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 コネクター製造大手の日本モレックス(神奈川県大和市)が、同社製品に含まれる化学物質の情報を最短1日で取引先に提供できる体制を整えた。自動車メーカーをはじめとする同社の主要な顧客企業が化学物質の使用を規制し、部品メーカーに対して使用物質の詳細な情報提供を求める動きが強まっている。日本モレックスは2006年から化学物質管理システムを本格的に活用し、2009年7月までに従来2週間程度を要していた報告までのリードタイムを最短1日まで短縮した。

 同時にシステム化で、顧客企業への報告業務を担当していた技術情報部のスタッフを、これまでの30人から15人に半減。人件費に換算すれば、年間で1億円程度の削減効果があった。

 日本モレックスは、世界17カ国に生産拠点を展開する米モレックスグループの日本法人として、自動車や電子機器など幅広い完成品メーカーにコネクターを提供している。製造業では、2000年にEU(欧州連合)が自動車部品への環境負荷物質の使用禁止を定めたことを皮切りに、環境に有害な物質の使用が相次いで規制されている。国内でも多くの完成品メーカーが部品メーカーに対し、どのような物質を使用しているかについて、詳細な情報提供を求める動きが一般化している。

 そこで日本モレックスは技術情報部の30人のスタッフが、顧客の要求に応えて各部品の成分表などを作成し、提出していた。「当初は手作業で対応していたが、顧客によって報告書のフォーマットが異なるなど作業が複雑で、人海戦術の限界を感じるようになった」と情報技術システム部の今枝秀樹部長は話す。

 そこで2004年から化学物質管理のシステム化に着手した。当初は国内での化学物質規制に特化した専用パッケージソフトの採用も検討したが、グローバルに事業を展開する顧客企業が多いため、多様な情報提供要求に対応できる汎用性の高いシステムを開発する必要があると判断した。

 そのため、独SAPの環境マネジメントソフト「SAP EHS Management」を採用した。モレックスグループは基幹業務にSAPのERP(統合業務管理)パッケージを利用しており、このデータを化学物質管理にも利用できることに注目した。

 2005年にシステムが完成し、既存製品の物質データ収集や、新製品のデータ登録手順整備などを進め、2006年から本格的に活用している。同社が扱う2万数千点の製品について、ERPで管理している部品表(BOM)のマスターデータを化学物質管理システムに取り込み、材料ごとの化学成分データと照合して、含有化学物質情報を洗い出す。顧客から情報提供を求められた際には、このデータベースからデータを抽出し、顧客ごとのフォーマットにデータを転記して資料を作成する。

 「手作業で対応していた時期は、顧客の要求に応えて情報を提供するまでのリードタイムが2週間から最長で1カ月程度かかっていた。現在は最短で1日で提出できるようになった。平均すると従来の4分の1まで短縮できている」と今枝部長は話す。

 既存製品の情報提供だけでなく、新製品の開発プロセスでも、化学物質管理をシステムは活用されている。「含有物質の安全性が確認された材料だけを採用するなど、環境配慮設計を実現している」(今枝部長)という。