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グンゼの電子部品事業部が製造するタッチパネル
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タッチパネルの製造プロセスと業務改革の概要
タッチパネルの製造プロセスと業務改革の概要
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ドラム・バッファー・ロープの基本的な仕組み
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ドラム・バッファー・ロープを導入した変革プロジェクトの段取りと概要
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バッファーの在庫管理を通じて生産ペースを調節する
バッファーの在庫管理を通じて生産ペースを調節する
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グンゼが生産リードタイムや在庫を大幅に削減する生産改革を進めている。TOC(制約条件の理論)を採用し、電子部品製造工場にまず導入。生産リードタイムを、目標を大幅に上回る5分の1に短縮した。

 グンゼのような製造業にとって、仕掛かり在庫の削減や、生産リードタイムの短縮は永遠の課題だ。その突破口として、同社が導入を決めたのがTOC(制約条件の理論)だった。その成果は目覚ましい。タッチパネルの製造を手掛ける生産子会社に適用したところ、ガラスやフィルムなどの部材を生産ラインに投入してから完成するまでの生産リードタイムが5分の1に短縮した。大きさにもよるが、従来は平均21日かかっていたが、TOC導入後はすぐに平均4日に短縮されたという。ライン上にあった5万~6万枚の仕掛かり在庫も1万枚強へと5分の1に削減した。

 この結果、携帯情報端末メーカーなどの取引先に対して、量産品の場合で30日間と見積もっていた納期を今では10日間で契約できている。それでいながら納期順守率は12ポイント高い82%へと改善したという。

JITと天秤にかけ選択

 当初、同社はトヨタ自動車流のジャスト・イン・タイム(JIT)方式を導入するか、TOCを導入するかで実は迷っていた。最終的にTOCを選んだのは、「当社の業態で、JITが目指す生産の同期化を進めることは困難だ」(グンゼで生産改革を推進している林洋幸取締役 兼 CTO テクノ・マンパワーセンター長)と判断したからだ。糸から生地を作りそれを染めたりさらして、裁断・縫製していく一連のプロセスにおいては、各工程の加工時間やロットサイズが大きく異なったり、仕掛かり品がライン間を行ったり来たりする工程がある。電子部品事業部の工場においても同様だ。生産の同期化を徹底的に図るJITを適用するには、生産プロセスが複雑すぎると判断した。

 一方で、林取締役らグンゼ幹部はかねてからTOCにも注目していた。そこで、TOCのコンサルティングを手掛ける日本総合研究所と2002年4月に契約。TOCを、まず電子部品事業部から適用したのは、そこで成果を出してから、繊維関連の主力事業に適用したいと考えたからだ。

 グンゼの電子部品事業はあまり知られていないが、携帯情報端末などに使われるタッチパネルが主力商品だ。タッチパネルとは、表面に透明なスイッチを形成したフィルムをガラスに張り合わせたもの。同事業の生産を担う子会社、エルマ(本社京都府亀岡市)は売上高52億7000万円(2003年3月期)の事業規模を持つ。

 電子部品事業は、ここ数年、台湾など海外メーカーの攻勢が厳しくなっている。販売担当者からは「納期が短いといった長所を打ち出したい」という要望が強くなっていた。

 そうした経緯から、TOC導入の目標としては生産リードタイムの短縮を最重点課題に置いた。当初は21日間を半分以下にする目標だった。

チェンジ・マネジメントの成果

 2002年4月から6月までの3カ月間で、TOCの生産改革手法であるDBR(ドラム・バッファー・ロール)の導入を完了した。同年7~9月には早くも生産リードタイムを5分の1にするといった成果が表れた。その後も改革効果は持続しているという。

 実は、この変革プロジェクトにおいて、IT(情報技術)関連の新規投資は一切行っていない。新たな計算処理は表計算ソフトの活用程度で済んでいる。この約3カ月間に実施したのは、生産の各工程の処理時間を徹底的に調査し、DBRの方法論に基づいて業務ルールや、作業現場の管理指標を変更しただけだ。

 DBRとは何か。簡単な例えとしては、水の出の良い水道管と、出の悪い水道管が垂直に連なり、中間に水をためるたらい(バッファー)がある構成になぞらえると分かりやすい。

 上流で水の出の良い水道管があったとしても、中間で水の出の悪い水道管がボトルネックとなる。たらいに水が大量にたまるだけで、全体を流れる水の量を増やすことはできない。

 グンゼの生産プロセスでは、従来はこうしたボトルネックを意識していなかった。これでは、それぞれの水道管の担当者が、水を多く流そうと努力しているようなものだ。「これまでは、工程ごとに部分最適で生産効率を追求する管理体制だった。このため、個々の工程が後の工程に過剰な仕掛かり在庫を押し込んでも平気だった」(林取締役)。

 その結果、仕掛かり在庫が工程間で大量に積み上がっていた。仕掛かり在庫が多くなれば当然、資材を投入してから完成品になるまでのリードタイムも長くなってしまう。

 DBRの業務ルールを導入した新工程では、ライン全体の生産スケジュールは、ボトルネックの水道管を管理する作業者が決定する。そのスケジュールに従い、上下にある水道管の担当者は、資材投入などを行う。細かい生産ペースの調節は、たらいにたまる水の量を目安にする。自分の後ろのたらいにたまる水があふれてくれば生産ペースを落とし、少なくなりすぎれば生産ペースをやや上げるわけだ。

バッファーの適正量を常に監視

 このように、TOCのDBRでは、あえてバッファーに仕掛かり在庫をある程度置くことを前提に、全体の在庫削減を図るのが、JITとの大きな違い。といっても、バッファーの大きさは事前に各工程の処理時間を厳密に調査して決定する。そのうえで、各バッファーに管理者を置いて仕掛かり在庫を適正量に保つよう監視する。

 グンゼの電子部品製造拠点であるエルマは2拠点の工場のプロセスが絡んだ生産体制になっている。各工程の処理時間を徹底的に調査して、ボトルネックをまず探した。

 京都府亀岡市の工場が主力拠点だが、前半の工程は滋賀県守山市の工場も分担している。主な生産プロセスは(1)ガラス・フィルムの資材投入、(2)フィルム基板上に透明な導電膜を真空蒸着(スパッタ)、(3)フィルムを所定の大きさのシートに裁断、(4)染料を印刷し乾燥、(5)ガラスとフィルムを最終製品に合わせた大きさに裁断して張り合わせ、コネクタなどの部品と組み立てる――となる。

 ボトルネックであり、生産スケジュールを司る制約工程はガラスとフィルムの乾燥工程に決めた。ただし実は、製造品の大きさ次第で、本来のボトルネック工程は異なることが分かっていた。しかし、品番によって制約工程を変更しながら管理するのは煩雑すぎる。「全製品に共通で、しかもほぼボトルネックの工程と同等の生産能力しかない工程という条件で制約工程は乾燥工程に決めた」(グンゼ テクノ・マンパワーセンターの遠藤有二氏)

 本来、制約工程は1カ所であるべきだが、あえて2つ目の制約工程も亀岡工場の別な課に設けた。これは、生産管理上の理由ではなく人材育成上の理由である。「制約工程を管理できる人材を、複数の課で養成しておきたいと考えた」(同)

 たらいに相当するバッファーは全部で7カ所設定した。バッファーの大きさは、製品によって変えている。グンゼでは、タッチパネルを大きく3種類の製品群に分類しているが、それぞれに「各工程における過去1年間の最長トラブル時間+通常の作業時間」をベースにバッファーの大きさを設定し、運用しながら微調整している。

 この制約工程とバッファーを管理する業務は以下のようになる。まず通常の生産スケジュールは制約工程を受け持つ「ドラム・バッファー・マネジャー」が計画する。制約工程以外の工程のバッファー・マネジャーは、その計画に沿いつつ、仕掛かり在庫の量が、バッファーの3分の2程度になるように生産ペースを調節している。

 実際には、仕掛かり品を置くスペースに、赤・黄・緑の枠取りをして、仕掛かり品を積んだ台車などが緑の領域からなくなると、生産ペースをやや上げ、緑の領域からあふれそうになると生産ペースを落とす。

 もし何らかのトラブルで、バッファーの仕掛品が赤の領域まで減りそうになると直ちにその工程のバッファー・マネジャーは制約工程担当のドラム・バッファー・マネジャーに知らせる。それを受けてドラム・バッファー・マネジャーはスケジュールを直ちに変更する。例えば亀岡工場内のスパッタ工程にトラブルが出たとすれば、守山工場のスパッタ工程への資材投入を増やしてバックアップするよう指示するなどだ。

 DBRの導入に当たっては従業員の意識改革が不可欠だった。「バッファーの適正水準を無視して勝手に生産ペースを変えられては困る。だが、『手待ちの状態になっても構わない』といった発想は従来の現場の常識に反する。そこで、TOCの解説書によく紹介されているサイコロゲームを従業員にやってもらいながら、制約工程やバッファーを管理する重要性を理解してもらった」(遠藤氏)

 その結果、残業時間は半分以下になり、一定期間の生産金額を同期間の労務費で割った生産性指標は、27%上昇した。

スケジューリングにはITが必要

 今回の成果を踏まえ、グンゼは繊維事業への展開の調査研究を進めているところだ。ただし電子部品事業においても、今後は新たにITを活用して改善を進める。

 現在は生産スケジュールの策定に表計算ソフトを使っている。製品を3つにグループ分けして、各工程の平均リードタイムに基づいて資材の投入計画を策定している。だが、実際は同じグループでも品番ごとに処理時間が異なり、実態とかい離がある製品もある。

 そこで、新たにスケジューリングソフトを導入する予定だ。「品番別に細かく処理時間を管理して、計画立案や日々の計画変更に対するシミュレーションを迅速に行えるようにする。そうなれば、納期短縮や納期順守率が一層向上する」(遠藤氏)