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 IT経営がうまくいかない理由の一つに、「CSFの品質が低い」という問題があります。CSF(Critical Success Factor、決定的成功要因)は、目標達成を左右する最も大きな要因を具体的に定義したものでなければなりません。しかし、このCSFの策定に十分な時間を割かない企業には、経営上の多くの問題が出てきます。

 CSFの品質が低く、あいまいだと、経営戦略に沿った経営改革プロジェクトの方向がブレ、現場が混乱し、期待するようなIT経営の成果を出せなくなります。場合によっては、「投資が無駄になり、経営改革から撤退」という事態が起こることだって考えられます。それゆえ、CSFの策定は、IT経営を実現するための“最初の山場”と考えてください。

 本連載では、中堅ITベンダーIST社をモデルに、プロジェクトメンバーとITコーディネータとの対話を通して、大阪事業部を「儲かる事業」にするための企画を進めています。プロジェクトを推進するうえで前提となっているのは、ITコーディネータ試験の出題範囲に含まれる「ITコーディネータ プロセスガイドライン2.0」です。前回、事業戦略を策定する3つのステップを紹介し、その第1ステップから第2ステップ中盤までの検討作業を見てきました。SWOT要因を整理し、CSFを導出する準備が整いました。

 今回は第2ステップの続きとして、「事業のCSFを策定」します。事業の儲かる仕組みは「ビジネスモデル」と言われています。CSFはこのビジネスモデルの要となるものです。ここで改めて第2ステップ(SWOT要因を整理しビジネスモデルを特定する)の作業概要を紹介しておきます。

 経営者が提示した事業シナリオの構想をより確かなものとするために、第2ステップでは内外環境要因を含めた事業成功要因を整理・検証します。さらに、儲かる事業となる事業領域と事業成功要因を特定し、ビジネスモデル(事業の儲かる仕組み)を考えます。特定する事業領域の要因としては、「商品・サービス」「顧客(市場)」「ニーズ」に加え、“事業成功の決定的な要因”となる「CSF」を策定します。

CSFの策定は2段階で進める

 CSFを選定するには、2段階の作業を踏みます。グランドデザインで作成された内容をもとに「CSF案の検証と新たなCSF案の導出」という段階、そして「事業に合ったCSFを選定する」段階を踏みます。以下に各段階の概要を説明します。

◆CSF案の検証と新たなCSF案の導出
 ITコーディネータ プロセスガイドライン(PGL)のIT経営認識プロセスにおける「変革認識フェーズ」では、経営者によって作成されたグランドデザインを基本にCSF案を検証し、さらに新たなCSF案があれば追加し、プロジェクトメンバーによるCSF案として報告します。メンバーによるCSFは、SWOT要因を分類した4象限から発想し、事業ドメインにある顧客、顧客ニーズ、事業目標を踏まえてまとめます。

◆事業に合ったCSFを選定する
 いくつかのCSF案を導出したところで、儲かる事業の構築に最も適したCSF案を選定します。その際は、まず事業や企業体力を考慮してCSF案が適切かどうかを判断する「適切性の検証」を行います。さらに、新事業または既存事業とのシナジーも考慮して、事業に最も適合するCSF案を選ぶ「CSFの確定」を行います。

 これらの作業の実際を、IST社のプロジェクトを題材に見ていきましょう。

経営トップは事業拡大を志向してCSF案を発想

 今日、私(ITコーディネータ)がIST社を訪れた目的は、CSFの策定を支援することです。前回の訪問時に、SWOT分析による「強み・弱み」「機会・脅威」の要因を4象限に整理し、CSFを検討する準備が整いました。プロジェクト室には既にメンバーが集合し、グランドデザインで提示されているCSF案の裏付け作業を進めていました。

大阪事業部長の山田氏:私を含め、役員で話し合った方向性としてのCSF案がこれです。「クラウドシステム構築支援技術を整備する」や「ERPビジネスができる開発環境を作る」という案が出ました。ただし、ここからもっと具体化していかないと、本当に決定的な成功要因なのかどうかは分かりません。

営業課長の中川氏:山田さん、これらのCSF案が導出された背景を説明していただけますか?

山田氏:それでは、1つずつ説明していくことにしよう。