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写真1●クボタ堺製造所の大型トラクター最終組立工程の様子。ラインの左右両側に部品の台車を配置。改善活動を担当したのは本機製造部本機製造第二課の西村隆志課長(左)と同課の奥直人職長。<br>(写真:吉田竜二)
写真1●クボタ堺製造所の大型トラクター最終組立工程の様子。ラインの左右両側に部品の台車を配置。改善活動を担当したのは本機製造部本機製造第二課の西村隆志課長(左)と同課の奥直人職長。
(写真:吉田竜二)
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 農機・建機大手のクボタは2009年6月までに、堺製造所(堺市)の大型トラクターの最終組立工程で「5ゲン」改善手法を活用した工程改善を定着させた。作業担当者の歩行時間をストップウオッチで計測し、「部品を取りに行かなくて済むようにする」「工具を手元に置く」といった細かな作業改善を続けてきた。1つひとつは数秒の時間短縮に過ぎないが、何度も改善を重ねてレイアウトを工夫し、大規模な設備投資をせずに2年間で生産性を15%向上、組立ラインに従事する人員を20人から17人に削減する成果を上げた。

 今回の工程改善を主導した本機製造部本機製造第二課の西村隆志課長は、クボタが2002年4月から運営している「5ゲン道場」で、5ゲン(現場・現地・現物・原理・原則)の専門教育を受けた。5ゲン道場は既に約800人の卒業生を輩出。各職場に戻った卒業生がクボタの改善活動継続の原動力になっている。

「付加価値を生まない時間」をストップウオッチで計測

写真2●工場内の掲示板には歩行距離短縮の過程が細かく書き込まれている。<br>(写真:吉田竜二)
写真2●工場内の掲示板には歩行距離短縮の過程が細かく書き込まれている。
(写真:吉田竜二)
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 クボタの5ゲン改善手法では、作業者が付加価値を生む動きをしている「FT(ファンクションタイム)」と付加価値を生まない動きをしている「IT(アイドルタイム)」を定義している。5ゲン道場でもこの考え方や測定方法を徹底して教育する。今回の工程改善でも、作業を観察してストップウオッチで計測し、ムダを洗い出し続けた。

 大型トラクターの部品は約3000点もあり、これを組み付ける作業の生産性を上げるには、「部品供給を円滑にすることがカギ」(西村課長)だった。FTやITを測定したところ、従来の作業工程では、離れた場所まで部品を取りに行って持ち場に戻るための歩行時間が長く、ITが作業全体で多くの比率を占めていた。

 そこで、部品供給方法の改善を検討した。具体的には、中央のベルトコンベアーで組み立て中のトラクターを流し、その左右両側に部品供給用の台車や作業担当者を配置するようにした。左右両側から部品を供給する工夫で、部品を運ぶためにかかる歩行時間を半減させ、生産性向上につなげた。

 作業担当者に無理を強いるのではなく、部品を取りに行くといった付加価値を生まない時間を減らすことで、無理なく生産性を上げるのが5ゲン改善のポイントだ。本機製造部本機製造第二課の奥直人・職長は、「同じ作業を安全で素早くできるようにして、しかも作業者に『楽になった』という実感がなければ、改善は継続しない」と話す。クボタの堺製造所で5ゲン改善手法に取り組み始めたのは1994年だが、当初は原理・原則を現場に強制する面があり、すぐには定着しなかったという。そこで、「5ゲン道場」を通じて手法を理解して現場を動機付けしながら改善活動を進められる人材を育成し、改善の継続を図っている。