サーバー、ストレージ、ネットワークといったシステム資源(リソース)を一つの「プール」のように仮想化し、必要なときに必要なだけ自動的に使う――。こうしたITインフラストラクチャが今、現実になりつつある。大手ITベンダーやベンチャー企業の取り組みを報告する。

(矢口 竜太郎)


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ10月2日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集2」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 「今、全世界で収穫される米粒の数よりも、トランジスタのほうが多く、しかも安く生産されている」。日本IBMの岩野和生ソフトウェア開発研究所所長は最近こうした“トリビア”をよく講演で語る。その意味するところは「増加し続けるコンピュータを今後も人間が管理していくのは限界がある」ということ。それは企業システムでも同じである。

 サーバー、ストレージ、ネットワーク機器で構成する企業のITインフラストラクチャは、どんどん複雑になっている。管理の手間が増えるだけでなく、障害時の原因究明や復旧作業にも支障を来す。ピーク負荷が読めないアプリケーションには、過剰なシステム資源(リソース)を配分しがちだ。

 こうした問題を解決するために、NEC、日本IBM、日本ヒューレット・パッカード(HP)、日立製作所、富士通といった大手ベンダーや米国のベンチャー企業が次世代インフラの実現を目指している。最近では、日本HPが今年6月に次世代インフラのコンセプト「Adaptive Infrastructure」を発表、NECも7月、同様のコンセプトである「REAL IT PLATFORM」を提唱した。

図1●「リソース・プール」の概念。複数データセンターのサーバー、ストレージ、ネットワークのリソース(資源)を共有しておき、必要な分だけアプリケーションに割り当てる
 各社の次世代インフラの中核は、すべてのシステム資源を仮想的に共有する「リソース・プール」という概念だ。リソース・プールは、サーバー、ストレージ、ネットワークというシステム資源を複数のデータセンターにまたがって共有し、必要なときに必要なだけ、アプリケーションに資源を割り振るというもの。システム資源を1カ所にためてあるかのように管理することからリソース・プールと呼ぶ(図1)。

キーワードは「仮想」と「自律」

 リソース・プールを実現するために必要となるのが、「仮想化」と「自律制御」である。仮想化は、実際にアプリケーションに割り当てるサーバーやストレージ製品が、どのメーカー製であるかを意識しなくてもすむようにする。

 現在、仮想化技術というと、仮想マシン(VM)を利用して、サーバーを複数のパーティションに分割する「サーバーの仮想化」を指すことが多い。しかし、「サーバーの仮想化は、ITインフラ全体の仮想化の一部であり、第一歩にすぎない。ITインフラ全体の最適化は、ストレージやネットワークを含めたアーキテクチャや管理体系などを整えること」と日本IBM先進システム事業部の三崎文敬事業企画部長は違いを語る。

 もう一つの自律制御は、システムに何か問題が発生すると、システムが自ら最適な状態へ自動的に調整すること。例えば、あるWebサーバーへのアクセス件数が一定量を超えたら、Webサーバーを自動的に1台追加する、といったことができる。

 自律制御を可能にするには、サーバー、ストレージ、ネットワークの状況を監視する機能、どのような状況になったらどんな制御が必要かを示した「ポリシー」およびそれを管理する機能、設定したポリシーに従って実際にシステム資源を操作する機能のすべてが必要だ。各ベンダーは、これらの機能を運用管理ソフトで実現する。

ビジネスの変化に追従

 リソース・プールを実現する次世代インフラは、大きく三つのメリットを持つ。一つはシステムの複雑性を隠ぺいできること。物理的なシステム資源を意識しなくてすむため、ITインフラの変更が容易になる。調査会社の米IDCで企業システムを担当するバーノン・ターナー バイスプレジデントは「2015年までに、企業システムはダイナミック(動的)な存在に変わる。今までのように、アプリケーションに対し、システム資源を個別に割り当てていてはビジネスのスピードについていけない」と指摘する。

 第二に、余計なシステム資源を購入しなくてすむ。これまでのインフラ設計では、ピーク時に必要な資源をあらかじめ用意しておくことが普通だった。しかし、「リソース・プールならシステム資源を融通できるのでその必要がない」(日本ヒューレット・パッカードの松本芳武エンタープライズ ストレージ・サーバ統括本部長)。第三のメリットは、自律制御による運用の手間の軽減である。

 現在、リソース・プールを実現するためのアプローチは二つある。一つは既存の資産を生かし、異なるベンダーの運用管理ソフトをつなぐ方法だ。しかし、インテグレーション作業が必要になる。「IBM製品でそろえるなら、リソース・プールを比較的容易に実現できるが、異なるベンダーの機器が混在する場合そのままでは接続できない」(日本IBM システムズ・エンジニアリングの濱田正彦シニアITアーキテクト)。異なるベンダー同士の管理ツールを連携させたり、他社製のシステム資源を管理するための標準化がまだ万全ではないためだ。

 もう一つのアプローチは、IAサーバーに統一してしまうこと。現在、IAサーバーでリソース・プールを実現するソフト製品が続々と登場している。これらの製品を使えば、IAサーバーに限られるものの、異なるベンダーの製品でリソース・プールを実現できる。

 ハードウエア、ミドルウエア製品における、仮想化や自律制御の機能強化は「米IBMがオートノミック・コンピューティングを提唱し始めた、2001年ころから始まった」(ガートナージャパンの亦賀忠明バイス プレジデント)。その後1~2年の間で各社は、サーバーやストレージなど個々の製品に仮想機能や自律制御機能を持たせた。「ここにきて各社は個別製品の機能強化を終え、インフラ全体の仮想化や自律制御を進める段階にいたった」(同)。


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