PR

富士通が、4年ぶりに最上位のメインフレームを発表した。現行機種と比べればCPUの単体性能は1.5倍だが、IBMの最上位機種には大きく水をあけられた。既存顧客の置き換え需要を狙っており、ハイエンドはUNIX、IA-64で攻めるという戦略だ。


本記事は日経コンピュータ 5月29日号に掲載予定のレポートより、本文のみを抜き出したものです。そのため図や表が割愛されていることをご了承ください。

 IBMのzシリーズとの性能差は認識している。もう単純な性能競争はしない——。5月15日、東京・汐留の富士通本社で新製品発表に臨んだ山中明 経営執行役サーバシステム事業本部長は、メインフレーム市場で30年以上にわたって繰り広げてきたIBMとの性能競争から降りたことを宣言した。

世界最高速はIBMに明け渡す

 富士通はメインフレーム「グローバルサーバ21(GS21)」の最上位機と中位機を4年ぶりに一新し、2007年2月に出荷を始める。今回投入する最上位機「GS21 900モデルグループ」のCPU単体性能は450MIPS(本誌推定、以下同)。2002年に投入した前機種であるGS21 600モデルグループの1.5倍に引き上げた。

 300MIPSのGS21 600モデルグループは登場した当時、「世界最高速」。しかし、今回は違う。

 富士通が発表した最上位機の性能は、実はIBMが5月に投入した中位機「IBM System z9 Business Class」と同等。IBMが2005年夏に発表し、この5月にマイナー・チェンジした最上位機「IBM System z9 Enterprise Class(System z9 EC)」に搭載しているCPUの単体性能(600MIPS)とは、性能面で大きな開きがある(表)。

 GS21の新モデルが搭載できるCPU数は最大16個と、前モデルから変わっていないのに対し、System z9 ECは最大54個まで拡張できるようにした点も大きな相違点だ。

自社機の乗り換え需要に照準

 富士通はIBMとの性能競争に勝つことよりも、既存の同社メインフレーム・ユーザーのつなぎとめに力を入れていることを隠さなくなった。富士通の山中本部長は「メインフレームで新しい市場を切り開こうとは思わない。社会システムに組み込まれているメインフレームを継続していくというコミットが大切だ」と明言する。

 というのも、「西暦2000年問題対応で入れ替えたメインフレームの多くが、ちょうど更改時期を迎えている」(サーバーシステム事業本部の豊木則行本部長代理兼エンタプライズサーバ開発統括部長)からだ。これらのユーザーに、今後数年間は使える“次世代機”を提供できなければ顧客ベースを失うリスクがあった。

 既存ユーザーにとって、コストメリットはある。GS21の新モデルは月額のレンタル料金を旧モデルと同額に据え置いている。CPUの性能が1.5倍になったため、MIPS単価は単純計算でも3分の2になる。

 メインフレームのアプリケーションを継続利用できる環境も整えた。新機種の発表に合わせて、ミドルウエアの「Interstage AIMApplicationDirector V30」の機能を強化、システムをサービス単位で開発・運用できるSOA(サービス指向アーキテクチャ)に対応した。「SOAはこれから立ち上がる市場であり、参入可能なフェーズだ」(山中本部長)とする。既存ユーザーは、レガシー・マイグレーションに踏み切らなくても現行のアプリケーションを使い続けることが可能になる。

主戦場はハイエンドのオープン系

 富士通がメインフレームの最上位機種で、IBMとの性能競争から降りた背景には、ハイエンド・サーバー戦略の違いがある。

 IBMはSystem z9にLinuxも搭載、サン・マイクロシステムズやヒューレット・パッカードのオープン系ハイエンド・サーバーと熾烈な競争を繰り広げている。国内でも、三菱東京UFJ銀行のように、Linuxとの組み合わせでSystem z9 ECを大量導入する事例も出始めている。日本IBMの渡邉彰システムz9事業部長は「日本でもz-Linuxの利用が進んでいる。CPUパワーは2005年に8割増えた。日本の伸びは世界で最も高い」と明かす。

 一方の富士通はハイエンドのオープン系をIA-64と、サン互換のRISCサーバーでカバーする。2005年にインテルの「Itanium2」を搭載する「PRIMEQUEST」を投入。世界市場で戦う戦略製品と位置づけた。x86サーバーの「PRIMERGY」、サン互換の「PRIMEPOWER」と合わせた「マルチサーバシステム」で、それぞれの顧客に最適なプラットフォームでソリューションを提供するという考え方だ。

「ユーザーは迷っているはず」

 しかし、富士通がうたう「マルチサーバーシステム」がユーザー企業にとって明快なロードマップになっているとは言い難い。ガートナー ジャパンの亦賀忠明エンタープライズ・インフラストラクチャ・バイスプレジデントは、「仮想化技術を発展させて、System z9上でシステムを統合するというIBMの戦略の方が説得力がある。富士通のメインフレーム・ユーザーは、ハイエンドのオープン系にいつ、どのように移行すればいいのか迷っているはず。PRIMEQUESTは基幹系での実績が十分ではなく、総合力について判断が難しい」と分析する。

 富士通自身も「メインフレームをいつIA-64で代替できるのか、答えが出るまでには時間がかかりそうだ。プラットフォームを絞ることも、まだできない」(山中本部長)と揺れる心をのぞかせる。

次の節目は2009年の機能向上

 戦略を固めるまでに、どのように時間を稼ぐかが、富士通にとって大きな課題になってきた。メインフレーム用のCMOSチップとRISCチップを8割まで共通化するなど、延命策は打っているものの、多額の投資を伴うメインフレーム事業の継続は容易ではない。すでに、日立製作所はメインフレームをIBMからのOEM(相手先ブランドによる生産)調達に切り替えた。NECはメインフレーム用のOSをIA-64に移植している。

 日本郵政公社や官公庁、みずほ銀行といった大口ユーザーの更新需要は確実に見込めるが、メインフレームの市場そのものが広がることはない(図)。現在、国内で運用中の富士通のメインフレームは「大型と中型を合わせて約4000台」(豊木本部長代理)。富士通は新機種の販売目標を2008年度末までに約1000台に設定しているが、残り3000台を使い続ける既存ユーザーにどのような選択肢を提示するのかはまだ見えない。

 実は富士通もメインフレームのOSをIA-64に移植する準備を進めている。今年1月には、横浜のソフトウェア部隊を中心にプロジェクトを立ち上げた。ソフトウェア事業本部の堀洋一 本部長代理は「とにかく富士通の責任で、メインフレームのアプリケーションを動かせる環境を提供し続ける」と語る。

 「次にGS21の機能を向上するのは2009年ごろ」(山中本部長)。富士通が明快なロードマップを提示するまで、既存顧客は待つべきなのか。これからの3年間は、ユーザー企業にとっても、大きな意味を持つ。

(市嶋 洋平)