清宮氏の指摘は、まさにベーリンガーの組織マネジメントが抱える課題に合致していた。ベーリンガーは若手社員が多く、35歳以下のMRが全体の約6割を占める。しかもマネジャー(営業所長)に昇格する人も30代半ばの若手が増えており、指示命令型のやり取りでは年齢が近い部下を動かすのが難しい。ベーリンガー自身、こうした課題を認識してマネジャー層へのコーチング研修も全社的に取り入れていた。しかし、プレーイングマネジャーたる営業所長クラスにとって時間的な負担が大きく、万全の解決策とは言い難かった。
そこで2006年から新任マネジャー研修にアクションラーニングを取り入れた。2008年までに100人強のマネジャー職の3分の1がこの研修を受けた。研修当初の2日間でアクションラーニングの基本や会議術を学んでもらう。その後、職場に戻って、習った手順に沿った会議を実践し、約1カ月後の集合研修でその内容を報告する。半年の間に、これを3回繰り返す。
特にマネジャーに新たな流儀としてたたき込んだのが、「質問会議」と呼ぶ会議術だった。その名の通り、質問とそれに対する回答以外の発言を原則禁止する。会議が上司や声の大きい人のペースで参加者の納得がないまま進んだり、延々と議論が続き結局は何も決まらず問題解決策が実行されなかったりする事態を防ぐことが狙いだ。

質問会議で売り上げ伸び悩みを解決
質問会議がどのように問題解決の促進につながるのか、実際にあったやり取りを見てみよう。
2008年に新任マネジャー研修を受講した水野源康・CNS営業部CNS東京第二営業所所長は、「上から下りてきた戦略に対して何をすべきかを話す従来の会議とはまるで違った。当初、独特の会議ルールになじめず、清宮さんから『それは質問ではない』と繰り返し注意された」と話す。
質問会議では、一般の出席者以外に、司会役の「アクションラーニングコーチ」と、「問題提示者」を決める。CNS東京第二営業所では、水野所長以下9人のメンバーで、2008年に質問会議を13回実施。アクションラーニングコーチは研修を受けた水野所長が、問題提示者は部員が持ち回りで務めた。

問題提示者は、冒頭に2~3分で「問題」を簡潔に説明する。同営業所に所属するMRの菅野仁一氏が提示した問題は、「自分が担当する病院で自社製品の処方が少ない」というものだった。CNS東京第二営業所はパーキンソン病を中心とした神経内科向け営業の専門部署。ベーリンガーは「ビ・シフロール」という有力製品を持つが、菅野氏は「差異化しやすい製品のはずなのに思うように処方が伸びない」という問題を抱えていた。
参加者は、「先生(医師)への訪問回数はどの程度ですか?」「面会する時は何分ぐらい話しますか?」といった質問を次々と投げかけた。これに菅野氏が回答していく。短い質疑応答を繰り返すため、必然的に発言の機会は全員に回る。参加者は会議の時間を漫然と過ごすのではなく、必死に質問を考える。集中力を維持するため、1回60分程度に収めるのが原則だ。