停滞感のあったグループウエア市場が今、動いている。主要な製品の新版が相次いで登場しつつあり、ユーザー企業は従来使ってきた製品を継続するか、他製品に切り替えるか、選択を迫られている。既存製品はどれも一長一短があり、「替えたい」と考える企業は少なくない。ただし情報共有を担うグループウエアは、今や「止めてはいけないシステム」の最右翼。それだけに慎重な判断が必要になる。

(安藤 正芳)


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 「今のペースで行くと、2006年通期のグループウエア・ユーザー数シェアで、当社製品が日本IBMのNotesを抜き、トップになるはずだ。もっともNotesユーザーを移行させる狙いで作ったコンバート用ソフトはほとんど使っていない」(サイボウズの青野慶久社長)。

図1●主なグループウエア製品の進化
 「もうNotesは怖くない。実際、最近の競合で負けたことがない。把握しているだけでも、2007年度に100社以上の企業がNotesからマイクロソフト製品へ切り替えようとしている。実際にはこの10倍ぐらいの企業が切り替えを検討しているのではないか」(マイクロソフトのインフォメーションワーカービジネス本部の藤縄智春マネージャ)。

 「文書を軸にした情報共有の機能について言えば、Notesは依然として他社製品を圧倒しており、競合にはならない。ロータスブランドのソフトウエア事業の売り上げはここ数年順調に伸び続けている」(日本IBMの澤田千尋ソフトウェア事業ロータス事業部長)。

 グループウエア製品を開発・販売している大手3社の責任者を取材すると、発言の矛盾にいささか面食らう。サイボウズやマイクロソフトの言う通りなら、Notesユーザーは草刈り場になっていそうだが、そのようなことはないと日本IBMは否定する。誰かが嘘を言っているのか。全員が真実を語っているなら、なぜ矛盾するのか。

 グループウエアを利用する企業、販売する企業、開発する企業をまわって検証してみると、二つの事実が浮かび上がってくる。

「グループウエアは使われていない」

 グループウエア市場を巡る事実の第一は、「グループウエア製品を導入した企業が本格的に使っているとは限らない」ということである。サイボウズの青野社長は次のように指摘する。

 「営業で企業を訪問すると、NotesかExchange Serverなど、何らかのグループウエア製品がすでに入っている。ところが利用画面を見せていただくとスケジュールは真っ白、ワークフロー処理などアプリケーションの作り込みは一切なし、使うのは電子メールと掲示板だけ、という企業が案外多い。こうした企業が当社の製品を入れる場合、それまで使っていた他社製品をすっぱり廃棄してしまう。だからコンバート用ソフトを使う必要がない」。

 創業当時のサイボウズは、Webからダウンロードできる安価・簡易なグループウエア製品を出し、大企業の部門や関連会社、中堅・中小企業に切り込んでいった。当初はグループウエアを導入していない企業を中心に販売してきたが、大企業向けという位置付けの製品「ガルーン」を出荷した2002年9月から、他社のグループウエアを使っている企業に営業攻勢をかけ始めた。

図2●グループウエア勢力図
 Notes上のソフト資産を引き継ぐためのコンバート用ソフトを勇んで用意したものの、「使う必要がない案件ばかり。これほどグループウエアは使われていなかったのか、と拍子抜けした」(青野社長)。ただし、万単位の利用者を抱える大企業の場合は、それなりのアプリケーションをグループウエアの上に作り込んでいることが多い。コンバート作業なしで製品を売り込めるという事実は、サイボウズが大手企業の中核にまだ製品を売り込めていないことを示す。Notesとサイボウズが本格的にぶつかるとすれば、むしろこれからなのである(図2)。

「ExchangeはNotes対抗にあらず」

 一方、マイクロソフトがグループウエア製品Exchange Serverを使った、Notes乗り換えキャンペーンを大々的に始めてから4年。今年4月から、マイクロソフトは新しいNotes乗り換えキャンペーンを始めている。「狙った市場を制圧するまで戦闘を止めない」と評されるマイクロソフトならではのやり方だ。今回は、これまでNotesを使ったビジネスを展開していたインテグレータを巻き込んだ点が特徴という。

 ただし、NotesからExchangeにリプレースしたとされている事例を調べると、Notesのメール部分のみの切り替えであったりする。「ExchangeはNotes対抗になり得なかった」。これがグループウエア市場第二の事実である。

 すでにマイクロソフトは2001年から、企業内ポータル構築を支援するため「SharePoint Portal Server 2001」という別製品を出荷し、情報共有機能をSharePoint で、メールとスケジュール共有機能をExchangeで、それぞれ提供するようにした。これは、Exchangeが登場当初に喧伝された通りのNotes対抗製品になり得なかったことを示すものだ。

 2003年にNotesの切り替えを決めた三菱東京UFJ銀行(当時は東京三菱銀行)の事例を検証してみよう。都市銀行や地方銀行におけるNotesのシェアは非常に高いだけに、同行の「Notes切り替え」は銀行界にインパクトを与えた。

 しかし三菱東京UFJ銀行の事例を調べてみると、Notes離れとは言えても、Exchangeへ移行したとは言い難い。同行はNotes一本槍をやめ、Notes、Exchange、Webアプリケーションなどの混在環境に移行した。全体をまとめるポータルを構築するためにIBMのポータル開発・実行ミドルウエア「WebSphere Portal」を導入、ポータルにExchangeやWebアプリケーション、Notesアプリケーションを接続する形をとっている。

 Notesのメール機能はExchangeに切り替え、Notesアプリケーションの多くはWebなどで作り直した。一部のNotesアプリケーションを継続利用しているほか、短期間で動かす必要があるアプリケーションをNotes上で新規開発することもある。

 Notesの切り替えを決め、このほどExchange ServerとSharePoint Portal Serverを導入したサッポロビールは「Notesアプリケーションで処理していた業務をマイクロソフト製品上に100%移行できない」(サッポロビールの経営戦略本部の中村和彦主任)とみている。移行対象になっているのは、営業担当者が利用する受注システム、在庫管理システム、ワークフロー管理、メールや掲示板など。メールと掲示板はExchangeに移し、SharePointでポータルを構築するが、アプリケーションやワークフロー管理の移行先として、マイクロソフト以外の製品を検討している。

 このようにNotesからマイクロソフト製品へのリプレース範囲は、メールと掲示板、スケジュール共有機能に限定されているといえる。Notesの掲げる「ワークフローに沿った文書管理とコラボレーション機能」は代替できておらず、ユーザー企業はむしろWebアプリケーションに向かっている。

 マイクロソフト自身、自社製品だけでNotesを攻める限界に気付いており、4月から始めたキャンペーンにおいては、「ユーザーが専門性の高いアプリケーションを組み合わせることを望んでいるので、Windows Server上で動作するサード・パーティ製のワークフロー管理ソフトへ移行することも推奨する」(藤縄マネージャ)。

 もっともマイクロソフトは「the 2007 Microsoft Office systemの構想に基づいて2007年に出す一連の製品群で、Notesを代替できる」(藤縄マネージャ)とも言う。この言葉通りの製品を出せれば、今度こそ、Notesとの全面対決が始まる。


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