低コスト、短期開発がシステム構築の主流になるなかで、10年超あるいはそれに近い期間をかけて構築してきたシステムが最近、相次いで稼働した。近鉄エクスプレスの貨物追跡システムや、日本スポーツ振興センターの「totoシステム」、農林中央金庫の共同化センターなどである。
これら“10年プロジェクト”はいずれも、日本全国あるいは全世界にまたがる大規模システムだ。途中、システム再構築やプロジェクト推進体制の立て直しなど、中断の危機に直面している。
近鉄、toto、農林中金の三つの“10年プロジェクト”から、プロジェクトが危機に陥っていく原因と、それを乗り越えるためのリカバリ策を探る。

(戸川 尚樹、市嶋 洋平、福田 崇男)


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近鉄エクスプレス
基幹システムの世界統一に10年
-日本独自の業務プロセスが足かせに-

 「全世界の顧客に対し、貨物追跡データや当社倉庫で預かっている品物の入出庫データなどをリアルタイムに提供できるようになった。今後の成長に不可欠なシステムがようやく出来上がった」。

 国際航空貨物運輸大手の近鉄エクスプレスのCIO(最高情報責任者)である牛尾榮治取締役情報システム部長は、安堵の表情を浮かべる。

 近鉄エクスプレスはこの5月、世界統一の新基幹システムを全面稼働させた。それまで日本や米国、ドイツ、ベルギーなど15の国や地域でバラバラに開発・運用していたシステムを全面的に見直し、日本と米国の2カ所にあるデータセンターで統合運用する形態に改めた。

 同社が、基幹システムを統一するための「GSP(グローバル・システムズ・プラン)」プロジェクトをスタートさせたのは1997年1月のこと。西暦2000年問題に対応したいこともあり、当初は99年末までを目標にした。にもかわらず、GSPプロジェクトで描いたシステムが完成したのは今年。全面稼働までに約10年を投じたことになる(図1)。

図1●近鉄エクスプレスの基幹システム刷新プロジェクトのスケジュール

米国人主導でシステム統一を狙う

 GSPプロジェクトが“10年プロジェクト”になった最大の要因は、グローバルを意識しすぎた余り、プロジェクトの主導権を日本本社ではなく、米国に97年10月に設立したシステム子会社「KGIT」に委ねすぎたためだ。

 KGITは、米国物流会社のIT部門出身者をスカウトして設立した会社。牛尾取締役は、KGIT設立の理由を、「システムを全世界で統一するには、グローバルに最適なシステムを企画・開発できる人材が必要だと考えた。そんな人材を捜していたら丁度、よい人材が見つかった」と話す。当初、数人でスタートしたKGITは現在、50人体制の会社になっている。

 近鉄エクスプレスにとって、GSPプロジェクトで描いたシステムは、激化する顧客獲得競争を勝ち抜くためには絶対に必要な経営ツールだ。同社の主要顧客であるパソコンやパソコン・サーバーのメーカー、あるいは部品メーカーは、「製品や部材の配送状況と、到着までにかかる日数を詳しく知りたい」との要望を強めている。ハイテク企業は、配送状況を把握するための情報を提供できるかどうかで、最適な物流パートナを選び始めていた。

 にもかからず当時の近鉄エクスプレスは、こうした要望に手を焼いていた。「システムが国ごとに分かれていたため、個々のシステムが持つデータや伝票などを手がかりに、配送計画や実績に関するデータを、人海戦術で作成するし、ハイテク企業に提供するしかなかった」(牛尾取締役)からである。

 折りしものSCM(サプライチェーン管理)ブームもあり、米フェデックスや米UPSといった競合会社は先行して、集荷から到着に至る荷物の配送状況をインターネットで顧客に開示する「貨物追跡サービス」を始めていた。

 国別のシステムが足かせとなり、近鉄エクスプレスは苦戦を強いられた。牛尾取締役は、「当時は『グローバルなシステム・インフラを整備していない御社からは、我々が求める物流業務データを得られない。そんな状況では組めない』と告げられ、取引できなくなったケースもある」と打ち明ける。

 グローバルに追い着け・追い越せとの焦りがあるばかりに、米国物流会社出身者が集まるKGITに全面的に依存する形になっていったわけだ。


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