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 「ユーザー主体開発」をテーマにした本の担当編集者に、質問を10件提示し、回答を求めた。といっても、この一文を書いている筆者が担当編集者なので、以下は自問自答の結果である。

問1 書名に「システム内製」とあります。IT企業に委託していた設計やプログラミングの仕事を自社の要員でやるようにする、ということでしょうか。

答1 はい。そうした事例がこの本には収録されています。ただし、それだけとは限りません。システムの仕様を自分でまとめ、設計を内部でしてから、プログラミングを外に委託した、という事例もこの本に入っています。例えば、東京都江東区、宮田眼科病院はこうしたやり方で成果を上げています。

 一番大事なのは、情報システムを利用する人や企業が主体となってシステムを設計、開発していくことです。これを「ユーザー主体開発」と呼んでいます。書籍の帯にはこの言葉を記載しました。ユーザーが主体になって、しっかり設計ができているのであれば、製造(プログラミング)を社外に委ねても大丈夫でしょう。

問2 自分で使うシステムを主体的に設計、開発するというのは当たり前ではないでしょうか。

答2 それはそうです。しかし、その当たり前のことがなかなかできない状況があります。情報システムに関するユーザー企業の設計力やプロジェクトマネジメント力が落ちてしまい、システムインテグレータの手を借りないと新規開発はもちろん、既存システムの保守すらままならなくなっています。背景には、複雑になっているシステムの全体像をユーザー自身が把握できなくなっている問題があります。

問3 当たり前の話をなぜ今、本にまとめたのですか。

答3 大成建設の前CIOで、大成ロテックの監査役を務める木内里美氏は次のように述べています。

 「今、アジャイル(俊敏)な経営が求められており、それに応じて情報システムをアジャイルに整備しなければならない。そのために、ユーザー企業は自分でシステムを素早く作る力を取り戻す必要がある」

 もともと問題を抱えていたところに、経営から「もっと早く」という要請が来た。簡単ではないですが、ユーザー企業は情報システムに関わる体制を立て直さなければいけません。そうしたことをすでに実践したユーザー企業の事例を集めた本を作れば、これから取り組む方々の参考になると考えました。

 ちなみに木内氏のこの発言は、「システムイニシアティブ研究会」の会長として出されたものです。システムイニシアティブ研究会は2011年2月に発足したユーザー主体開発の推進に取り組むコミュニティです。

問4 沢山のシステムがすでに動いています。これ以上、新しいシステムを開発する必要がありますか。

答4 世界や社会は変化しています。仕事も生活も変わっています。一番変化が激しいのは、技術でしょうか。こうなってくると、企業や組織は仕事に役立つシステムをこれまで以上に追求しなければならなくなります。そのためには、システム設計や開発のやり方を変え、適切な技術を採用していく必要があります。

 業務の効率化を狙った既存システムを改良する一方、新ビジネスを創造し、それを支える新しいシステムを開発しようという取り組みが始まっています。そうした事例として、コマツとビジネス・ブレークスルー大学大学院の事例を収録しました。どちらも組織のトップがリーダーシップを発揮しています。

問5 本の帯に「クラウド時代の今が始め時!」と書いてあります。これは逆ではないでしょうか。クラウド時代とは、出来上がっているシステムを使う時代ではないですか。

答5 クラウドといった時、サーバーやストレージなどコンピュータ資源をネットワーク経由で使うという話と、アプリケーションを使う話に大別できます。

 前者の時代がやってきたのであれば、ユーザー企業はサーバーの導入や設定ですとか、メモリーやストレージの増設といった作業から解放され、その分、アプリケーションの設計と開発に人と時間を投入できます。まさにユーザーが主体性を取り戻すことに注力できるわけです。

 後者の時代がやってきたとしても、アプリケーションを改良する仕事はついてまわります。ユーザー企業の置かれている状況が変化するからです。また、ユーザー企業が自社開発したアプリケーションをクラウドに載せて、グループ企業や取引先に使ってもらうといったことも出てくるでしょう。この場合、クラウドに載せたアプリケーションを改良し続ける必要があります。

 クラウドとまだ直接関係はないですが、システムを直し続ける体制を整備しようと、自社の要員を増強する企業が増えています。ソニー生命、ソフトバンクモバイル、日本郵船グループ、八十二銀行、三井住友海上火災保険といった企業の例が本書に登場します。

問6 著者は誰ですか。「日経コンピュータ 編」と記載されていますが。

答6 本書に登場する事例は原則として、日経コンピュータ誌に掲載されたものです。ユーザー主体開発に挑戦する企業の事例を日経コンピュータはこれまで沢山報じてきました。

 その中から、比較的最近の事例を選び、まとめたのが本書です。したがって著者は、日経コンピュータ編集部の記者達です。事例の後に初出を記載しており、そこに担当した記者名も載せました。

問7 「実例を多数収録」したとのことですが、どのような企業が登場するのでしょうか。

答7 まだ名前を挙げていなかった企業として、アートコーポレーション、セイコーエプソン、セーレン、トライアルカンパニー、ノーリツ、フジスタッフホールディングス、ヤマハ発動機、ロームがあります。こうした企業は、日経コンピュータのシステム内製特集や、システム部門の改革特集に登場していただきました。

 その企業にとって新しい手法やツールを採用し、開発や保守の生産性を高め、主体性を発揮しつつある企業も登場します。鈴廣蒲鉾本店、成城石井、東急ハンズ、東邦チタニウム、ドトールコーヒー、三菱重工業、良品計画といった方々です。

 思い切って基幹システムを全面刷新し、その過程で人材を育てようとした企業として、クラレ、NTT、村田製作所が登場します。さらに、ユーザー主体開発を推進するシステム部長の方々に持論を述べていただきました。近鉄エクスプレス、国分、住友電気工業、トーハン、日本酒類販売、マックスといった企業のシステム責任者の方々です。

問8 システム内製を成功させるカギは何でしょうか。

答8 カタカタで書くと、デザインとコラボレーションです。自分のシステムを自分で設計(デザイン)することが重要です。当たり前の話が続きますが、自分の業務をどのように進めるか、そのときにどんな情報が必要なのか、こうしたことを決められるのはユーザーだけです。

問9 コラボレーションとはどういうことですか。

答9 社内の利用部門、情報システム部門、情報システム子会社、IT企業といった関係者が対等な関係を維持しつつ、良いシステムの実現に向けて協業していく、ということです。

 そんなことは当たり前だろうと言われそうですが、上下関係や利害関係が入り組んでいるあまり、上意下達でシステムを作ろうとしたり、逆に一切合切を丸投げしたりする例が見られます。いずれもコラボレーション(協業)とは言えません。

 新しい開発手法として、いわゆるアジャイル開発が再び注目されています。色々な作法に目がいってしまい、「こんなやり方では大きなシステムは作れない」「そんなことはない」という不毛な議論に入りやすいですが、アジャイル開発の大事な点は、システムの利用者や開発者が同じ現場にいる、ということでしょう。丸投げや、多段階請負という名の派遣型開発を続ける限り、ユーザー企業は主体性を取り戻せません。

問10 今後もこのテーマで書籍を出版する計画はありますか。

答10 はい。先に紹介したシステムイニシアティブ研究会が定期的に会合を開き、ユーザー主体開発について活発な議論を重ねています。可能なら研究成果をまとめた本を出したいと思っています。また、ユーザー主体開発をテーマにしたシンポジウムも何度か開いており、その結果もまとめていきたいですね。

開発・改良の切り札 システム内製を極める

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日経コンピュータ編
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