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 2007年が目前に迫ってきた。来年を機に、ユーザー企業のIT部門を率いてきたベテランが徐々に引退していく。同時に、ユーザー企業のキーパーソンと強固な信頼関係を築いてきたソリューションプロバイダの営業幹部も、会社を去っていく。営業にも、「2007年問題」が存在するのだ。その問題の本質は、“営業魂”を継承できるかどうか。ただし悲観することはない。世代交代は、新しい営業スタイルに移行するための絶好のチャンスなのだ。



 「1年ぶりの“出勤”だなあ」。昨年、定年である60歳を迎えNECを退職した金子徹彦(仮名)は、これまでに経験したことのない仕事を控え、少しばかり緊張していた。2006年11月21日のことだ。

 金子はNECで営業一筋30年のキャリアを持ち、東京・首都圏に本社を構える大手ユーザー企業から、数多くのシステム開発案件を獲得してきた。敏腕営業として鳴らし、プレッシャーに強いはずの金子だったが、前日はあまり寝付けなかった。

 寝不足の眼をこすりながらカーテンを開けると、雲ひとつない晴天である。金子の自慢は、モチベーションを自らの力でコントロールする能力。引退したとはいえ、その力は衰えていなかった。「何を緊張しているんだ。かわいい後輩のためじゃないか。自分が正しいと信じていることを、あるがまま伝えればいいんだ。格好をつける必要なんてないよな」。そう自分に言い聞かせ、金子は都内のホテルへと向かった。

 11月21~22日の2日間にわたり、金子はOBとして、NECから営業担当向けの社内研修の講師を任されていた。国内営業拠点(支店)の新任支店長7人を対象とした「集合実践研修」である。参加者の平均年令は41歳。38歳が最年少である。これからのNEC営業を支えるリーダーたちだ。

 午後1時からの研修を前に、NECで営業を統括する岩波利光執行役員常務がやってきた。「金子さん、ありがとうございます。営業に携わる者が忘れてはいけないマインド。今日はそれを伝えください」。岩波は左胸を指で指しながら、金子にこう依頼した。「承知しています。自分のこれまでの経験を、飾らずにお話ししますよ」と金子は応じる。  研修が始まると、金子は営業活動における自身の成功・失敗談をそ上に、その時の心境や行動について、記憶をたどりながら7人の“生徒”に語り始めた――。

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 営業の「2007年問題」に対する危機感。NECを突き動かしたのは、それだ。「営業担当者として身に付けておくべき魂が、世代交代とともに断絶するのではないか」。こうした問題意識を持ち、NECは営業OBに白羽の矢を立てたのである。

 「飛び込み営業や夜討ち朝駆けを辞さず。10年前を振り返ると、こうした気迫あふれる先輩やベテランが多かった。彼らの仕事に取り組む姿勢から、多くのことを学ばせてもらった。それが今の自分の営業スタイルに生きている」。IT業界で約10年、営業畑を歩んできた32歳の菅原勇人氏(現在、EDIサービスを手掛ける米GXS日本法人の営業本部営業課長)は、こう打ち明ける。

 日本ビジネスコンピューター(JBCC)の英嘉明執行役員コンサルティング事業部長は、ベテラン営業担当者についてこう語る。「当社の場合もそうだが、団塊世代の営業担当者は、ユーザー企業に食い込むためにはどうしたらよいのかを常に考え、行動する仕事人間が珍しくなかった」。

 英執行役員はこうも付け加える。「そうした昔の営業担当者らがユーザー企業のキーパーソンと信頼関係を築き、それを維持してきた。そうしたユーザー企業の多くは、今も当社にとって大事なお客様だ」。

ベテランは人脈作りの達人だった

 IT業界の黎明期を支えてきたベテラン営業担当者や営業OBは、「業界全体が成長期だったこともあるが、『自社の製品やサービスの良さを知ってもらい、ユーザー企業に必ず使ってもらうんだ』という情熱や執念に満ちた人材が多かった」(エクサの大水一彌社長)。

 ユーザー企業もそれを認める。ニッセイ同和損害保険の徳久哲夫情報システム部長はこう振り返る。「ITベンダーの団塊世代の営業担当者は、今と比べると、我々ユーザー企業の人事や組織変更などを事細かに把握していて、よく驚かされたものだ。それだけユーザー企業に高い関心を持っていたということだろう」。  ソリューションを提供するには、ユーザー企業の課題を知らねばならない。そのためには、ユーザー企業の担当者と腹を割って話せるぐらいまでの信頼関係を築くことが理想だ。

 「ベテラン営業担当者の多くは、ユーザー企業のIT部門におけるキーパーソンとの信頼関係作りに汗水を流してきた」(日立システムアンドサービスの大立良夫営業統括本部東京第1営業本部第1営業部部長代理)。そうした営業担当者が太いパイプを作ったユーザー企業は、今もなおそのソリューションプロバイダにとっての重要顧客であることが多い。

 ところが今後は、そうしたユーザー企業との強固な関係が弱まる可能性が出てきた。ソリューションプロバイダにとってキーパーソンだったユーザー企業のIT部門のリーダーなどが、一線を順次退いていく。こうしたキーパーソンと“ツーカー”の仲だったベテラン営業担当者や営業出身の経営陣も、ソリューションプロバイダを去っていくのだ。まさに営業の「2007年問題」である。



本記事は日経ソリューションビジネス2006年12月15日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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