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中堅中小企業の情報化を促進するために創設されたITコーディネータ(ITC)制度が、迷走している。ITC協会は4月、「量を追うよりも質を高める」ことを目的に、認定・資格更新の条件を変更した。しかし現場からは、「むしろ量を増やすもので逆効果」の声が上がっている。


本記事は日経コンピュータ 7月10日号に掲載予定のレポートより、本文のみを抜き出したものです。そのため図や表が割愛されていることをご了承ください。

 「資格更新の“ポイント稼ぎ”に追われて実務が疎かにならないように更新条件を緩和するなど、質を高められるようにした」。ITC協会の下田邦典専務理事は、この4月の制度改定の目的が「量よりも質」であることを強調する。だが、実際の変更内容は、量を増やすことが目的ではないかと言われても仕方がないものだ(表)。

 例えば、ITCの見習いと位置付けていた「ITC補」を廃止した。以前は認定試験に合格するとITC補となり、コンサルティングなどの実務経験を1年以上積んで初めてITCとなった。新制度では、15日間の研修を受ければITCになれる。この4月には、1548人いたITC補を、無条件でITCに格上げした。

 また認定試験では、経営とITの両方の専門知識が必要としていたのを、一方の選択制に変更。資格更新に必要なポイント数も大幅に減らした。特に、3年間で480時間の実務経験が必須だった条件を、報告書の提出だけにしたことは、“看板だけ”のITCを増やしかねない。大手ベンダーでITC取得を支援している担当者は、「今後は、できるITCとできないITCの2極化が進むのではないか」と指摘する。

 さらに公認会計士や税理士、中小企業診断士といった関連資格保持者に対する“優遇”も追加した。試験の一部を免除するだけでなく、更新ポイントを毎年6ポイント付与する。

 そもそも、2001年に経済産業省がITC制度を創設したのは、経営とITの両方に精通した人材を認定し、中堅中小企業の経営者が情報化に関する相談をしやすくするためだった。実務経験や継続学習といった高いハードルを毎年クリアしないと資格を維持できない。情報処理技術者のような永久資格とは一線を画す制度である。

 それだけに当初は注目を集めたものの、今ではITC有資格者の約65%を輩出するインテグレータでも、社員のITC取得に消極的だ。売上高上位20社に対して本誌が聞き取り調査をした結果、ほとんどの企業が、「この1年で人数はあまり増えていない」とする。「ビジネスに結びつけにくい」との声もあり、実際に、認定者は伸び悩んでいる。協会が正式に公表しているITC有資格者は6685人だが、これは資格取得者の累積。「毎年、1割は資格を更新しない」(下田専務理事)ことから計算すると、現在の認定者は約5100人と、制度創設時に掲げた「2005年度に1万人」の約半分である。協会も「大体、その程度」(広報)と認める。

 ある協会関係者は、「ある程度の規模を確保しないと影響力が薄れる」と本音を漏らす。しかし、量を確保しても質が落ちれば本末転倒だ。ITC制度がうまく機能すれば、ベンダーにもメリットはある。昨年までは100人だったITCを1年で350人にまで増やした富士ゼロックスは、「資格取得を社員の学習意欲向上に活用している」。“経営とITのプロ”というITCへの期待と、実態がかい離しないための施策が求められている。

(目次 康男、井上 英明)