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 人は「伝わったはず」「分かったつもり」になって行動を起こしがちです。自身の関心に集中してしまい、それが相手と同じ目線や考えと思い込みがちです。また、私たち日本人は「相手を傷つけない」と配慮して要求をはっきり言わない傾向があります。要求を受けた側も非難していると誤解されたくないため、「どうして」と相手の意図を確認しないことがしばしばです。これが災いし、関係者それぞれで解釈する内容が少しずつ違っていて、後になって問題が起こることが少なくありません。

 このような問題は心理学の「マンド(要求言語行動)」の概念に基づいています。マンドとは自分と相手の要求を調整する行動を指し、話し手の意図(願望・命令・疑問など)を聞き手が推量して反応する言語行動などが当てはまります。この行動は話し手の本来の意図と一致しているとは限らず、トラブルの素になりがちです。その点を配慮したコミュニケーションが話し手にも聞き手にも求められているのです。

 本連載はこうしたコミュニケーションの問題を解決する手法を、架空の飲食チェーン「縁(えにし)」グループを舞台に探ります。前回、イタリアンバー「ENISHI」の課題を解決した縁グループでも、「伝わっているはずなのに伝わっていない」「分かっているつもりで分かっていなかった」という問題が発生してしまいました。今回の舞台は縁グループ本社。オーナーと販売担当マネジャーのやり取りです。

 販促担当マネジャーの向井みなみは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の立ち上げと運用をオーナーから命じられました。オーナーは最近話題のSNSを活用して集客に弾みを付けたいと考えていたのです。

課題:SNSでファンとコミュニケーションをはかる場を立ち上げたが、送客効果が出ていない

 運用を開始してから1カ月余り。「SNSの効果はどうだ」とオーナーに問われ、向井は答えました。

 「順調です。6月にファン向け『Enishiページ』を開設し、記事を毎日投稿しています。投稿に対して利用者が『いいね!』ボタンを押してくれた数は合計で240に達しました」

 「なるほど順調そうだな。ところで、そのページから何人ぐらい店舗へ送客できたんだ」

 「それは…」

 向井は口ごもってしまいました。「SNSを立ち上げ、利用者に親しみをもってもらうことで長期的なブランド価値を高めていけばよいのだろう」と思い込み、送客効果については意識していなかったのです。肩をすぼめる向井に、オーナーの雷が落ちました。