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システムの高速化に応える基幹網

 東証が基幹ネットワークを刷新した狙いは二つある。一つは,現行システムをはるかに上回るarrowheadの処理性能を十分に生かせるネットワークが必要だったこと。もう一つは大地震が発生しても取引を止めずに済む耐障害性を確保することだ。

 近年,証券取引ではコンピュータによる自動注文「アルゴリズム取引」が普及し,売買の注文件数が飛躍的に伸びている。取引のスピードによって売買金額,つまりは証券会社にとっての収入が大きく左右されることから,「証券会社は取引の高速性をどん欲に追求している」(吉田部長)。

 arrowheadは,このような要求に応えるため,これまで秒単位だった注文応答時間を,10ミリ秒以下に抑えるシステムになる。当然,システムが速くなれば扱えるデータ量は飛躍的に増える。「ネットワークでシステムの足を引っ張るわけにはいかない」(ITサービス部兼ITビジネス部の坂本忍マネージャー)。

 もう一つの高い耐障害性を求める背景には,投資家の中に海外の機関投資家が多くいることがある。「地震の多い地理的なリスクがある日本では,耐障害性を備えた取引所でなければ世界のマーケットとして成り立たない」(坂本マネージャー)という。「取引所ビジネスは典型的な設備産業。どんなに優良な投資対象を扱っていても,設備にリスクがあれば投資家からは敬遠される。大地震が起こってもマーケットを止めない設備が不可欠だ」(同)という。

ファイバが通る場所まで自ら精査

 こうした狙いから東証は,プライマリとセカンダリで2重化したデータ・センター,証券会社からの回線を収容する2カ所のAPを光ファイバでリング状に結んだ。高速・大容量を実現しつつ,将来の大幅な拡張に対応できるようWDMを採用。1波長で10Gビット/秒の経路を確保し,波長多重によって新たに回線を引くことなく増速できるようにした。

 光ファイバ網はNTTコミュニケーションズ(NTTコム)が東証専用に提供するネットワークを採用した。東証は地震による切断を防ぐために,ファイバがどのような場所を通っているか,NTTコムに細かい情報提供を求め,「99%地下を通るルートを選択した」(吉田部長)という。

 さらに,耐障害性を高めるためにMPLSを使ってリングの経路を制御する。通常はAPから最短ルートのセンターに接続するが,リング上で障害が起こった場合には数秒で経路を切り替え,もう一方のデータ・センターに接続する。全体の構成も完全2重化した。

 各拠点をリング状に結んだのは,「技術的な信頼度と証券会社の利便性を考慮した結果」(全体のシステム設計を手掛けた日立製作所ネットワークソリューション事業部 ネットワークシステム本部ネットワークシステム第一設計部の並木靖担当部長)である。プライマリとセカンダリのセンターをピア・ツー・ピアで結ぶ形もあったが,この形にすると証券会社は両方のセンターにアクセス回線を引く必要があり,コストがかかる。「リング状にすれば1カ所のAPからどちらのセンターにも接続できる。証券会社は正副どちらのセンターに接続しているのか意識せずに済み,コストも抑えられる」(並木部長)。

 なおMPLS網は,NTTコムが提供するサービスではなく,東証自身が運営する形にしている。「経路切り替え時間を極力短くしたかったため,汎用的なサービスではなく,個別チューニングしたMPLS網の運用が必要だった」(並木部長)からだ。