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図1:光ファイバの貸し出しは8分岐単位
図1:光ファイバの貸し出しは8分岐単位
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図2:「1分岐貸し」なら新規参入企業の採算性が改善(イラスト:なかがわ みさこ)
図2:「1分岐貸し」なら新規参入企業の採算性が改善(イラスト:なかがわ みさこ)
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 1分岐貸しとは,通信事業者同士が光ファイバを貸し借りする際に,1エンドユーザーが利用する分だけを借りられるしくみのことである。もっともFTTH(fiber to the home)サービスのしくみを知らなければこの説明も理解できないはず。そこで,まず通信事業者がどのようなしくみで一般の個人や企業などにFTTHサービスを提供しているかを見ていく。

 FTTHサービスを利用するには,通信事業者のビルとユーザー宅を光ファイバで結ばなければならない。しかし,住宅の一軒一軒にわたるまで光ファイバを敷設するには膨大な手間やコストがかかる。現実にそれが可能なのは,すでに電柱などを所有しているNTT東日本とNTT西日本や電力系の通信事業者にほぼ限定される。

 これではFTTHサービスを提供できる会社は限られてしまい,競争原理が働かない。そこで,総務省では,NTT東西に光ファイバを他の通信事業者に貸し出すことを義務づけている。NTT東西以外の通信事業者は,NTT東西から光ファイバを借り,これにインターネット接続やIP電話,動画配信などといった付加サービスを付けて企業や個人に提供しているわけだ。

 個人向けFTTHサービスの場合,PON(passive optical network)という技術により複数のユーザーで1本の光ファイバを共有する。PONではNTTの局舎からユーザー宅の近くの電柱などまでは1本の光ファイバで結んでいるが,電柱で8本に分岐してユーザー宅に引き込む。

 NTT東西が他の通信事業者に光ファイバを貸し出す際には,この8分岐を一括で提供する。いわゆる“バラ売り”は行っていない。

 光ファイバを借りる側の通信事業者にとって,8分岐が埋まるだけの需要があればよいが,必ずしもそうとは限らない(図1)。1ユーザーしかいなければ,残る7分岐分は余ってしまう。そこで,NTT東西に対して1分岐単位でのバラ売りを求めている。これが「1分岐貸し」だ。

 具体的に料金を検証してみる。2008年4月以降に光ファイバを8分岐分借りる料金は,NTT東日本の場合で月額約1万1000円となる。ところで,個人向けFTTHサービスの月額料金は5000円以下が相場。8分岐を借りたものの,ユーザーが1人や2人では完全に赤字だ。FTTHサービスの料金にはインターネット接続やIP電話などのコストも含むため,実際には3,4ユーザーでも採算は取れないだろう。

 これではFTTH事業が成り立たない,というのがNTT東西以外の通信事業者の主張だ。もし,1分岐貸しのしくみがあれば,複数の事業者で1本(8分岐分)の光ファイバを共用できるため,NTT東西に支払う料金も折半できる。その結果,FTTH事業の採算性も向上するはず。

 ところがNTT東西は1分岐貸しの実現に極めて消極的だ。その理由として,「複数の通信事業者で光ファイバを共用するには設備の改修が必要で,時間もコストもかかる」「複数の通信事業者で設備を共用すると,運用に対する責任の所在があいまいでサービスの品質の維持が難しくなる」などと主張する(図2)。

 当事者である事業者以外の意見も割れている。「1分岐貸しが認められないとFTTHサービスはNTTによる寡占状態となり競争が進まない」とする意見がある一方で,「1分岐貸しが認められると,NTT以外には光ファイバを敷設する事業者はいなくなり,光ファイバの利用料金そのものが下がらない」との意見もある。

 実は,こうした議論は,数年前から総務省の研究会の場などで取り上げられており,決して新しい問題ではない。ここにきて1分岐貸しが注目されだした理由は,3月にNTT東西が商用サービスを開始するNGN(next generation network)と関係がある。NGNでは,足回りの回線には光ファイバを利用する。NGN時代になれば,ユーザーにサービスを提供するための光ファイバをどう調達するかは通信事業者にとって避けては通れない問題だ。

 総務省の研究会でも,NGN時代に即した接続ルールを急ピッチで検討している。ここでの最大の論点が1分岐貸しとなるのは当然の流れだろう。現時点では,NTTとそれ以外の通信事業者などの主張に配慮しつつ,技術や料金面での落としどころを探っている最中だ。