複数の目標を並行して実現するための組織。地域別、製品別など多次元の軸で構成され、1人の社員が複数のミッション遂行に取り組む。
不祥事を起こしたり、業績低迷に悩んだりする企業で指摘される問題点の1つに、「縦割り組織の弊害」があります。例えば事業部制を採用する企業で、ある事業部が業績アップのために不正行為を働いても、組織の壁に阻まれてほかの事業部には見えなかったりします。あるいは経営トップが新規の事業領域開拓に乗り出そうとしても、各事業部が人員提供を嫌がり、企業全体の最適化を実践できないといった具合です。
こうした組織の壁を低くし、経営の効率性を増すと同時に透明性も高めようとするのが「マトリックス組織」です。事業、製品、地域、職能といった複数の軸で組織を構成するものです。
◆効果 複数課題を同時に
例えば事業と職能という2軸で構成されたマトリックス組織の場合、A事業部の経理部門に所属する人は、「経理」という職能の軸でほかの部門の経理部門とも連携を取って仕事をします。A事業部の利益最大化を目標とする一方で、全社の経理ルールを順守、徹底することもミッションとなるので、不正への監視も行き届きます。
または製品と地域で構成されたマトリックス組織の場合、ある支店で働く社員が特定商品も担当して、支店の業績アップと担当商品の成長という2つの課題に効率的に取り組むことも期待できるでしょう。事業部を横断する視点を入れることで、複数事業部で同じような投資が行われるのを防いだり、グループ企業間の業務の連携を円滑化したりといったメリットもあります。こういった効果に期待し、マトリックス組織の導入事例は徐々に増えています。
ただしその運用には難しさも指摘されています。社員は「上司が2人(以上)いる」という状態になるため、社員はどちらの意見を優先すべきかといった葛藤に悩まされることもあります。こうした問題を防ぐためには、管理職同士が密接なコミュニケーションを取ることが必要となりますが、コミュニケーションに時間がかかると、業務のスピードが遅れるといった弊害が生まれるリスクもあります。
◆事例 3次元組織で成長
マトリックス組織をうまく活用している企業の代表例が村田製作所です。セラミックス・コンデンサーなどの電子部品を製造する同社は、コンデンサーや圧電部品といった製品と、「調合」「成形」などの製造工程によるマトリックス組織を構成しています。さらに本社機能スタッフがグループ横断で間接業務を請け負っていることから、同社のこの体制は「3次元マトリックス組織」と呼ばれたりもしています。これによって類似する工程を製品間で比較してコストを削減したり、グループ内で間接業務が重複する無駄を排除したりといった活動を徹底させています。