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企業のビジョンや哲学を浸透させたうえで、その達成方法を現場の裁量にゆだねる取り組み。現場の自主性を発揮させることで、型にはまらないサービスを実現できる。

 顧客を感動させてファンにするサービスとは、多くの場合、接客マニュアルや画一的な接客指導の枠外にあるものです。

 特に、高級ホテル業界では、顧客ごとに異なる接客の要望を従業員一人ひとりが敏感に察知して、応えられるような従業員教育やマネジメントが経営課題でした。

 そこで90年代から有力になったマネジメント手法が「エンパワーメント」です。エンパワーメントは、「権限委譲」と訳されたりもしますが、顧客に最適なサービスを独自に考えて実行してよい権限を従業員に持たせる、といった意味で用いられます。

◆効果
現場主導の顧客志向

 ただし従業員の一人ひとりが、企業が目指すゴールをきちんと理解して、その達成に責任を感じていなければ、エンパワーメントはただの自由放任主義になってしまいます。

 エンパワーメントによって、サービスの質を上げた代表的な事例は、高級ホテルチェーンの米リッツ・カールトンです。

 リッツ・カールトンの場合、従業員に20もの行動指針を新人の時から厳しく学ばせています。その代表的な哲学が「お客様の要望に対してノーと言わない」というものです。まくらを変えてほしいといった備品の要望から、閉店時刻直後に訪れた顧客のためにバーの閉店を延長する、イベント会場の背景を顧客の服の色が映えるような色の布に変更する、といった事例があるといいます。

 直接対応することが厳しい要望にも、その場で代替案を考えるよう教育しています。例えば、満室のときには、周辺で空き室のあるホテルを探してあげるといったことです。

 また、従業員には最高2000ドルを自身の判断で決裁してよいという裁量権を与えていることでも有名です。いちいち上司に決裁を仰いでいたのでは、先回りした心遣いで顧客を驚かせるサービスは実現できないからです。

◆事例
高い料金にも納得感

 ザ・リッツ・カールトン大阪はサービス料金を13%と通常のホテルより3ポイント高く設定しています。それにもかかわらず顧客満足度は高く、ホテルのランキング調査では毎年、上位に登場します。

 ザ・リッツ・カールトン大阪の元営業統括支配人である林田正光氏は、最近出版された自らの著書「リッツ・カールトンで学んだ仕事でいちばん大事なこと」(あさ出版)のなかで、リッツ・カールトン大阪の百数十億円の売上高のうち、数億円は「サービスのブランドを作ったことで実現した純利益」と解説しています。

(井上 健太郎)