住宅メーカーのエス・バイ・エルは、戸建て住宅の建築現場向けに携帯電話の着信記録を応用した出退勤管理システムを開発し、運用開始から約半年で数千万円のコストを節約したことを明らかにした。出退勤管理システムによって現場作業者の勤怠時間を見える化し、労務費を正確に把握。これに伴い、労働者災害補償保険(労災保険)の算定を、賃金総額に保険料率をかけて定める「実質賃金方式」に移行したことにより、1棟当たり月額約9万円を支払っていた労災保険料を半額近くに節約できたためだ。同社によると、労災保険料の算定を実質賃金方式に切り替えた競合企業はあるものの、携帯電話の着信記録を応用するシステムを運用したのは初めて。
労災保険料は通常、賃金総額に保険料率を掛けて算定する実質賃金方式で算定する。ところが、一般に住宅の建築現場では労務費を正確に把握するのが難しい。多数の作業者が交代で現場に出入りし、一人ひとりの正確な作業時間を把握しにくいためだ。こうした事情から、エス・バイ・エルは請負代金に規定の労務比率をかけたものを賃金総額と見なし、この金額に基づいて算定する見なし方式で労災保険料を支払ってきた。
ただし見なし方式には、現場作業が休みの日も支払いが発生する、請負代金に含まれる材料費の分まで保険料が発生するなどの問題がある。労務費を正確に算出して実質賃金方式に切り替えられれば、労災保険料を節約できる可能性が高い。労務費を算出する前提として、作業者の現場での作業時間を正確に把握する仕組みが必要になった。
そこでエス・バイ・エルは2009年4月、出退勤管理システムの運用を開始した。同社が独自開発した専用装置を建築現場に設置する。この装置は電源を入れると2種類の電話番号を表示する(写真)。作業者は現場に到着すると自身の携帯電話を使って2つの電話番号のうち「入」と表示されている方に電話をかける。また、現場を離れる際には「出」の番号に電話をかける。この着信をエス・バイ・エル側のシステムで記録し、各作業者の作業時間を把握する仕組みである。
装置が表示する出退勤の電話番号は、一定のロジックに従って毎日変わる。作業者が現場に訪れないことには番号が分からない仕組みにすることで、出勤したふりなどの問題が起こるのを防止している。
今回のシステムを考案したのは、同社の木原実取締役営業本部長兼生産技術本部長である。IT(情報技術)ベンダーからはネットを活用するシステムなどの提案を受けたが、「現場作業者にITリテラシーを求めない方式として、携帯電話の着信記録を利用しようと思いついた」(木原取締役)。電話番号を毎日切り替える仕組みは、ITベンダーが提示したワンタイム・パスワードを応用したという。