を実現。この事業モデルを人材教育・配置戦略が支える
●駅周辺に超小型店を積極展開する体制を整え、高い坪単価と顧客回転を実現。この事業モデルを人材教育・配置戦略が支える
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きめ細かな人員配置で高収益性を確保

 同社は高い収益力を確保するため、人員配置面でも工夫をいくつも凝らしている。最たる例が複数の駅前店を統括する店舗マネジメントだ。例えば新宿駅周辺には7店あるが、店舗ごとの来客数の分布を日々分析し、時間帯に応じ、店舗間の配置換えをして各店の人員を増減する。店員の食事や休憩時間を確保しつつ、少ない人数で「待ち時間ゼロ」を実現するなど、顧客満足度を高めている。

 店舗の年商と社員の等級を連動させているのも、人員配置面での工夫の1つ。入社時が1等級で、新人研修後に修了認定を獲得できれば2等級。その先は6等級までが店員で、7~9等級が店舗マネジャー、複数店舗を管理するスーパーバイザーは10等級となる。昇格試験や普段の働きぶりによって、年商が高い店舗に配属させても大丈夫だと判断されると、等級は上がる。こうした透明性の高い評価制度が、社員の士気を高める。また等級が同じ社員でも、作業の早さが強みなら駅周辺店に、コミュニケーション能力の高さが強みなら百貨店内の店舗に配属するケースが多い。

 実は1店当たりの平均店員数は1.5人にすぎない。1人で店舗を預かることも多いため、人材教育も必須だ。派遣やパート従業員を使えばコスト削減につながるが、正社員主義でサービス品質を優先させる。「修理は単に早いだけではなく、どんな靴でもきちんと直すことが重要。だがそんな技術は簡単に身につかない。30年近い事業経験を基に、1999年に確立した教育制度が、当社を競争優位に立たせている」と、営業推進部トレーニング課の吉田彰祐スーパーバイザーは語る。新人研修は7週間に及び、店舗や研修所での技術訓練はもちろん、疑似店舗で接客方法まで丁寧に指導する。

 石黒社長は、400店体制の実現には新しいタイプの店舗開発と接客力の底上げが欠かせないと見る。「望み通りの修理ができない時にどうやって喜ばれる代替案を提供するか、クレームがあった時にいかに最善の対応をするかなど、優れた接客こそが店舗拡大戦略の鍵を握る」と強調する。

 接客の向上には、社員が誇りを持って仕事に取り組むことが何よりも大切だ。そこで今年2月、靴修理技術を競う社内コンテストを開催する。いずれは社外の靴職人も参加するイベントに発展させ、優勝者に日本一の靴職人という称号を与える。そんな優れた手腕を持つ社員を「マイスター」と位置付け、役員と同等以上の報酬を与えたいという。この夢が実現する時、同社は業界で盤石の地位を築いていることだろう。

仮説検証のサイクルを高速で回せるのが強み
石黒 泰時 社長
石黒 泰時 社長
いしぐろ やすとき氏●1965年生まれ。生命保険会社在職中に米国でMBA取得。ローランド・ベルガーなどでコンサルタントを経験後、2007年1月にミニットEアジアEパシフィック入社

 2年後をめどに上場を目指すことを1つの大きな通過点として、2007年度からいくつもの成長戦略を実践し始めた。その1つは「ミニットコンシェルジュ」と名付けた新タイプの店舗だ。新宿高島屋に続いて、2007年11月に開業した大丸東京店に2号店を設けた。一見しただけでは靴修理店とは分からない高級サロンのような外観で、従来型店舗よりもさらに本格的に靴とカバンの修理やクリーニング、補色・着色までできる。この店舗の狙いの1つは、当社の技術力の高さをアピールすること。現場の士気向上にもつながる。5年間で20店くらいまで増やしたい。

 ウェブサイトを活用した靴修理の宅配サービスも開始。当社は西日本地区の出店数が少ないが、そうした地域のニーズにも対応できる。

 さらに、靴メーカーの靴修理業務を請け負う事業に力を入れ始め、自社店舗だけで販売していたシューケア製品やフットケア製品の販売チャネル拡大プロジェクトも立ち上げた。

 靴修理事業は試行錯誤が欠かせない。いろいろな形でサービスを提供してみないと、市場に受け入れられるかどうか予測しづらい。1店当たりの投資が少ない当社の事業モデルは新しいことをやるリスクが小さい。様々なデータを素早く収集できるように情報システムを強化し、仮説検証のサイクルをどんどん回したい。