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文・西谷 亜希子(日立総合計画研究所 社会・生活システムグループ 副主任研究員)

 近年、わが国においてもDM(Disease Management;ディジーズ・マネジメント)という考え方が、注目されるようになってきました。DMとは日本では「疾病管理」とも訳され、もともとは1990年代に民間医療保険が中心である米国において医療保険料削減を迫られた企業向けに、医療費効率化による保険料節減プログラムとして開発されました。その後、DMは慢性疾患の兆候の段階から早期発見し、その発生を抑制し、合併症を未然に食い止めることで医療費を節減する方法として注目を集めました。生活習慣病を中心とする慢性疾患の増加とそれによる医療費増加に悩む先進各国でDMプログラムの取り組みが始まりました。

 DMとは、DMAA (Disease Management Association of America;米国疾病管理協会)により、「自己管理の努力が必要とされる患者集団のために作られた、ヘルスケアにおける介入とコミュニケーションのシステム」と定義されています。

 具体的には、ある特定の地域や疾病の患者集団を対象として、疾患別診療ガイドラインに沿って、関係保健医療職種・機関が連携し、服薬や行動改善といった患者の自己管理に関する教育を提供します。これらを通じて、医療費の抑制を含む医療の効率性向上や医療サービスの質の向上を図ろうとするものです。また同時に、患者と医療提供者のコミュニケーションを促して患者の自己管理を支援し、患者の健康状態および生活の質の向上も目的としています。

DMの基本的プロセスとITの活用

 DMを通じて高品質の医療サービスを低コストで提供できるようにするためには、潜在的に高コスト医療となるリスクが高い患者集団をいかに特定し、またそのような高リスク集団が高コスト医療を利用しなくても済むようにいかに介入を行うかが、特に重要な視点となります。そのためにDMの基本的なプロセスは、「現状分析・目標設定」「介入」「評価・分析」という3つの段階から構成され、さらにフィードバックを行います。具体的には次のようなPDCAサイクルで進められます。

現状分析・目標設定(Plan) 疾病の選択と患者集団の特定 患者数が多い慢性疾患で、介入により合併症を回避できる疾患
アセスメント・目標設定 集団の目標設定
介入(Do) 診療ガイドラインの作成 科学的根拠に基づく診療ガイドラインの作成
プログラムの作成 個々の患者に合わせたDMプログラムの作成
介入 患者への具体的な介入
フィードバック(Action)
評価・分析(Check) 効果の測定 臨床的評価、公平性の評価、効率性・コストなどの経済的評価、患者満足度など
出典:各種資料より日立総合計画研究所が作成

 DMの基本的プロセスの各段階それぞれにおいて、ITはその威力を発揮します。「現状分析・目標設定」においては、将来的に高コスト医療が必要となるリスクを個々の患者について正確に把握し、DMにおいて重点的に働きかけるべき患者、逆にそれほど働きかける必要のない患者を特定することが容易になります。また、「評価・分析」においても、実績管理やデータ回収・分析にITは不可欠となります。

 さらに、患者や対象者の自己管理に関する教育などの「介入」場面においても、ITは医療提供者と患者のコミュニケーションや個人別のデータ管理の手段として活用されています。

日本におけるDM

 日本は米国と医療保険制度や診療報酬制度などの面で異なるため、米国でのDM手法をそのまま日本に導入することは困難です。それよりも日本の実情に合った日本版DM手法の構築が不可欠だとされ、日本でも2005年に「日本疾病管理研究会」が設立されました。米国では発症後の疾病管理に主眼が置かれてきたのに対し、日本ではむしろ生活習慣病などの疾病の発症予防(一次予防)をDMの主たる対象とすべきではないかと考えられています。

 日本においては昨今の医療制度改革においても、糖尿病などの生活習慣病患者・予備軍を減少させるための中長期の医療費適正化策として、DMの考え方に基づくさまざまな手法が導入されています。例えば、医療制度改革における都道府県単位の医療費適正化計画は、都道府県単位で疾患ごとに検診受診率や有病率、在宅死亡率などの将来の数値目標を定めて適正化計画に取り組みます。そして5年後に目標と実績をつき合わせて検証し、乖離(かいり)がある場合は施策を見直すというPDCAサイクルの仕組みとなっており、上述したDMの基本的プロセスと同じ考え方に基づいています。

 また、地域においては自治体と地域の医師会や地域中核病院が連携し、職域では企業健保などが中心となってDMの考え方に基づいた住民や職員の健康管理も始まっています。製品の付加価値サービスとして、DMプログラムの提供を開始した企業もあります。

 このようにDMはEBH(Evidence Based Health:科学的根拠に基づく健康) を推進する上での考え方や具体的な手法として日本でも注目されています。特に国や自治体では、医療費適正化計画策定や特定健診・特定保健指導の導入を背景に、DMの効果に対する期待が高まっています。同時に効率的かつ効果的な実施体制の構築が急務であり、そのためにはITを活用したDMの運用方法の検討が必要と考えられます。