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文・高畑 和弥(日立総合計画研究所知識情報システムグループ 副主任研究員)

 緊急地震速報とは、地震の初期微動(P波)と強い揺れ(S波)の伝わる速度の違いを利用して、強い揺れが到達する前に地震情報を配信するものです。気象庁が2004年2月から試験的に運用を開始しており、2007年10月1日からは一般市民向けの情報提供が本格的に開始される予定です。

 緊急地震速報は、地震発生時に震源近くの速報地震計で検知したP波をコンピュータで解析することにより、震源や地震の規模を推定します。その地震情報は報道機関などを経由して企業や一般市民に直ちに提供されます。大きな被害をもたらすS波が到達する前に地震情報が知らされることから、列車やエレベーターなどを安全に停止させて危険を回避したり、家庭で火の元を消したりするなど、地震の被害を軽減する効果が期待されています。

 既に一部の企業ではBCP(事業継続計画)の一環として緊急地震速報の活用を進めています。具体的には、工場の生産システムと緊急地震速報を連動させることで、地震発生時に従業員に危険を知らせるとともに、生産システムを安全に停止させることを可能にしています。地方自治体においては、学校、病院、集会所に地震情報を通知し、市民の避難をスムーズに行なうなどの利活用シーンが想定されます。また、兵庫県市川町や岩手県釜石市では、緊急地震速報によって防災無線を自動的に起動させ、住民に危険を知らせるシステムのモデル実験を2007年6月から開始しています。

 このように地震被害の軽減に期待が寄せられる緊急地震速報ですが、限界もあります。

 第1に、震度などに誤差が生じることがあります。 緊急地震速報は速報性を重視するため、観測データが少ない段階から情報を作成せざるを得ず、震度や到達時間などの予測にどうしても誤差が生じてしまいます。

 第2に、情報を発表してから大きな揺れが到達するまでの時間は長くても数十秒と非常に短いことが挙げられます。特に、震源に近くなるほどP波とS波の到達の差が縮まり、速報が大きな揺れに間に合わないこともあり、P波とS波の到達がほぼ同時である直下型地震には対応できないという欠点もあります。

 また、緊急地震速報の知名度が低いことから、地震情報の配信がパニックなどの二次災害を引き起こすことが懸念されています。当初、気象庁は2007年3月の運用開始を目指していましたが、有識者による「緊急地震速報の本運用開始に係る検討会」で知名度不足を指摘され、一般向けへの情報提供が2007年10月まで延期されています。

 企業や地方自治体の対応にも温度差が見られます。放送局ではNHKが地震速報を放送する一方で、民放各社はパニックを懸念して放送を見合わせています。地方自治体の取り組みも足並みがそろっておらず、緊急地震速報の利用手続きが完了している地方自治体の数は全国でわずか42団体(2007年6月時点)にとどまっています(表)。

■表 緊急地震速報の利用手続きが完了している機関数(2007年6月18日現在)
分野 機関数
地方公共団体等 42
大学・研究機関 19
鉄道 19
エレベーター 4
電力 9
ガス 7
建設 19
製造 115
通信・情報伝達 19
放送 72
情報サービス 14
金融 13
不動産 19
医療 8
その他(サービス業など) 116
合計 495
資料:気象庁

 ただし、今後は企業や地方自治体が利用できるアプリケーションが充実するとみられることから、地方自治体でも徐々に普及が進むと見込まれます。重点計画2007(案)でも、学校やエレベーターなどの分野において緊急地震速報を用いた防災システムが開発されることが重点施策として盛り込まれています。