数Mビット/秒クラスのモバイル通信を実現する技術。「TD-CDMA」や、「TD-SCDMA」方式を総称してこう呼ぶ。ADSLと同様に、上りよりも下りのデータ通信が速い。定額制の次世代無線通信インフラとして期待されている。
国内では、ADSL事業者のイー・アクセスやソフトバンクBBがそれぞれ商用化に向けて実験に取り組んでいる。イー・アクセスの場合、総務省から周波数の割り当てを受けたうえで、2006年の商用サービス開始を目指す。ソフトバンクBBも、できるだけ早い時期に事業化したい意向だ。
2006年ごろには、契約する電話会社が変わっても同じ番号を使い続けられる「番号ポータビリティ」制度が始まる見込みである。ソフトバンクBBなどの事業者は、この機にモバイルADSLの技術を応用した携帯電話サービスに参入し、既存事業者の顧客に乗り換えを促す戦略だ。
これまでの携帯電話では、上り用と下り用に別々の周波数を確保するFDD(Frequency Division Duplex)が主流だった。これに対して、モバイルADSLの基本技術であるTDD(Time Division Duplex)では、ある時は上り、またある時は下りと、同じ周波数を使い分ける。
FDDでは上下の通信の干渉を防ぐための「ガードバンド」と呼ぶ周波数帯が必要になるが、TDDでは必要ない。またTDDでは、下り方向のデータ通信に割り当てる時間を増やすと、それだけダウンロード速度が向上する。通信事業者がユーザーのニーズに応じてサービス内容を臨機応変に変えられるのが利点だ。
ソフトバンクBBが採用を検討しているTD-CDMA方式は、このTDDに従来の携帯電話が使うCDMA(Code Division Multiple Access)を組み合わせたもの。慶応義塾大学の中川正雄教授が1991年に開発した。下り通信速度は最大約2.8Mビット/秒。すでに国内での周波数割り当てが決まっているのが強みで、2.01G~2.025GHzが使える。NTTコミュニケーションズ、アイピーモバイルなども実験を進めている。
このTD-CDMAを基に、通信距離を延ばす工夫を加えたのがTD-SCDMA方式で、中国がITU(国際電気通信連合)に提案している。イー・アクセスが推す「TD-SCDMA(MC)」方式はその改良型で、さらに耐ノイズ性の向上や端末の省電力化を図った。そのほか、京セラと米アレーコムが開発した「iBurst」と呼ぶ方式もある。いずれも国内での周波数割り当ては決まっていない。
電波行政を管轄する総務省は今年9月、モバイルADSLの事業認可に向けた技術的な検討作業を始めた。第3世代携帯電話の規格策定にあたる「携帯電話等周波数有効利用方策委員会」傘下に「IMT-2000 TDD方式技術的条件作業班」を設置した。他の携帯電話サービスに与える電波干渉などを調べ、来年2月をめどに報告書を出す予定である。