VPNサポートに手間がかかっていた
今回のプロジェクトを中心となって進めたのは、京都大学 学術情報メディアセンターの岡部寿男教授。岡部教授は情報基盤の研究開発を行うほか、京都大学の学内ネットワーク(KUINS)の総責任者でもある。
プロジェクトは、UQの担当者が2011年9月に岡部教授を訪ねたことに始まる。UQの担当者は、同社のネットワークを専用線を使って京都大学のLANと直結することで、モバイルWiMAX経由でどこでも学内LANに接続できるコンセプトを提案した。実は同社は、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスで、2011年4月からこのモデルでサービスを提供していた。
京都大学では、これまで外部から学内LANに接続するにはVPNの利用を推奨していた。ただ「ネットワークや端末がVPNに未対応のケースがあり、サポートに手間がかかっていた」(岡部教授)。そのため、VPNの設定が要らなくなるUQの提案は、サポート側にも利用者側にもメリットがあった。
もっとも岡部教授は、コンセプト的には良いとしたものの、二つの懸念を抱いていた。この事例の特徴となっている、中継回線と契約時の在籍確認だ。
中継回線については、「コスト負担を増やしたくなかった」(岡部教授)。さらに、見方によってはUQの商売を大学側が手助けする形になるため、この点からも取り組み方に配慮する必要があった。一方、契約者が京都大学に在籍していることの確認については、「大学で用いる認証情報を外部の事業者に委託する運用は、個人情報保護の観点から避けたかった」(岡部教授)。
この2点の懸念を解決するために、岡部教授は、先に紹介した(1)中継網にSINET4を用いる、(2)在籍確認のために学認の技術を応用するという二つのアイデアをUQに対して逆提案した。実は岡部教授は、SINET4を運用する国立情報学研究所の客員であり、学認の総責任者でもある。これらを活用することで、コストをかけず懸念を解消できる道が見えていたわけだ。
UQがSINETに参加することで整理
まず(1)のSINET4をUQのネットワークセンターと京都大学のLANを結ぶ中継回線に利用するアイデアは、思いのほか都合が良かった。UQのネットワークセンターとSINET4のノード設備の一つが、実は同じデータセンター内にあったからだ。この点については、UQ側がこのデータセンターを通じてSINET4に参加するだけで、京都大学側は追加のコストを負担することなく、大学のネットワークをUQの網に接続できた。
実際には、学術利用を目的としたSINET4に、今回のUQのように商用の通信事業者が接続する形は「前例がなかった」(岡部教授)。SINET4の利用は、大学間、もしくは企業と大学の共同研究目的に限られているからだ。
もっとも「ちょうど各大学がクラウド対応を進めており、SINET4を使ってバーチャルLANでクラウドサービスを学内LANに引き込むサービスを始めるところだった」(岡部教授)。今回のUQのSINET4への参加も、クラウドサービス事業者がSINET4へ参加する形と同様として承認された。