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文・服部 克彦(NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 シニアコンサルタント)

 ITガバナンスとは、経済産業省の「IT経営ポータル」では、「企業が、ITに関する企画・導入・運営および活用を行うにあたって、すべての活動、成果および関係者を適正に統制し、目指すべき姿へと導くための仕組みを組織に組み込むこと、または、組み込まれた状態」と定義されています。

 「IT経営ポータル」では、ITガバナンスについて、「すべての関係者がその本質をきちんと理解し、一体となって推進しなければならない」とも指摘しています。現在のように、刻一刻と変化する社会環境の中では、ガバナンスとして組み込むべき仕組みも環境に合わせて柔軟に変更せざるを得ません。上意下達のコントロール、管理といった半ば強制的な手段だけに頼っていては、こうした変化への対応は難しいでしょう。

総務省の自治体向け「強化ガイド」

 総務省では、2007年3月に「新電子自治体推進指針」を策定し、「電子自治体のITガバナンスの強化」を取り上げています。

 これを受けて総務省は、「地方公共団体におけるITガバナンスの強化ガイド」を2007年7月に公表しました。同指針の趣旨を補足して、ITガバナンスの意義を説明すると同時に、ITガバナンスを強化するために必要となる6分野において取り組むべき項目などをまとめています。6分野の概略は以下の通りです。

1.基本戦略
 基本戦略とは、自治体の政策方針や基本計画を踏まえたうえで、その具現化に向けたIT利用の基本方針の策定を意味します。また、EA(Enterprise Architecture)等を活用した業務・システムの全体最適化を策定することを示します。

2.推進体制
 推進体制とは、組織体制を確立し、情報システム等を運用する人材の確保と適切な配置を示します。適切な推進体制を策定しなければ、基本戦略等の計画がいくら優れていても実効性のない形だけの計画になってしまいます。

3.予算・実施計画・評価
 予算編成プロセスにおいて、基本戦略に基づいて情報システム等の実施計画案の採否を判断し、さらに実施された案についてはその結果を評価します。基本戦略におけるIT利用の基本方針に基づいた判断を行うことによって、短期的な視野や属人的な判断によるミスを抑止できるようになります。

4.調達・開発・運用
 情報システムを調達する際の価格、開発工程、運用工程を含めた委託先事業者の管理を示します。委託先事業者の管理が不適切になってしまうと、調達時に要求していた仕様に見合わない情報システムになってしまったり、納期遅れや品質の低下につながるリスクが発生します。

5.情報セキュリティ
 情報セキュリティポリシーを策定し、それを遵守するための情報セキュリティ対策を実施します。システムの利用者に情報セキュリティポリシーを理解させず、情報セキュリティ対策が適切に推進されない場合、個人情報の漏洩等の問題が発生するリスクが高くなります。

6.標準化・知識共有・人材育成
 ITガバナンスの6分野 その2「推進体制」で述べた、組織体制が確立されて人材を配置しても、個々の人材の能力を向上していかなければ、ITガバナンスの効果は得られません。そのため、IT施策に関する標準化、知識共有、人材の育成を図るための継続的な取組が必要となります。

 以上のように、ITガバナンスを推進していくための方策として6分野のポイントを挙げましたが、以降では、それぞれの分野で先進的な取組を実践している自治体の事例を紹介したいと思います。

「1.基本戦略」の事例:藤沢市「基本計画によるIT施策の推進」、川崎市「最適化計画」

 神奈川県藤沢市では、2001年3月に「藤沢市地域IT基本計画」を策定し、2007年3月までに115の事業を掲げて地域の情報化を推進しました。基本戦略は、立案時から実施フェーズに入って時間を経るにしたがって、社会情勢やIT技術の発達に伴うインフラ環境の変化等、当初の計画時には想定しなかった環境変化が発生します。このような条件を勘案して、藤沢市では計画を適宜見直し、改訂を行っています。また、2007年3月期の改訂時には、パブリックコメントとして64件の意見が市民から挙げられており、IT施策が市民のニーズに即したものになるよう策定されていることが分かります。

 また、川崎市では2008年4月に「川崎市情報システム全体最適化計画」を策定し、システムの再編・再構築を進めています。これまでは、電子行政サービスや市役所内の情報化の推進を個々の業務・組織ごとに推進してきた結果、システム数が増加し、情報機器の導入や保守料等、システム運用に係る経費も増加してきました。そこで、個々の業務・システムを対象として、運用統合を進めることによる運用経費の縮減やシステム連携基盤を活用するなど、全庁的な視点から最も安全で効率的な情報システムとなるよう推進しています。

「2.推進体制」の事例:足立区、市川市「外部人材の積極的活用」

 IT部門を統括する責任者として最高情報統括責任者(CIO)を設置するとともに、全庁レベルでの全体最適の視点でCIOを支援するCIO補佐を設置する自治体が増えています。CIO補佐には、IT部門を有効に機能させるために、経験が豊富な人材を外部から公募するケースが見られます。例えば、足立区では2009年1月、民間企業などでの情報システムの企画・業務改革などの実務経験者や、情報システム開発に関するマネジメント業務の経験者を対象にCIO補佐の募集(1人・週2日勤務)を行いました。

 また、CIO補佐といった統括レベルの人材だけでなく、実務レベルの業務においても、職員だけで必要な人材を確保できない場合には外部の人材を活用することが有効な対策になります。例えば、千葉県市川市では、2009年1月から2月にかけて、情報システムの構築をする場合に、情報提供依頼書(RFI)や調達に関する仕様書を作成するために、外部人材活用のための専門員募集(3人・週2日程度勤務)を行いました。

 なお、上記2自治体のように、外部人材を活用する場合には、その人材にどのような役割を期待するのかを明確化することが必要となります。