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 米国時間5月16日の出来事は,1948年の米大統領選で勝利したTruman候補を敗北と報じた「世紀の大誤報」に匹敵する,「デジタル時代の大誤報」と呼べるかもしれない。

 人気の高い技術系ブログ「Engadget」はこの日,Appleの「内部メモ」とされるものを掲載した。その内容は,大いに期待されている携帯端末「iPhone」と次期OS「Leopard」のリリースが大幅に遅れるというもので,これを受けてAppleの株価は急落した。ところが,この内部メモは偽物だった。Engadgetはかつがれたのだ。

 Engadgetはすぐにこの記事を「虚報」として訂正し,Appleの株価も,急落前の水準には届かないものの,ほぼ持ち直した。インターネット関連のニュースブログ「TechCrunch」の編集者であるMichael Arrington氏が自らの記事で述べているとおり,「多くの投資家が,歯を磨くほどの短い時間で,途方もない額を失った」

 ウォーターゲート事件になぞらえて「アップルゲート」と呼ばれているこの騒動は,大勢のマニアックなオンラインニュース読者やデジタル機器の愛好家,そしてAppleの株主に,昔からある教訓を思い出させてくれた。それは,「読むものすべてが信頼できるわけではない」というものだ。

 間違った噂や事実に反する情報,悪ふざけなどを報道してしまい,それがあまりにも真剣に受け止められるというケースは,メディア業界の草創期から悩みの種だった。もちろんTruman氏と対立していたDewey候補が勝利しなかったのは知ってのとおりだし,1938年のラジオドラマ「宇宙戦争」が引き起こした騒ぎもいい例だ。とはいえ,インターネットやブログの登場で状況が激変したのは,衆目の認めるところだ。

 簡単な操作で情報を発信できるようになり,最新ニュースが掲載されるまで丸1日待つ必要はなくなった。特ダネを確認する電話に2分を費やしていたら,その間にほかのサイトにすっぱ抜かれる可能性がある。大量の情報を入手できるようになり,迅速に大勢とつながってメッセージを広く発信できるようになったことで,オンラインの世界はうわさを短時間で広範囲にばらまく大変な装置であることもわかってきた。うわさには真実もあれば,そうでないものもある。いずれにせよ,ネットユーザーがうわさ話を求める欲望は尽きることがなさそうだ。

 「わたしもうわさを掲載してきた1人だ」と,Engadgetと競合する技術系ブログ「Gizmodo」の編集者を務めるBrian Lam氏は語る。「実にひどいうわさを掲載したこともあった。大好きなんだ」

 だがこれをAppleのような企業に適用したらどうなるだろうか?Appleは秘密主義で有名なうえに,同社を愛してやまない忠実なファンが大勢いる。Appleの信奉者たちは,同社が提出した特許申請書の記述から,「iPod」の次期製品らしく見えなくもない不鮮明な写真にいたるまで,どんな情報でもリークされてくるのをいつも待ちかまえている。「面白そうな話を取り上げる場合に大切なのは,注意のうえにも注意することだ。とくにApple(の場合)は,みんな熱狂的だから。Appleファンは一筋縄ではいかない」とLam氏は言う。

 Lam氏がこう言うのは,2006年12月に「iPhone」に関する予測記事を投稿した経験が教訓になっている。Lam氏は,AppleのiPhoneのことを書いたわけではなかった(とりあげたのは,同じ名称のCisco Systems製の電話機のほうだった)。しかし,Appleのファンはこの冗談を非常識でひどいものだとみなし,Gizmodoには納得のいかない読者からのコメントや電子メールが山のように届いたのだ。

 今思えば,もう少し違った対応のしかたがあったはずだとLam氏は振り返る。「私はそもそも(その記事に)『Apple』というタグを付けるべきではなかった。それに,謝罪もすべきでなかったと思う。謝罪をしてしまったときに,私は自分をどうしようもないところに追いこんでしまったのだと思う。なぜなら,冗談として始まったことなのだから,冗談のままで通すべきだったのだ。まったくひどい騒ぎだった」とLam氏は語った。

 それ以来,ブログの投稿が持ち得るインパクトの大きさに気づいたとLam氏は言う。裏づけのほとんどない,ささいなうわさ話に飛びつきがちなブロガーについて,Lam氏は「とにかく,さっさと報じて責任は負わないという姿勢もとれる」と言う。「だが,AppleやMicrosoftにかかわる場合はどんなことでも,私は真剣に取り組む。ばかなまねはしない。重大さが違うのだ」

 虚報の記事を投稿したEngadgetのブロガーRyan Block氏が,あのとき投稿すべきではなかったかどうかについては,議論したところで結論は出ないだろう。結局のところ,Block氏は,メモの信憑性を調査するか,他の技術系のブログに出し抜かれる前にさっさと記事をEngadgetに投稿するかの選択に迫られていたのだろう。「記事を誰よりも早く投稿するというのは,条件反射のようなものだったと思う。それは理解できるし,大切なことだと思う。何もかもする時間はないのだ。だから,Ryan氏に罪はない」とGizmodoのLam氏は語った。

 Engadgetの読者のうち,少なくとも,Block氏が17日に投稿した謝罪記事に対するコメントを投稿した読者は,同じ考え方のようだ。ある読者は「本心から言うのだが,私はメディアをどんなときでも許すことができる」と記している。また別の読者は,「Ryan氏がしたことには,何も間違ったところはないと思う。ジャーナリストならみんな同じことをしただろう」と書き込んでいる。もちろん,(Appleの株を持っていると主張している人を含め)怒っている読者も少数存在するのは事実だが,コメント投稿者の全体的な雰囲気は,Ryan氏を許す方向に向かっている。

 しかし,これが「New York Times」だったとしても,読者は同じように理解を示すだろうか。ブログの読者はテクノロジ好きの若者で,Engadgetのようにブロガーが次から次へとニュースを投稿するそのスピードを評価している。一方,新聞の読者が同じようなスピードを求めているとは思えない。こちらの読者は,新聞社が記事の内容に細心の注意を払う点を評価しているのだ。したがって,大手新聞社がEngadgetのようなミスをした場合に,誰も責任をとらずにすむかどうかについては何とも言えない。

 もちろん,大手報道機関がそれ相応の誤報をしないというわけではない。ニュースサイトの「MSNBC」は2007年3月に,ある政治サイトの記事を引用して,民主党の大統領候補John Edwards氏が自身の選挙運動を一時中断したとする記事を掲載した。その後,Engadgetの場合と同じように,MSNBCはこの誤報を訂正して誤ちであったことを認め,ニュースの続報を報じた。

 ものすごいスピードで競争を繰り広げることが,オンラインの報道や出版では当たり前になっているのだ。したがって,読者はこうした状況を受け入れ,承知のうえで接しなければならないと,ニューメディアを専門に研究する,コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授のSree Sreenivasan氏は指摘している。

 「わたしはブログで多くのジャーナリズムを読んできた。そして刊行物や印刷物,ウェブなどあらゆるものに対して同様に,わたしはいつも懐疑的だ。わたしたちは見るものすべてに対して懐疑的でなければならない」(Sreenivasan氏)

 これは読者だけでない。金融専門家でありWallstripでブロガーを務めるHoward Lindzon氏も,Engadgetの最初の投稿が発端となって株式取引が混乱したことに驚かされたという。同氏はインタビューで「人々が恐れを抱いた」と述べ,「株価が4ドル下落し,パニックに陥った」と語った。

 偽のうわさが企業の株価に影響を与えたのは初めてのことではない。ネットワーク機器メーカーのEmulexは2000年に,偽のプレスリリースがインターネットに流れ,一時的にではあるが25億ドルを損失した。

 Lindzon氏は,「わたしは株式に関して新しいメディアを利用している。というのも,いくつかの良い要素があると思っているからだ」と述べ,「それと同時に,わたしは読んだものに従って行動はしない。それは私にとって雑音でしかないからだ」と語る。言い換えれば,ブログ出版の異常なペースの成長を,読者,特に出版されたものに金銭的な利害関係を持つ可能性のある読者に当てはめる必要はない。

 ブログを警戒する必要性に対する話し合いがあるなか,明るい面も存在する。Sreenivasan氏によると,人々が好んでEngadgetなど主要ブログのコンテンツを受け入れ,信用するようになってきており,これはブログがメインストリームメディアに成熟しつつある兆候だという。Sreenivasan氏は,「人々がテレビやラジオで流れるものをなにも信じなかったときもあるし,電話インタビューをしたときも,やはり誰も信用しなかった。どんな社会もある程度は,コミュニケーションやニュース収集,ニュース配信のため新しいメディアに順応するものだ」と述べる。

 「いまSecond Lifeに関する報道があったとしても,あまり大きな衝撃とはならないだろう。しかし,数年後にはどうだろうか」(Sreenivasan氏)

この記事は海外CNET Networks発のニュースをシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ

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