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JALの航空機を整備する、シンガポールにあるSASCOの現場
JALの航空機を整備する、シンガポールにあるSASCOの現場
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 日本航空(JAL)が航空機の客室内における顧客の快適性を高めるため、機体整備時に発生する客席周りの傷などを無くす「ゼロピックアップキャンペーン」を実施している。整備作業の手順や使用する工具を見直し、客室に傷をつけるといったミスのゼロ化を徹底する。

 JALは国内の整備拠点が手狭であるなどの理由から、所有する航空機の約40%については、海外の整備専門会社に作業を委託している。そのため、ミスのゼロ化を実現するにはアウトソーシング先まで巻き込んだ現場改善が不可欠になってくる。JALの熊澤昭男・整備本部海外機体整備管理部主席領収検査員は「日本の整備拠点に海外の委託先の整備士を呼び寄せて技能研修するなど、互いに連携を深めている。改善ノウハウを共有し、整備の品質を向上させる」と話す。

 例えば、JALから大型機の整備を受託しているシンガポールの整備会社STアヴィエーションサービシス(SASCO)は、JALからの改善要請がきっかけで整備不具合のゼロ化を進める1社である。JALは整備が終わった航空機を引き取る時に点検する客室内の不具合指摘事項がゼロになるようにSASCOに強く求めた。以前は1機当たり、50~70件の細かな指摘事項が見つかるのが実情だった。指摘事項の多くは、整備時に付く客室内の小さな傷である。JALからSASCOに出向している渡辺耕士取締役は「ほかの航空会社と比べても、JALからの要求レベルは高いことに気付いた。品質向上を目指し、改善に取り組んでいく」と語る。

シンガポールでもトヨタ流改善

 JALからの要請を受けたSASCOは、トヨタ生産方式をベースにした整備業務の改善に取り組んでいる真っ最中だ。2005年からトヨタ流の手法に基づいて、航空機整備における標準作業の策定を進めてきた。その結果、2008年4月以降はJALから受託した10機すべてで、不具合の指摘件数がゼロになっている。ゼロ化を達成しているのだ。

整備に使った工具を機内に置き忘れないようにバーコードで管理
整備に使った工具を機内に置き忘れないようにバーコードで管理
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 SASCOの改善チームがJALの領収検査員から指摘された事項をまとめ上げ、不具合が出た原因を1つずつ現場の担当者とともにつぶしていき、再発しないような標準作業に落とし込んできた取り組みが実った。使用する冶具や作業手順を見直すことで、不具合が出ない方法を考案した。

 例えば、整備の過程でいったん機体から取り外した客席脇のテーブルを元の位置に戻す際、これまでは担当者が目視で位置を確認していたため、品質にばらつきが生じていた。そこで、テーブルが同じ高さにそろっているかどうかをレーザーポインタで誰でも正確に確認できるようにした。

 作業中に客席に小さな傷をつけてしまうミスも多かったため、擦り傷の原因となっていた脚立の形状を見直した。また、作業中に使う工具を誤って機内に置き忘れないように、使用後には元の場所に戻したかどうかをバーコードで管理し始めた。こうした改善でJALからの指摘件数がゼロになっただけでなく、平均的な作業日数が従来の29日から27日に、2日間短縮できた。

 SASCOの改善の骨格を成す「SASCOプロダクションシステム」は、トヨタ生産方式に基づいている。SASCOのステファン・ロー社長(2009年1月16日からは航空機整備事業部門のシニアバイスプレジデントに就任)によれば、「改善手法としてはシックスシグマの導入も検討したが、現場の基準を設けて整備作業を標準化するというトヨタ流の考え方のほうが当社には合っていた」と明かす。トヨタ生産方式については、日本のコンサルティング会社やシンガポールの教育機関から指導を受けて、手法を学んでいるという。

改善チームのメンバーたち。写真中央がステファン ・ロー社長