この本は、2006年10月に発行した、前作「本当に使える見積もり技術」の改訂版です。前作を発行した当時、IT業界では論理的・合理的にソフトウエアを見積もる手法が確立されておらず、多くの方にお読みいただきました。特に、ベンダーのITエンジニアの方、すなわち見積もりを作成する立場の方に広く受け入れられたと思っています。
ところが、発売から2年ぐらいを過ぎたころから、ある異変が起こり始めました。著者である日立製作所の初田賢司氏のもとに、日本全国のユーザー企業から問い合わせが相次いだのです。その内容は「ユーザー企業側で見積もりを精査するための方法をアドバイスしてほしい」というもの。初田氏はこれを受けて、全国を飛び回ることになったのです。
ベンダーのITエンジニア向けに見積もりの作成テクニックを書いているのに、どうしてこれほどユーザー企業から反響があるのか。初田氏と編集担当の筆者は首をかしげました。でも考えてみれば、分かることでした。ユーザー企業には相変わらず「根拠のないダメ見積もり」が提出され続けていたのです。ユーザー企業の方は、不当に高い金額で発注しないよう、自己防衛のために前作の内容に関心を示していたと言えます。
こうした反響を受け、今回ついに「本当に使える見積もり技術」はバージョンアップしました。最大の改良点は、対象読者に「作成者」とともに「査定者」を加えたことです。ベンダー、ユーザー企業の両方の方がソフトウエア見積もりのノウハウをつかめるように加筆・修正しています。例えば、ユーザー企業による見積もり査定に関する章を新たに設け、査定のプロセスや体制、具体的な評価シートのサンプルなどを取り上げました。
また前作からのメッセージである、見積もりに「マネジメント」と「エンジニアリング」の光を当てるという点をさらに強化しました。具体的には、見積もり結果を実際のプロジェクトにつなげるためのテクニックを詳しく紹介しています。見積もりのゴールは、契約を結ぶことではありません。プロジェクトを成功に導くことなのです。これを改訂版ではより明確にしました。
このほか、CD-ROMに収録するソフトも一新しています。設計書からファンクションポイント(FP)を算出する規模見積もり支援ソフトと、FPから工数を算出する工数見積もり支援ソフトです。IT現場ですぐに使えるソフトとして、筆者が厳選したものです。
多くの部分を読者の声をベースに改訂しています。ぜひバージョンアップした「本当に使える見積もり技術[改訂版]」をご覧いただければ幸いです。
ソフトウエア開発を成功に導く 本当に使える見積もり技術[改訂版]
日経BP社発行
初田 賢司著
3990円(税込)