「値引きを求めたら拒否された」、「開発を依頼しようとしたら、『システム構築の目的が明確にしてもらわないと受けられません』と言われた」——。こういったケースが珍しいことではなくなり始めている。赤字案件撲滅に向け、ITベンダー各社が設置したPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)が、顧客への見積もり・提案段階の精査にまで乗り出しているからだ。ユーザー企業が今後のシステム商談を有利に運ぶためには、PMOが「受注リスクが高い」と判断している発注体制を改善する必要がある。

ある大手通信事業者は昨年度後半、事業統合に伴う課金システムの開発を断念せざるを得なかった。10億円程度の予算を確保し、目当てのITベンダーに見積もりを依頼したものの受注を辞退されてしまったからだ。
10億円もの案件を辞退したITベンダーの幹部は、受注拒否した理由を「ユーザーが用意していた予算は、当社が出した見積額より25%ほど低く、その値段では当社の利益を確保できないためだ。PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)が『案件から辞退する』という判断を下した」と打ち明ける。通信事業者は「『この値段でやってくれ』の一点張りで、歩み寄りの余地がなかった」(同幹部)という。
「通常なら機能を削るなどで受注できるよう話し合うのだが、課金という基幹システムでは、その手法も使えなかった。当社としても、できれば受注したかった案件だっただけに残念だ」と、同幹部は語る。
「その依頼、お断りします」
この通信事業者の案件のように最近、ITベンダーが受注を辞退するケースが散見され始めた。「不採算案件と分かれば受注を断る」、「余りにも要求仕様が“あいまい”なので受けたくない」——。少し前までなら考えられなかったITベンダーの受注辞退を後方で指示しているのが、各社がここ2、3年、設置を進めてきたPMOだ。
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図1●赤字案件を撲滅したいベンダーは、PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)が案件をふるい分けている |
受注拒否の判断理由として各社が共通に挙げるのは、(1)システム要件があいまいで仕様追加が多発する可能性が高い、(2)自社の見積価格とユーザー企業の予算の間に大幅な違いがある、(3)ユーザー企業が求める納期が短く開発スケジュールに無理がある、などだ。
PMO設置以前は、赤字が確実な案件であっても営業部隊は売上高拡大に向け受注するケースが多かった。それだけにPMOが「受注拒否」を決定しても、営業担当者はユーザーには直接的に商談辞退を伝えてこなかった。ある中堅ITベンダーの営業担当者は、「意図的にコンペで競り負けるように、ユーザーが提示する予算の倍近い額で見積もりを出したこともある。ある商談では、他社も同じ手を使ったのか、高めに見積もったにもかかわらず危うく受注しそうになった」と苦笑する。
それも最近は、ITベンダー各社も小細工を止めている。「その予算では、原価を割り込むので受けられません」とか、「当社のプロジェクト体制が整わないため受注できません」といった理由を説明し断っている。
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