質問会議の場では、水野所長は上司として意見を言ったり質問したりせずに、進行役に徹するルールだ。ただし、参加者が「その程度の面会時間では足りないんじゃないですか?」といった詰問調の質問を続けるなどして雰囲気が悪くなった時に限って、水野所長は「この雰囲気はどうですか?」と質問を挟む。「もう少し前向きな質問をしてください」と指摘するのではなく、あくまで参加者に気づいてもらうのがポイントだ。
こうしたやり取りを続けるうちに「普段会う先生はどんな方ですか?」「その先生は患者さんの治療に当たってどんなことを気にしていますか?」といった別の視点からの質問も出てきた。ある程度時間がたつと、水野所長は「これまでの質問を振り返ってみると、“真の問題”はどこにあると思いますか?」と問題提示者に質問する。
菅野氏は「先生に関する情報が不足しているのではないでしょうか」と問題を再定義した。続いて、対象医師の勤務状況や繁閑時期など一定の情報を必ず確認すること、訪問回数自体も月4回以上にすることなどを「アクションプラン(行動計画)」として宣言した。菅野氏は早速これを実行に移したところ、パーキンソン病治療薬の処方量が2割程度増えたという。

自ら気づくことで解決の実行力が増す
情報不足という結論は一見平凡だ。しかし、「『やらされる』のではなく、問題提示者が自分で重要だと思うきっかけになる」(清宮氏)。上司が「とにかく情報を集めろ」と命令するのではなく、部下が質問を通して事実関係を振り返りつつ自ら気づくからこそ、解決策の実行力が高まりやすい。
部署全体の気づきもあった。新しく出た自社製品の優位性を売り込むよりも、「『選択肢に加えてください』と先生に伝えたほうが効果的だと再認識した」(水野所長)。部員たちは、自社製品の強みを知ってもらえれば選んでもらえると考えていた。しかしここに落とし穴があった。
質問会議では、「なぜ他社製品が処方されていると思いますか?」「自社製品はどんな患者さん(新規・治療中など)によく処方されていると思いますか?」といった質問が出た。こうした議論から、医師は特に問題が起きなければ旧型の他社製品を処方し続けるという傾向に気づいた。成熟した医薬品市場では、こうした小さな気づきの積み重ねが競争力を左右しそうだ。