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今回の制度を企画したアサヒビールの小路明善 常務取締役常務執行役員
今回の制度を企画したアサヒビールの小路明善 常務取締役常務執行役員
写真撮影:北山宏一氏

 アサヒビールは2007年末から複数の役員にコーチをつけ、コミュニケーション能力の向上などを図るエグゼクティブコーチングを導入した。1カ月に2回の割合でコーチと1対1で面談している。同社では2006年から支店長や課長などラインマネジャー170人を対象にコーチング研修を行っているが、役員での実施は今回が初めてとなる。

 エグゼクティブコーチングは通常、経営トップが対象であることが多い。アサヒビールが役員陣にコーチングプログラムを提供した狙いは、「役員層のリーダーシップの幅を広げることにある」と、導入を企画した人事担当の小路明善常務取締役常務執行役員は説明する。

 「自分も含め、役員の多くは『俺についてこい』という指示命令型のリーダーシップを強みとしているが、コミュニケーションを改善して、部下のモチベーションを高める指導育成型のリーダーシップも必要だ。リーダーシップの幅を広げるには、コーチングが効果的な方法だと考えた」。

 コーチ・エィの鈴木義幸取締役社長がコーチを務める。制度を企画した小路常務自身もコーチングを受けている。1対1のコーチングだけでなく、小路常務が参加する人事部の会議をコーチに見学してもらい、振る舞い方を評価してもらった。「会議が始まってから8分間、資料を読むばかりでメンバーの顔を見なかった」「質問をしたのは30分経ってから」「笑顔が一度もなかった」といった鈴木氏の客観的評価はショックでもあり、自分を見つめ直すきっかけにもなったという。「普段部下には『いろいろな人の知恵を集めよう』と言いながら、自分はきちんと部下と向き合わず、意見を引き出そうともしていなかったのではないか」。こうした気づきから、部下の一人ひとりにもっと関心を持とうと努めるようになったという。

 「指導育成型のリーダーシップが優れていて、指示命令型が駄目なわけではない。状況に応じて使い分けができることが必要」(小路常務)。例えば新しい人事制度を設計する過程では、専門知識を持つ部下を尊重して広く意見を引き出す支援型のリーダーシップが有効に機能し、それを全社に整然と導入する局面では、人事部員や支社長など現場のマネジャーに的確な指示命令を出すリーダーシップが不可欠になる。「役員という上位のマネジャーほど複数のリーダーシップを身につける必要がある」と小路常務は話す。

 「できるリーダーは必要に応じてリーダーシップを使い分けられる」という認識は、欧米企業のリーダーにも浸透しつつある。人事コンサルティング会社の米ヘイグループによれば、リーダーシップのスタイルは「指示命令型」「指導育成型」「民主型」など6種類に分けられるという(表参照)。ヘイグループの日本法人、ヘイ コンサルティンググループの三宅充祝コンサルタントは「安定的な業績を上げる企業のリーダーは、1つのスタイルに依存せず、4つ以上のスタイルを状況に応じて使い分けている」と話す。今回の制度は、役員層の現場への影響力を強化しようとする極めて意欲的な取り組みだと言えるだろう。

表●6つのリーダーシップのスタイル
(ヘイ コンサルティンググループの分類方法に基づいて作成)
リーダーシップのスタイル 特徴 効果的な局面
指示命令型 細部のコントロール
「いつまでに何をどうやるべきか」を明確に指示し、その進ちょく状況を細かくチェックする
業績回復が急務、リストラ推進
指導育成型 人と組織の育成
多少時間がかかっても、部下の成長を優先し、組織力を高める
中長期に部下を育成できる環境
ビジョナリー型 目的意識の共有
「なぜその仕事をするのか」目的やビジョンを相手に理解させ、人を導く
変革が必要なとき
民主型 参加を求め、コミットメントを引き出す
メンバーからの意見を聞き、コミットメントを求め、組織の求心力を高める
部下の自立性が高く、意欲的
ペースセッター型 率先垂範
高い目標を設定し、自ら牽引することで周囲を引っ張る
ベンチャー企業や新規事業の立ち上げ
調和型 調和・連携の重視
人と人との関係や調和、情緒的な側面を重んじる
業績がよいとき、ストレスのかかる職場

■変更履歴
本文中、コーチ・エィの鈴木善幸取締役社長と記載していましたが、コーチ・エィの鈴木義幸取締役社長です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/07/15 17:00]