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 秋も深まった某日、都内のホテルで朝食会が厳かに開かれていた。その参加メンバーがすごい。出席した一人は、「これだけのメンツが、内閣府や経済産業省、総務省など、政府の呼びかけなしに自主的に参集したのは、おそらく初めてのことではなかろうか」と驚きを隠さない。裏返せば、それだけ今の日本のIT 産業が危機に瀕しているという証左でもあり、遅きに失したとの見方すらある。

 どういうメンバーか。秋草直之富士通会長、川村敏郎NEC特別顧問、篠本学日立製作所執行役専務・情報通信グループ長&CEO、大歳卓麻日本IBM社長、棚橋康郎新日鉄ソリューションズ(NSSOL)会長、浜口友一NTTデータ社長、藤沼彰久野村総合研究所(NRI)社長。日本のITリーダー企業7社のそうそうたる代表である。加えて、業界のご意見番とも言えそうな有賀貞一氏(CSKホールディングス副会長)が個人的に参加した。会合の議長は秋草氏である。

 富士通、NEC、日立、日本IBMは「電子情報技術産業協会(JEITA)」のメンバー企業。NSSOL、NTTデータ、NRIは「情報サービス産業協会(JISA)」だ。秋草氏は現在JEITA会長、棚橋氏はJISAの会長職に就いている。いわば、この朝食会はJEITAとJISAの垣根を越えて、日本のIT産業を憂う重鎮が集まったものと断言できよう。あえて平均年齢を問う無粋はやめるが、これまでの経験・実績を考慮すると、「IT業界の8人の“ラストサムライ”が、産業再生に立ち上がった」と言えるのではなかろうか。

 リーダー企業7社の市場に与える影響度合いを算出してみた。7社の2005年度の国内連結売上高合計は、多少重複はあるが約7兆4000億円。 IDCJapan調べの05年の国内IT市場規模約11兆6000億円に照らすと64%のシェア。ソフトサービスの7社売り上げは約5兆5000億円で 82%のシェアを握る。システムインテグレーションやアウトソーシングのプライム受注のほとんどを7社が牛耳るという、日本のIT産業に根を張る「多層下請け構造」の頂点に君臨する一大勢力の会合だ。

 現在の日本のIT産業が置かれている立場は、いわゆる内憂外患。日本市場は、90年代までの2けた成長が忘却の彼方へと去り、今では1けたの下の方。 IDCJapanによると、2006年の市場規模は当初2.2%増を見込んだものの、ハードの価格下落が激しく、10月末に1.7%増へと下方修正に至った。IT上場企業上位20社の中間決算を見ても、減収4社、営業減益6社とかんばしくない。売上伸び率もほとんどが数%増にとどまる。

 米IDCは今後2010年まで、世界市場は平均で6.3%増、米国5.5%増、英国5.6%増、ドイツ4.9%増を見込む。それに対し、日本は平均1.9%増とIT先進国中で最低の伸び率だ。

 日本のIT産業は、このようにデフレとコモディティ化のスパイラルに入ったと指摘されるなかで、産業の将来を担う人材面でも課題を抱える。10代後半の受験生のIT学部離れ、20代前半の理系卒のIT企業就職人気減、20代後半から30代のIT要員の情報処理技術者試験受験減と、産業基盤の人材供給は減少傾向にある。これは日本のIT産業の魅力が低下したことにほかならず、長期スパンで危機をもたらしかねない。

 加えて、IT技術は米国に引き離され、生産は中国やアジア諸国に太刀打ちできず、日本のIT産業はSIやサービスにシフトするものの、サービス事業でのグローバル化は極めて難しい。その結果、IT産業は外貨が稼げないという貿易立国の矛盾に陥っている。

 8人の重鎮は、(1)IT産業を魅力あるものに変える(2)優秀な技術者を育成する(3)ソフト品質を高める、などの問題解決で意見の一致をみたという。今後ワーキンググループを作り、具体的な方策を煮詰める方針だ。だが、通り一遍の処方箋では生ぬるい。例えば他の国に類を見ない、ソフト品質についての「PL法」の適用を申請するなど、ラストサムライたちに世界をうならせるIT産業の世直しを期待する。ぜひ、良い遺産を残してもらいたい。