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文・井原 真琴(NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 コンサルタント)

 社会保障カード(仮称)とは、年金手帳、健康保険証、介護保険証という3つの役割を1枚のICカードに集約させたもので、2011年度(平成23年度)の導入を目指し、具体的な検討が進められている仕組みです。これにより、利用者の利便性の向上や、保険者、医療機関や介護サービス事業者等のサービス提供者、行政機関の事務負担軽減といった効果があるとされています。

 社会保障カードが検討された経緯は、まず2006年から「社会保障分野におけるICカードの活用」として国のIT政策として取り上げられ、「IT新改革戦略」(2006年1月19日、IT戦略本部)および「重点計画-2006」(2006年7月26日、IT戦略本部)に明記されました。

 続いて、翌年には健康情報の閲覧・管理に役立てるものとする「健康ITカード(仮称)」の構想が発表され(「医療・介護サービスの「質向上・効率化」プログラム(仮称)の導入構想」(2007年3月16日、経済財政諮問会議))、また「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」(2007年5月15日、厚生労働省)において、2007年度内を目途に社会保障分野全体を視野に入れた検討行い、結論を出すとされました。

 このような中、政府・与党が取りまとめた「年金記録に対する信頼の回復と新たな年金記録管理体制」(2007年7月5日、政府・与党)において、新たな年金記録管理の1つとして1人1枚の「社会保障カード(仮称)」の導入が挙げられ、そのカードは国民が自身の年金記録を都度確認でき、セキュリティに優れ、年金手帳のほか健康保険証、介護保険証としての役割を果たすものとされました。同内容は、「重点計画-2007」(2007年7月26日、IT戦略本部)にも明記され、2011年度中を目途に導入することを目指し、電子私書箱の検討と連携しつつ、システム基本構想等について検討を行い、2007年度内を目途に結論を得ることとしています。

 これらの検討の経緯を踏まえ、2007年9月に「社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会」が設置され、基本的な制度設計を行い、2008年1月25日に「社会保障カード(仮称)の基本的な構想に関する報告書」が取りまとめられました。同検討会は、2008年3月5日に作業班を設置し、さらに具体的な項目について検討を進めています。

メリットとプライバシー保護対策

 社会保障カードの導入によって見込まれる効果は、カードの仕組みによって異なりますが、「社会保障カード(仮称)の基本的な構想に関する報告書」で想定されている仕組みの場合、「事務負担の軽減」そして「経費の節減」、「利便性の向上」が主な効果として挙げられます。

 例えば、年金手帳、健康保険証、介護保険被保険者証を個別に交付していた負担が一度で済むことになるほか、各制度、各保険者で加入者を管理していたことによる給付調整等にかかっていた事務負担が解消されます。また国民の大半が利用する医療保険においては、医療機関や薬局による転記ミスや受診時に被保険者資格がないことの確認不足により「資格過誤」が発生し、レセプト返戻が年間に約900万件生じていますが(「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめについて」〔2006年9月、厚生労働省〕)、社会保障カードを利用した場合、これらのレセプト返戻が大幅に減少すると見込まれています。

 利用者である国民にとっては、所持・携帯するカードの枚数が減る、引越や転職の際にも健康保険証を提出・返却する手間がなくなる、安全にそして簡便に年金記録が確認できる、希望者には身分証明書としても利用することができるなど、特に「利便性の向上」によるメリットを享受できるでしょう。

 社会保障カードの導入にあたっての、プライバシーの侵害や情報の一元管理に対する不安といった懸念については、「社会保障カード(仮称)の基本的な構想に関する報告書」では、それらの不安が極力解消される仕組みとするとあります。具体的には、カードに収録する情報を本人確認のために必要な最小限のものに限定する、国際基準に準拠した安全性の高いICカードを使用する、カードには有効期限を設ける等といった不正な情報の読み出し等による被害防止に係わるカードの要件が示されているほか、医療機関等において利用者の情報を扱う者の資格認証を行う等、資格情報のセキュリティ対策を徹底するなどです。また、カードの収録情報が本人の承諾なく利用されることや収集されることのないように、法制度の整備を踏まえた利用制限を検討するとしています。

 また情報の一元管理については、カードには加入者を特定するための鍵となる情報を収録し、各資格情報は従来通り、各制度の保険者が管理するという構想です。

移行期間の対応、既存ICカードの利用なども検討

 前述したように、社会保障カードについては、現在も「社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会」では、具体的な仕組みの検討を進めています。例えば、停電やネットワークのトラブル、カードの破損といったカードが利用できない状況下や、利用者に社会保障カードが交付されるまでの期間や医療機関側の環境整備が完了するまでの期間といった移行期間の対応についてです。

 また、現在市町村から交付されている住民基本台帳カードの利用や、民間において発行されているICカードといった既存のICカードの利用可能性についても検討されています。前者については、既存の発行基盤を利用できるなど費用対効果に優れているのですが、市町村をまたがる住所変更の際には再発行が必要な点や、また希望者に対して交付するものである点、発行責任者が市町村長である点などが、社会保障カードの構想(国民全員へ交付、発行主体は検討中〔現時点では厚生労働大臣として検討〕)とは合致しないため、特にそれらに留意して検討を行う必要があります。

4人に1人が後期高齢者となる30年後を見据えて

 そもそも現在、社会保障関係費は21兆円(2008年度一般歳出概算、財務省)を超えており、またまた医療費は33兆円(2005年度国民医療費の概況、厚生労働省)を超えている状況です。さらに高齢化が進み続けるなか、どのように歳出増を抑えていくかということは、わが国一番の命題といっても過言ではないでしょう。医師不足など予算をかけて早急に対応しなくてはならない問題もあり、そのような中で現行のしくみの効率化による費用削減は必要不可欠です。

 その効率化の一つが「医療のIT化」であり、社会保障カードの導入はさらにその一施策という位置づけです。社会保障カードの発行や運用にかかる費用は発生しますが、レセプトの完全オンライン化や電子私書箱(仮称)など、それぞれの構想がすべて実現されれば、真の効率化が実現し、最大限の費用削減ができるものと思われます。

 確かに、すべての仕組みが整うまでの過渡期には、停電やネットワークトラブル時にはカード以外の証明書類が必要であったり(現在、対応策を検討中)、電子と手作業が混在したりなど、業務量やコストについて目に見える削減効果が現れにくいかもしれません。しかし、前期高齢者(65~74歳)のピークが訪れる2016年には年金受給の手続き等の件数も増加するため、社会保障カードの効果が現れやすいでしょう。また社会保障カードの用途は、他の保険や民間サービスでの利用など、将来的に広がっていく可能性があります。後期高齢者(75歳以上)人口のピークが訪れる2040年には、4人に1人が後期高齢者、2人に1人が高齢者になると推測されています。国民の中には、行政手続のために市役所などへ赴くことが困難な人が増え、行政側でも労働人口の減少という問題が生じるため、窓口対応の省力化は今以上に求められるはずです。そうなれば、社会保障カード(または後継の公的個人認証ICカード)と電子私書箱(仮称)等の連携によって実現される、自宅にいながら安心・簡易に受けられる行政そして民間サービスに対する期待と必要性は、国民のなかに間違いなく高まっているのではないでしょうか。

 これらの将来的なサービスの実現に向けては、年金・医療・介護という3分野においての実現が第一歩となり、現在検討されている社会保障カードの要件・機能そして運用フローは、今後の礎となるはずです。このようなことからも、「社会保障カード」の導入については、長いスパンで電子政府サービス全体を構想し、そのなかでの費用対効果を考える必要があるでしょう。